第25話
その日の夜。
隼人は、西新宿のあの殺風景な自室に戻っていた。
ギシリと軋む椅子に座り、彼が対峙しているのは、古びた旧式のデスクトップパソコン。ブォンという時代遅れの大きなファンの音をBGMに、彼は再び日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』の情報の海へと、その身を投じていた。
彼の当面の最大の課題。
それは、ボス討伐で手に入れたユニーク首飾り【清純の元素】がもたらす**「MP予約問題」**だった。
全属性耐性を60%以上に引き上げる神の如き防御オーラ、【元素の盾】。だがその代償として、彼の最大MPの半分が、常に使い物にならなくなる。それでは、彼の唯一の攻撃スキルである【パワーアタック】が、わずか数回しか使えない。これでは、ボス戦のような長期戦には、到底対応できない。
鉄壁の防御力を手に入れても、相手を倒す「牙」を失っては意味がないのだ。
「【清純の元素】、有効活用…っと」
隼人は、まるで答えを求める生徒のように、素直に検索窓にキーワードを打ち込んだ。
彼はもう知っていた。この情報の海には、自分よりも遥かにこの世界の「理」を知り尽くした、先人たちの叡智が眠っていることを。
エンターキーを押すと、検索結果は一瞬で表示された。
その一番上に表示された、一件のスレッド。そのタイトルを見た瞬間、隼人は思わず拍子抜けしたような、乾いた笑いを漏らした。
『【初心者必見】清純の元素を手に入れたら、まずこれを買え Part.15』
(…なんだこれ。まるで攻略サイトのQ&Aじゃねえか)
彼は、そのあまりにもストレートなタイトルのスレッドをクリックした。
スレッドの最初の投稿には、こう記されていた。
1 名無しのベテランシーカ―
「ようこそ、新人。お前が幸運にも【清純の元素】を拾ったなら、まずこのスレを読め。話は、それからだ。
いいか、よく聞け。お前は今、『元素の盾強いけど、MP予約がキツすぎてスキル使えねえじゃん!』って悩んでるはずだ。安心しろ。それは、全ての探索者が一度は通る道だ。そして、その悩みにはあまりにも簡単で、あまりにも有名な一つの『回答』が用意されている。
さっさとマーケットでこれを検索しろ。**【元素の円環】**だ」
元素の円環。
隼人はその聞き慣れないアイテム名を、SeekerNet内のフリーマーケット機能の検索窓に、コピー&ペーストした。
すると、どうだろう。
検索結果には、おびただしい数の同じデザインのユニーク指輪が、ずらりと表示されたのだ。
その数、数百。
そしてそのどれもが、驚くほど安い値段で取引されていた。
「相場、一万円…だと?」
隼人はそのあまりの安さに、自分の目を疑った。
ユニークアイテム。それは本来、数十万、数百万の価値を持つ希少な秘宝のはず。だというのに、この【元素の円環】は、まるでコンビニでおにぎりでも買うかのような手頃な値段で、大量に出品されていたのだ。
出品者たちのコメントも、ふざけている。
『清純の元素と、セットでどうぞ!』
『これがないと始まらない!初心者応援価格!』
『MP予約からの、解放!』
彼は、その指輪の詳細な性能を確認する。
そして、そのあまりにも都合の良すぎるその効果に、言葉を失った。
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アイテム名: 元素の円環
種別: 指輪
レアリティ: ユニーク
効果:
スキル【元素の盾】のMP予約コストを、100%減少させる。
(この指輪には、他のいかなる能力も付与されない)
MP予約コスト、100%減少。
つまり、予約がゼロになる。
【元素の盾】という強力なオーラを、一切のMPコストを支払うことなく、永続的に発動させ続けることができる。
それは、まるでこの【清純の元素】というアイテムのためだけに、この世に生み出されたかのような、完璧なシナジーだった。
(…なるほどな。そういうことか)
隼人は、全てを理解した。
これは、ゲームの運営側(あるいはこの世界の創造主)が用意した、意図的な「救済措置」なのだと。
あまりにも強力すぎるユニークアイテムのデメリット。それを打ち消すための、もう一つのユニークアイテム。まるでパズルのピースが、ぴたりとはまるように。
