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第247話

【物語は10年前ダンジョンが現れる当日に戻る】

【ダンジョンが現れて3時間経過】


 スレッドタイトル:【速報】レベルアップでクラスが選べるらしいぞ!【転職:俺】 Part.8


 1: 名無しの最初の戦士

 スレ立て、乙。

 いやー、マジでヤバいな、この世界。

 さっきまで、ただのフリーターだった俺が、今や「戦士」だぜ?

 パッシブツリーで、近接物理ダメージ+12%ってやつに1ポイント振ってみたんだが、マジで火力が上がってる。

 ゴブリンが、鉄パイプで殴って3発で沈むようになった。

 これ、完全に俺の時代だわ。


 2: 名無しの最初の魔術師


 1

 分かる。

 俺も、パッシブの最大MP上昇ってやつに振ってみた。

 そしたら、今まで5発しか撃てなかった【火の矢】が、6発撃てるようになった。

 たった1発。だが、この1発の差が、生死を分けるんだよな、きっと。


 名無しのゲーマー

 うおお、お前ら、もうパッシブまで使いこなし始めてるのかよ!

 仕事早すぎだろ!

 俺も、早くゲートに突入してえ!

 今、会社のトイレに籠もってスマホで見てるんだが、もう限界だ!

 仮病使って、早退してくる!


 名無しの社畜


 3

 やめとけ。絶対に、やめとけ。

 明日、社会的に死ぬぞ。


 そのあまりにも平和な、しかしどこまでもこの世界の黎明期を象徴するかのような会話。

 だが、その平和な空気は、常に新たな「発見」という名の衝撃波によって、更新され続けていた。

 次に、その衝撃を投下したのは、ダンジョンのより深くまでその歩を進めていた、一人の名もなき盗賊だった。


 211: 名無しの最初の盗賊

 …おい、お前ら。

 ちょっと、ヤバいもんを拾ったかもしれん。

 いや、ヤバいというか、意味が分からん。


 213: 名無しのゲーマー


 211

 なんだ、どうした?

 ついに、ボスでも見つけたか?


 215: 名無しの最初の盗賊


 213

 いや、違う。

 なんか、光る宝石みたいなのを拾ったんだ。

 魔石とは違う。もっと綺麗で、なんか中に文字みてえなのが浮かんでる。


[画像:薄暗い洞窟の床に置かれた、手のひらサイズの赤い宝石。その内部で、炎のようなルーン文字がゆっくりと明滅している]


 218: 名無しの選ばれし者


 215

 鑑定してみろ!

 俺が、見てやる!


 221: 名無しの最初の盗賊


 218

 いや、それが鑑定しても『?』って出るだけで、何も分からんのだ。

 ただ、『スキルジェム』ってカテゴリー名だけは、表示されてる。

 スキルジェム…?

 なんだ、それ?


 そのあまりにも未知なる単語。

 それに、スレッドがざわめいた。

『スキルジェム?』『新しいアイテムか?』『どうやって使うんだ?』

 その困惑の渦の中で。

 一人の、あまりにも行動力のある馬鹿が現れた。

 投稿主は、あの最初の魔術師だった。


 235: 名無しの最初の魔術師

 俺も拾ったぞ、それ。青いやつだ。

 氷の紋様が、浮かんでる。

 で、さっきから色々試してるんだが。

 どうにもならん。

 叩いても、割れない。

 火で炙っても、溶けない。

 舐めても、味がしない。


 238: 名無しのニート(28)


 235

 舐めたのかよwwwwwwwwwwww


 241: 名無しの最初の魔術師


 238

 うるせえな。

 それで、最後にダメ元で、こう強く念じてみたんだよ。

「使え!」ってな。

 そしたらどうだ。

 その宝石、光の粒子になって俺の胸の中に吸い込まれていきやがった!


 245: 名無しの現実主義者


 241

 は!?

 大丈夫か、お前!?

 それ、呪いのアイテムじゃねえのか!?


 248: 名無しの最初の魔術師


 245

 分からん!

 でも、なんか体の調子は悪くない。

 むしろ、力がみなぎってくる感じがする。

 そして、なんか頭の中に新しいアイコンが増えてる。

【氷の矢】って書いてある…。

 …おい、まさかこれ…。


 そのあまりにも劇的な展開。

 それに、スレッドの全ての住人が息を呑んだ。

 そして彼は、その歴史的な一言を投下した。


 255: 名無しの最初の魔術師

 …使ってみる。


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 スレッドの全ての人間が、固唾を飲んでその結果を待っていた。

 やがて、モニターに新たな書き込みが表示された。

 それは、歓喜の絶叫だった。


 258: 名無しの最初の魔術師

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

 出た!出たぞ!

 マジで、氷の矢が出た!

 俺の手から!

 すげええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!


