第245話
【物語は10年前ダンジョンが現れる当日に戻る】
【ダンジョンが現れて1時間経過】
スレッドタイトル:【緊急速報】東京各所に謎のゲートが出現 Part.5
512: 名無しの実況民A
おいおいおい!嘘だろ!
機動隊、ゲートの中に突入していったぞ!
マジかよ、正気か!?
515: 名無しのミリタリーオタク
512
当然だ。脅威の排除と、内部の状況確認。それが、彼らの仕事だ。
ゲートの向こう側は、我々の世界の物理法則が通用しない可能性がある。
521: 名無しのゲーマー
つまり、どういうことだってばよ?
525: 名無しのミリタリーオタク
521
つまり、ここから先は俺たちの知ってる戦争じゃねえってことだ。
ファンタジーが、始まったんだよ。
そのあまりにも的を射た、そしてどこまでも絶望的な一言。
それに、スレッドは一瞬だけ静まり返った。
だが、その沈黙を破ったのは、一人のあまりにも空気を読まない、しかしこの時代の寵児となるべき男の書き込みだった。
533: 名無しのニート(28)
…なあ、お前ら。
俺、今、渋谷のハチ公前なんだが。
機動隊が突入していった、あのゲート。
なんか、普通に入れるっぽいんだが。
535: 名無しの現実主義者
533
馬鹿野郎!やめとけ!死ぬぞ!
538: 名無しのニート(28)
535
いや、だってさ。
さっき、俺と同じような無職っぽい兄ちゃんが、ふらーって中に入っていったんだよ。
そしたら、警官も機動隊も誰も止めなかった。
てか、止められなかったって感じか。
なんか、見えない壁でもあるみてえに。
一般人は、自由に入れるっぽいぞ、これ。
542: 名無しのゲーマー
マジかよ!
じゃあ、俺も行く!
会社、辞めてくる!
545: 名無しの社畜
542
早まるなwwwwwwwww
そのあまりにも無謀な、しかしどこまでも純粋な冒険者たちの産声。
それを皮切りに、スレッドは新たなステージへとその姿を変えていった。
それは、もはやただの実況スレではない。
最初の、そして最も混沌とした攻略情報交換スレへと。
601: 名無しの最初の戦士
行ってきた。
ゴブリン、倒した。
レベルが、上がった。
そのあまりにも短い、しかしこの世界の歴史を完全に変えた三行。
それに、スレッドが爆発した。
『は!?』
『レベルアップ!?』
『マジかよ!どういうことだ!?』
615: 名無しの最初の戦士
うるせえな。
だから、言った通りだ。
ゲートの中入って、そこにいたゴブリンを、近くに落ちてた鉄パイプで10分くらいポカポカ殴ってたら、倒せた。
そしたら、なんか脳内にファンファーレみてえなのが鳴り響いて、『LEVEL UP!』って文字が出た。
そんだけだ。
なんか、力がみなぎってくる感じがする。
あとなんか、目の前に変なウィンドウが出てる。
621: 名無しのゲーマー
ウィンドウ!?
詳しく!kwsk!
628: 名無しの最初の戦士
ああ、なんか『クラスを選択してください』って出てる。
選択肢は、四つだ。
[1] 戦士
[2] 魔術師
[3] 盗賊
[4] 無職
633: 名無しの週末アニメ評論家
うおおおおおお!
マジかよ!クラス選択!
王道すぎるだろ!最高かよ!
638: 名無しのニート(28)
無職wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
おい、無職選べよwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
どうせ、お前、現実でも無職なんだからよwwwwwwwwwwwwwwwwww
645: 名無しの最初の戦士
638
うるせえな。俺は、フリーターだ。
まあ、でも面白いから選んでみるか。
…いや、待てよ。
なんか、講師みてえなじいさんの声が、頭の中に響いてきてる。
『クラス選択は、慎重に選べ。転生の林檎みてえな神話級のアーティファクトか、あるいは【複数人の人生】持ちでもなけりゃ、気軽に変更はできんぞ』だとよ。
…【複数人の人生】って、なんだよ。
651: 名無しのゲーマー
本格的に、ゲームの世界だな、これ。
ベタに行くなら、戦士で良くないか?
一番、死ななそうだし。
655: 名無しの最初の戦士
651
だよな。
よし、じゃあ戦士選んでみるわ。
ポチッとな。
…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
なんだこれ!力が、マジでみなぎってくる!
さっきまで、あんなに重かった鉄パイプが、木の棒みてえに軽い!
これなら、ゴブリンもう一体くらい、余裕でいけるぞ!
戦士、クソ強いぞ、お前ら!
そのあまりにもリアルな、そして興奮に満ちたレポート。
それが、引き金となった。
スレッドの住人たちの、最後の理性の箍が外れた。
『俺も行く!』
『会社サボって、新宿行くわ!』
『大学、休講になんねえかな…』
日本中の若者たちが、その日常を投げ打ち、あるいはサボり、そしてその未知なるゲートへと、吸い寄せられるように集い始めた。
それは、まさにゴールドラッシュ。
あるいは、人類史上最も愚かで、そして最も美しい集団自殺の始まりだったのかもしれない。
スレッドは、続々とダンジョンへと突入していく新たなプレイヤーたちの実況で、埋め尽くされていく。
711: 名無しの最初の魔術師
魔術師、選んでみた。
そしたら、なんか新しいスキル覚えたぞ。
【火の矢】ってやつだ。
クラススキルで、貰えた。
試しにスライムに撃ってみたら、一撃で溶けた。
魔術師も、なかなか強そうだぞ、これ。
725: 名無しの最初の盗賊
盗賊は、なんか動きがめちゃくちゃ速くなった。
ゴブリンの棍棒攻撃が、スローモーションに見える。
これ、全部避けられるんじゃね…?
その三者三様の、クラスの特徴。
それに、スレッドはビルド考察の熱を帯び始めていた。
だが、その熱狂の中で。
一つのあまりにも重要な、そしてこの世界の理をさらに深く解き明かす書き込みが投下された。
投稿主は、あの最初の戦士だった。
818: 名無しの最初の戦士
おい、お前ら。
もう一つ、ヤバいのがあった。
クラス選択したら、なんか新しいウィンドウが開けるようになったんだが。
ステータス画面みたいなのが。
821: 名無しのゲーマー
ステータス!?
マジかよ!見せろ!
828: 名無しの最初の戦士
ああ。
HPとかMPとか、筋力とか、そういうのが全部数値化されてる。
やばすぎるだろ、これ。
俺の筋力、15だってよ。ゴリラかよ。
あと、パッシブポイントが1ポイント貰えたwwwwwwwwwww
そのあまりにもゲーム的な現実。
それに、スレッドはもはや言葉を失っていた。
ただ、そのあまりにも巨大な、そしてどこまでも面白い「ゲーム」の出現に、歓喜するだけだった。
祭りだ。
これこそが、本当の祭りの始まりだった。