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第250話

 

【物語は10年前ダンジョンが現れる当日に戻る】

【ダンジョンが現れて2週間経過】


 スレッドタイトル:【愚痴】ドロップ品没収とか、マジでやってらんねえ【一時金10万】 Part. 28


 1: 名無しの最初の戦士

 スレ立て、乙。

 はぁ…。今日の稼ぎ、これだぜ。


[画像:一枚の紫色のF級魔石と、いくつかのゴブリンの耳。そしてギルドから発行された、『一時金支給証明書:100,000 JPY』という無機質なテキストが書かれた、ARウィンドウのスクリーンショット]


 2: 名無しの最初の魔術師


 1

 乙。お前もか。

 俺もだ。今日は、結構当たりだったんだぞ。【火の矢】のスキルジェムと、あとノーマル等級のワンドを拾った。

 だが、ゲートを出た瞬間、ギルドの職員に全部取り上げられた。

 代わりに渡されたのが、この10万円だ。

 ふざけてるだろ、マジで。


 3: 名無しの最初の盗賊


 2

 分かる。

 俺なんか、移動速度が5%上がるマジック等級のブーツを拾ったんだぞ!

 俺の盗賊ビルドにとって、まさに神ドロップだったのに…。

 それも、問答無用で没収だ。

「国の研究のために必要です」だとよ。

 知ったことかよ。


 名無しのゲーマー

 まあまあ、お前ら落ち着けって。

 しょうがねえだろ。まだ、黎明期なんだから。

 国だって、手探りなんだよ。

 ドロップ品を研究して、この世界のルールを解き明かそうとしてるんだ。

 そのための、必要経費だと思えよ。


 5: 名無しの社畜


 4

 綺麗事言ってんじゃねえよ。

 こっちは、会社辞めて人生賭けてんだぞ。

 一時金10万じゃ、家賃払ったらもうほとんど残らねえ。

 これじゃ、いつまで経ってもF級から抜け出せねえじゃねえか。


 そのあまりにもリアルな、そして切実な叫び。

 スレッドは、冒険者たちの政府に対する不満と、そして先の見えない未来への不安で、溢れかえっていた。

 そう。

 ドロップ品は、全て没収。

 その代わりとして、一日ダンジョンに潜れば、一律で10万円が支給される。

 それが、この黎明期に政府が打ち出した、あまりにも不器用な、しかし唯一のルールだった。

 だが、その不満だらけのテーブルの上で。

 プレイヤーたちは、彼らなりの「抜け道」を見つけ出していた。


 121: 名無しの最初の戦士

 …まあ、愚痴っててもしょうがねえか。

 見てみろよ、これ。


[画像:一体のゴブリンを、その手に持ったドロップ品の鉄の剣で斬り伏せている、プレイヤーの一人称視点のスクリーンショット]


 123: 名無しのゲーマー


 121

 おお!それ、ゴブリンソードじゃねえか!

 ちゃんと、使ってんのな!


 125: 名無しの最初の戦士


 123

 当たり前だろ。

 ゲートの外に持ち出せねえなら、中で使えばいいだけの話だ。

 俺は、もう鉄パイプは卒業した。

 今は、このゴブリンソードとゴブリンシールド、ゴブリンアーマー一式で戦ってる。

 これだけでも、生存率マジで変わるぞ。


 128: 名無しの最初の魔術師


 125

 分かる。

 俺も、拾ったワンドとローブを装備してる。

 MPの最大値が、少しだけ上がった。

 火の矢が、一発多く撃てる。

 この差は、デカい。


 そのあまりにもたくましい、プレイヤーたちの知恵。

 それに、スレッドの空気が少しだけ前向きなものへと変わっていった。

 そうだ。

 ルールが理不損なら、そのルールの裏をかけばいい。

 それこそが、ゲーマーの、そしてギャンブラーの本質だ。

 彼らは、その日、その瞬間にしか使えない刹那的な力をその身にまとい、果敢に、そしてどこか楽しそうに戦っていた。


 その退屈な、しかし確実な日常。

 それが、永遠に続くかと思われた、その時だった。

 スレッドに、一つのあまりにも唐突な、そして世界を揺るがす速報が投下された。


 512: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ニュース!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 見ろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 今すぐ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 そのあまりにも切羽詰まった絶叫。

