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第248話

 

【物語は10年前ダンジョンが現れる当日に戻る】

【ダンジョンが現れて1週間経過】


 スレッドタイトル:【祝】スキルジェム実装!俺たちの冒険はここからだ!【ビルド考察】 Part.4


 1: 名無しのビルド考察家

 スレ立て、乙。

 いやー、マジでヤバいな、この世界。

 昨日の夜から、ほとんど一睡もしてない。

 スキルジェムとサポートジェムの組み合わせを考えてたら、朝になってた。

 お前ら、何か面白いコンボ見つけたか?


 2: 名無しの最初の魔術師


 1

 乙。俺はさっき、【火の矢】に【連鎖】っていうサポートジェムをリンクさせてみた。

 そしたらどうだ。

 一体のゴブリンに当たった火の矢が、その隣にいた別のゴブリンに、連鎖して飛んでいきやがった。

 これ、敵が密集してれば最強じゃね…?


 3: 名無しの最初の盗賊


 2

 マジかよ!

 俺も、【二連撃】っていうスキルジェムに、【速度増加】のサポートを付けたら、もう目で追えねえくらいの速度でダガーを振れるようになったぜ!

 脳汁、ヤバい!


 4: 名無しの最初の戦士


 3

 いいなあ、お前ら…。

 俺の【ヘビーストライク】は、ただのポカ殴りだぞ…。


 5: 名無しのゲーマー

 wwwwwwwwwww

 お前ら、完全に新しいゲームのアーリーアクセスを楽しんでるガチ勢の動きなんだよなwwwwww

 俺も、早くそのテーブルに着きてえ!


 そのあまりにも平和な、しかしどこまでもこの世界の黎明期を象徴するかのような会話。

 誰もが、この狂乱の祭りが永遠に続くと信じて疑わなかった。

 だが、そのあまりにも無邪気で、そしてどこまでも無秩序なゴールドラッシュの時代。

 それに、ついに世界の「大人」たちが、その重い口を開いた。

 その最初の書き込みが投下されたのは、正午を少し回ったその時だった。


 512: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 テレビ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 つけろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 今すぐ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 そのあまりにも切羽詰まった絶叫。