それは、この世界がただの無慈悲な現実なのではなく、明確な「ルール」と「解法」が存在する「ゲーム」であることを、何よりも雄弁に物語っていた。
彼は、そのあまりにも安直な、しかし確実な解決策を前にして、少しだけ拍子抜けしたような、それでいてどこまでも楽しそうな笑みを浮かべた。
ギャンブラーとして利用できるルールは、徹底的に利用する。それが、彼の信条だ。
彼は、迷わなかった。
ゴブリン・シャーマンの大魔石を売って得た、五万円の軍資金。その中から彼は、躊躇なく一万円を支払い、マーケットに出品されていた【元素の円環】を、即時取引で購入した。
取引は、一瞬で成立した。
彼のインベントリに、新たに一つの銀色のシンプルな指輪が追加される。
これで、パズルは解けた。
鉄壁の防御力と、彼の唯一の牙である【パワーアタック】。
その両立が、可能になったのだ。
彼は、自らのビルドがまた一段完成へと近づいたことを、確かに実感していた。
「さてと」
彼は、椅子から立ち上がった。
「これで、言い訳はできなくなったな」
彼の瞳には、次なる戦場がはっきりと見えていた。
残された、四万円の軍資金。
これを使い、聖書に書かれていた【掟その6】…回復薬を揃える。
そして、雫が教えてくれたパッシブスキルポイントが得られるという「クエスト」を探し出し、それを攻略する。
やるべきことは、明確だ。
彼の次なるギャンブルは、もう始まっている。
神崎隼人は、自らのビルドがまた一つ完成へと近づいた、確かな手応えを感じていた。
ユニーク首飾り【清純の元素】。そして、そのデメリットを完全に打ち消す相棒とも言うべきユニーク指輪、【元素の円環】。この二つの組み合わせによって、彼はMPコストを一切支払うことなく、常に全属性耐性を+26%するという神の如き防御オーラ、【元素の盾】をその身に宿すことに成功した。
鉄壁の防御力と、【パワーアタック】という必殺の牙。その両立。
それは、彼が次のステージへ進むための、最低限にして最高の切符だった。
「…さてと」
彼は椅子に深く座り直し、再び古びたパソコンのモニターへと向き直る。
装備は揃った。次なる課題は、山積みだ。
レベルアップで得た、15ポイントもの膨大なパッシブスキルポイント。これを、どう割り振るか。
ボスからドロップした、平凡なスキルジェムたち。これらをどう強化し、組み合わせ、必殺のコンボを生み出すか。
そして、雫が教えてくれたスキルポイントが得られるという「クエスト」。
彼の思考は、無数の選択肢の海を、高速で泳ぎ回っていた。
だがその時、ふと彼の脳裏に、あのSeekerNetの戦士たちの聖書に記されていた、一つの「掟」が蘇った。
【掟その6】回復薬をケチるな。それは、命の水だ。
そうだ、と彼は思い出す。
ゴブリン・シャーマンとの死闘。あの時、彼のHPは確かに赤く点滅していた。コメント欄は、「ポーションを使え!」という、悲鳴にも似た声で埋め尽くされていた。
だが、彼は持っていなかった。
金がなかったというのもある。だがそれ以上に、彼は回復アイテムというものの重要性を、まだ本当の意味で理解していなかったのだ。
これまでのギャンブルでは、回復アイテムなど存在しなかった。負けは、負け。失ったチップは、もう戻らない。
だが、この「ダンジョン」というテーブルでは違うらしい。
使えるはずの保険を使わない。それは、一番の悪手だと。
「…ポーションか」
彼はSeekerNetの検索窓に、その馴染みのない単語を打ち込んだ。
『ポーション』『回復薬』『初心者』
エンターキーを押すと、彼の目の前に、また新たな世界の「理」が表示された。
検索結果の最上位に表示されたのは、やはりギルドの公式マークが付いた、初心者向けの解説スレッドだった。
『【超・基本】フラスコシステムの仕組みと、初心者向けオススメ構成』
「…フラスコ?」
隼人は、その聞き慣れない単語を口の中で転がした。
彼は、そのスレッドをクリックする。
そこに書かれていたのは、彼のこれまでの「常識」を、再び根底から覆すような衝撃的な情報だった。
1 ギルド公認アドバイザー
「皆さん、こんにちは!新人探索者の皆さん、ダンジョン攻略は順調ですか?