 そのあまりにも純粋な喜びの爆発。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。


『マジかよ!スキルを覚えられるのか!』

『やべえ!やべえよ、この世界!』

『俺も拾いに行く!』


 魂にセットして、MPを消費して使用できるようになる。

 そのあまりにもゲーム的な法則。

 それが、この世界の新たな「常識」として確立された瞬間だった。

 だが、その熱狂の中で。

 まだ誰も気づいてはいなかった。

 本当の「革命」は、ここから始まるのだということに。


 ◇


 祭りは、さらに加速していく。

 スキルジェムの発見から、わずか数時間後。

 スレッドに、またしても新たな、そしてより異質な「宝石」の報告が上がり始めた。


 411: 名無しのビルド考察家

 …おい、お前ら。

 少し落ち着け。

 また、新しいのが出たぞ。

 スキルジェムとは違う。

 もっと、禍々しい何かだ。


 そのあまりにも冷静な、しかしどこか興奮を隠しきれない声。

 それに、スレッドが再びざわめいた。


 415: 名無しのビルド考察家

 これだ。


[画像:スキルジェムと同じくらいの大きさのだが、その形状が不規則で、まるで血の結晶のような深紅の宝石]


 鑑定しても、『サポートジェム』としか出ない。

 スキルジェムのように、魂にセットしようとしてもできない。

 一体、どうやって使うんだ、これは…?


 その新たな謎。

 それに、スレッドの猛者たちが、その叡智を結集させ始めた。

『なんだそれ?』『クラフト用の素材か?』『あるいは、ただのハズレアイテムか?』

 その喧々囂々の議論。

 その混沌の中から、一つの天才的な「閃き」が生まれた。


 438: 名無しのゲーマー

 …なあ、お前ら。

 さっき、魔術師が言ってたろ。

『頭の中に新しいアイコンが増えてる』って。

 俺も、さっきスキルジェム拾ってセットしてみたんだが。

 確かに、増えてる。

 そしてな、そのアイコンの横に。

 なんか、小さな空っぽの「穴」みてえなのがあるんだよ。

 まさかとは、思うが…。


 そのあまりにも核心を突いた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が息を呑んだ。

 そして、その仮説を証明するために。

 一人の勇者が、名乗りを上げた。

 投稿主は、あのビルド考察家だった。


 445: 名無しのビルド考察家

 …分かった。

 俺が、試してみる。

 俺が拾ったのは、【火の矢】のスキルジェムと、【投射物(とうしゃぶつ)増加(ぞうか)】というサポートジェムだ。

 この二つを、リンクさせてみる。

 どうなるか分からんが…。

 吉と出るか、凶と出るか。

 見ててくれ。


 そのあまりにも勇敢な宣言。

 スレッドは、再び静まり返った。

 そして、数分後。

 彼からの報告が、投下された。

 その内容は、もはや人間の理解を超えていた。


 451: 名無しのビルド考察家

 …………………………………

 ………………………………………………

 ………………………………………………………………

 …なんだこれ…


 そのあまりにも意味深な沈黙。

 それに、スレッドが焦れたようにざわめく。

『おい!』『どうしたんだよ!』『早く教えろ!』


 460: 名無しのビルド考察家

 …三本、出た。


 461: 名無しのゲーマー

 は?


 465: 名無しのビルド考察家

 だから、言っただろ。

 三本、出たんだよ。

 火の矢が。

 一度、詠唱しただけで。

 同時に、三方向に扇状に放たれたんだ。

 …分かるか?この意味が。

 俺の単体攻撃魔法が、範囲殲滅魔法に変わったんだよ…。


 そのあまりにも衝撃的な事実。

 それに、スレッドは本当の意味での「爆発」を起こした。

 スキルジェムと、サポートジェム。

 その二つを組み合わせることで、スキルの動作そのものを大きく変える。

 ビルド構築。

 その無限の可能性の扉が、開かれた瞬間だった。

 祭りは、もはや誰にも止められない。

 その熱狂の渦の中で。

 また一つ、新たな、そしてこの過酷な世界を生き抜くための、最後の希望となる「奇跡」が報告された。


 788: 名無しの死にかけの戦士

 …助かった…

 …マジで、助かった…。

 俺、さっき洞窟の一番奥で、なんかデカいゴブリンに囲まれて、もうダメだって思ったんだ…。

 フラスコも尽きて、HPも残り1ミリ。

 だがな、そいつがドロップした一枚のボロボロの巻物。

 そいつを、ヤケクソで破り捨てたら…。

 …俺、今、自分の部屋のベッドの上にいるんだが…。


 そのあまりにも唐突な、しかしどこまでも希望に満ちた一言。

 それに、スレッドは三度、その価値観を破壊された。

 ポータル。

 ダンジョンの外か、自宅かを選んで帰ることができる。

 その絶対的な安全装置の発見。

 それは、この死と隣り合わせの狂ったゲームに、一つの確かな「救済」が存在することを、示していた。



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