 それに、スレッドの空気が一瞬で凍りついた。

『は!?』『なんだ、今度は!?』『テロか!?』

 その困惑の渦の中で。

 続々と、同じような絶叫がスレッドに投下され始めた。


 515: 名無しの実況民B

 マジだ…。

 NHKが、緊急特番始めたぞ…。

 首相官邸から、生中継だ…。

 これ、マジでヤバいやつだ…。


 521: 名無しの現実主義者

 …終わったな。

 俺たちの、短い夏休みは。

 国が、動いた。

 間違いなく、ゲートは封鎖される。

 そして、俺たちは逮捕だ。


 そのあまりにも絶望的な、そしてどこまでも説得力のある予測。

 それに、スレッドは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

『嘘だろ!?』『やめてくれ!』『俺、まだレベル3なんだぞ!』

 その悲痛な叫び。

 だが、その絶望の淵で。

 テレビの画面に映し出された光景。

 そして、そこから発せられた言葉。

 それは、彼らの全ての予想を完全に裏切るものだった。


 ◇


【首相官邸 - 緊急記者会見場】


 そこは、異様なまでの静寂と熱気に包まれていた。

 国内外の、何百という報道陣。

 その無数の、カメラのフラッシュ。

 そして、その光の洪水の中心で。

 当時の日本の内閣総理大臣が、その厳粛な面持ちでマイクの前に立っていた。

 彼の背後の巨大なモニターには、日本の国旗と、そしてアメリカの星条旗が並んで映し出されている。


「――国民の皆様」


 総理のその低い、しかしどこまでもよく通る声が、日本中に、そして世界中に響き渡った。


「本日ここに、我が国日本政府、並びに同盟国であるアメリカ合衆国政府は、共同で一つの歴史的な声明を発表いたします」

 彼は、そこで一度言葉を切った。

 そして彼は、その世界の理を再定義する言葉を告げた。


「まず、結論から申し上げます。

 現在、東京の各所に出現している謎の空間の歪み…通称『ゲート』、あるいは『ダンジョン』と呼ばれる現象。

 その存在を、我が国政府は公式に公表いたします」


 そのあまりにもあっさりと、しかしどこまでも重い一言。

 それに、会見場がどよめいた。

 だが、総理はそのどよめきを手で制すると、静かに続けた。


「そして、その内部から出現する未知の生命体…いわゆる『モンスター』。

 彼らからドロップする特殊な鉱物…『魔石』。

 その驚くべき効果についても、ここに公表いたします」

「さらに、モンスターのドロップ品である武器、防具、そして我々の常識を超えた奇跡の霊薬『フラスコ』、空間を転移する『ポータルスクロール』。その全ての存在を、政府として認めます」


 そのあまりにも衝撃的な情報の連続。

 会見場は、もはやパニック状態だった。

 だが、総理の本当の「爆弾」はここからだった。


「これらの未知なる現象。

 その全てを解明し、そして人類の未来のために有効に活用するため。

 我々日米両政府は、本日より一週間の間、全てのダンジョンゲートを我々の厳重な管理下に置き、その内部で徹底的な実験と調査を行うことを、ここに公表いたします」


 その宣言。

 それが、2chのスレッドに投下された瞬間。

 祭りは、終わった。

 誰もが、思った。

 ああ、やはり俺たちの楽園は奪われるのだと。

 だが、その絶望の淵で。

 総リは、最後の、そして最も重要な言葉を告げた。

 その言葉こそが、この国の、そしてこの世界の未来を決定づけた。


「――そして、その一週間の調査期間が終わった後」

 彼は、カメラの向こう側の全ての国民に、そして世界の全ての人々に語りかけるように言った。

 その声には、揺るぎない覚悟が宿っていた。


「我々は、ダンジョンを再び一般に開放いたします」

「これは、アメリカ政府との同時発表であり、我々両政府の連携の結果として下された決断です」

「我々は、信じている。この新たな時代のフロンティアを切り拓くのは、政府や軍隊だけではない。全ての国民一人一人の、勇気と知恵であると」


 そのあまりにも壮大な、そしてどこまでも希望に満ちた宣言。

 それに、2chのスレッドは三度、その価値観を破壊された。

 絶望は、一瞬で歓喜へと変わった。

 そして、その歓喜は、やがて一つの巨大な確信へとその姿を変えていく。


 888: 名無しのゲーマー

 …おい、お前ら。

 分かったぞ。

 俺、分かっちまった。

 政府が、なぜこんな決断をしたのか。

 なぜ、俺たち民間にこの宝の山を解放するのか。


 891: 名無しの最初の戦士


 888

 どういうことだ…?


 895: 名無しのゲーマー


 891

 決まってんだろ。

「奇跡の一週間」。

 この一週間で、政府も軍隊も気づいたんだよ。

 この「ダンジョン」という名の新しいゲームが。

 自分たちの手には負えないってな。

 だから、俺たち「プレイヤー」に丸投げしたんだ。

 このクソみてえに難しくて、そしてどこまでも面白いゲームの攻略をな。


 そのあまりにも本質を突いた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が納得した。

 そして、彼らの心の中に、一つの新たな、そしてどこまでも誇らしい感情が芽生えていた。

 俺たちは、選ばれたのだと。

 この新しい時代の、開拓者として。

 祭りは、まだ終わらない。

 いや、本当の祭りは、ここから始まるのだ。

 一週間の後。

 その約束の日に。

 スレッドは、その来るべきXデーへの期待と、そして緻密な攻略情報の交換で埋め尽くされていく。

 彼らの熱狂は、もはや誰にも止められない。



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