 それに、スレッドの空気が一瞬で凍りついた。

『は!?』『なんだ、今度は!?』『まさか、ゲートが消えるのか!?』

 その困惑の渦の中で。

 続々と、同じような絶叫がスレッドに投下され始めた。

 そして、一人のユーザーが、その衝撃のニュースのヘッドラインを書き込んだ。


 521: 名無しのまとめ職人

【速報】F級ダンジョン【ゴブリンの洞窟】、世界で初めてボスが討伐される


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 そして、次の瞬間。

 スレッドは、爆発した。


『は!?』

『ボス!?いたのかよ、そんなの!』

『誰が!?誰が倒したんだよ!』


 その問いかけに答えるかのように。

 ニュース映像のスクリーンショットが、アップロードされた。

 そこに映し出されていたのは、一人の名もなき、しかしその瞳に絶対的な自信を宿したアメリカ人の青年の姿だった。

 彼の足元には、ひときわ巨大なゴブリンの王の、光の粒子となって消えゆく亡骸が転がっている。

【ゴブリン・キング】。

 世界で初めて、その存在が確認された瞬間だった。


 だが、衝撃はそれだけでは終わらない。

 そのニュースが、世界中を駆け巡ったその直後。

 日本とアメリカの政府が、再び共同で緊急の声明を発表したのだ。


『F級ダンジョンのマスターの討伐を確認。これに呼応するかのように、東京とアメリカの各所に、新たなダンジョンゲートの出現を確認しました』


 そのあまりにもゲーム的な展開。

 それに、スレッドはもはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。


 633: 名無しのゲーマー

 マジかよ!

 ゲームみたいに、難易度が上がる奴だ、これ!

 F級の次!

 E級、来たー!


 638: 名無しのビルド考察家

 面白い!

 実に面白いぞ、この世界は!

 つまり、我々は常に新たなテーブルへと挑戦し続けなければならないということか!

 最高じゃねえか!


 645: 名無しの選ばれし者

 おい!

 今、鑑定スキル持ちの仲間が、新しいゲートを見てきた!

 間違いない!

 今までのゲートは、『F級ダンジョンゲート』って表示されてたが、新しいやつは、『E級ダンジョンゲート』って出てる!

 どんどん、難易度が上がるぞ、これ!

 予想される!


 そのあまりにも的確な、そしてどこまでも希望に満ちた報告。

 それに、スレッドの全ての住人が歓喜した。

 退屈な日常は、終わった。

 新たな冒険の始まりだ。


 早速、E級ダンジョンへの探索も進められていった。

 そして、その混沌の中から、またしても一つの世界を変える「発見」がもたらされた。


 811: 名無しの最初のクラフター

 …おい、お前ら。

 ちょっと、ヤバいもんを拾ったかもしれん。

 いや、ヤバいというか、マジで意味が分からん。


[画像:薄暗い洞窟の床に置かれた、手のひらサイズの、しかしスキルジェムとは違う淡い青色の光を放つ小さな宝石]


 鑑定しても、『変質のオーブ』としか出ない。

 スキルジェムのように、魂にセットしようとしてもできない。

 一体、どうやって使うんだ、これは…?


 その新たな謎。

 それに、スレッドの猛者たちが、その叡智を結集させ始めた。

 そして、その答えにたどり着いたのは、一人の名もなき、しかし天才的な発想力を持つゲーマーだった。


 838: 名無しのゲーマー

 …なあ、お前ら。

 さっき、戦士が言ってたろ。

『俺はもう鉄パイプは卒業した。今はこのゴブリンソードで戦ってる』って。

 あれ、ノーマル等級の、何の能力も付いてないただの鉄の剣だ。

 だが、もし。

 もし、このオーブをその剣に使ったらどうなる?

『変質』だぞ?

 もしかして…。


 そのあまりにも核心を突いた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が息を呑んだ。

 そして、その仮説を証明するために。

 一人の勇者が、名乗りを上げた。


 845: 名無しの最初のクラフター

 …分かった。

 俺が、試してみる。

 俺が拾ったのは、【変質のオーブ】と、何の能力も付いてない、ただの【革のベルト】だ。

 この二つを、組み合わせてみる。

 どうなるか分からんが…。

 吉と出るか、凶と出るか。

 見ててくれ。


 そのあまりにも勇敢な宣言。

 スレッドは、再び静まり返った。

 そして、数分後。

 彼からの報告が、投下された。

 その内容は、もはや人間の理解を超えていた。


 851: 名無しの最初のクラフター

 …………………………………

 ………………………………………………

 ………………………………………………………………

 …なんだ、これ…


 860: 名無しの最初のクラフター

 …付いた。

 能力が、付いたんだよ。

 この、ただの革のベルトに。

『最大HP+10』って。

 マジックアイテムに、なったんだ。

 俺の手で…。


 そのあまりにも衝撃的な事実。

 それに、スレッドは本当の意味での「爆発」を起こした。

 クラフト用オーブ。

 自分たちで、ノーマル装備をマジックにできる。

 その無限の可能性の扉が、開かれた瞬間だった。

 祭りは、もはや誰にも止められない。

 その熱狂の渦の中で。

 誰もが、確信していた。

 俺たちの冒険は、まだ始まったばかりなのだと。



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