さて、今回は皆さんの生存率を劇的に引き上げてくれる最も基本的なアイテム、『ポーションフラスコ』について解説します!
まず大前提として、この世界のポーションは、使い捨ての『消耗品』ではありません!」
その最初の一行を読んだだけで、隼人の思考が止まった。
消耗品では、ない?
どういうことだ?
1 ギルド公認アドバイザー
「皆さんがダンジョン内でモンスターを倒すと、その体から魔素が放出されますよね?『ポーションフラスコ』とは、その周囲に漂う魔素を自動的に吸収し、中に込められた霊薬を自動で補充してくれる、魔法の瓶のことなんです。
つまり、一度購入してしまえば、ダンジョン内で敵を倒し続ける限り、永久に何度でも使用することができる、まさに夢のようなアイテム!それが、ポーションフラスコなんです!」
永久に使える。
その言葉は、隼人の頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を与えた。
なんだ、それは。
それはもはや、アイテムではない。一つの、完璧な「システム」ではないか。
敵を倒し、そのエネルギーで自らを回復させ、そしてまた次の敵を倒す。
永久機関。
彼は、自分がどれほど無知で、どれほど危険な橋を渡っていたのかを、改めて痛感させられた。
彼は、震える指でスクロールを進めていく。
1 ギルド公認アドバイザー
「ただし、もちろんこんなに便利なフラスコにも、いくつかの重要な『制限』があります。
まず一つ目。皆さんがベルトに装着し、携帯できるフラスコの数は、最大で5つまでと定められています」
「え?どうして5つまでかって?いい質問ですね!古い伝承によれば、6つ以上のフラスコを同時に所持すると、それぞれのフラスコが魔素を奪い合い、循環が不安定になって自動補充機能そのものが停止してしまうと言われています。昔、欲張って6つのフラスコをダンジョンに持ち込み、いざという時に一つも使えずに死んでいった、愚かな探索者の話も有名ですね(笑)」
「そして二つ目の、最も重要なポイント。それは、『どのフラスコを5つ選ぶか』です。これこそが、皆さんのビルドの方向性と生存戦略を決定づける、最初の大きな選択となります」
スレッドには、様々な種類のフラスコとその効果が、写真付きで丁寧に解説されていた。
【ライフフラスコ(赤)】
最も基本的なHPを回復するフラスコ。様々なサイズがあり、大きいものほど回復量も多いが、チャージに必要な敵の数も多くなる。
【マナフラスコ(青)】
MPを回復するフラスコ。スキルを多用する戦士や、魔術師にとっては、生命線とも言える。
隼人は、その二つの基本的なフラスコの説明を読んだだけで、自分の次なる「手」を即座に決めていた。
ライフフラスコは、当然必要だ。死なないことは、このゲームの絶対条件。
そして、マナフラスコ。これこそが、今の彼が抱える最大の「パズル」を解くための、もう一つの鍵だった。
【清純の元素】のMP予約問題。それを、【元素の円環】で解決した。
だがそれは、あくまで【元素の盾】という一つのオーラに対する、ピンポイントな回答でしかない。
今後、彼が別の強力なオーラを使いたくなった時、必ずこのMP問題は再燃する。
だが、このマナフラスコがあればどうだ?
戦闘中に失ったMPを、回復できる。つまり、【パワーアタック】のような強力な消費スキルを、以前よりも遥かに多く叩き込むことができるようになる。
彼の継戦能力は、飛躍的に向上するだろう。
だが彼の真の興味を引いたのは、その基本的なフラスコではなかった。
彼のギャンブラーとしての魂が、その無限の可能性に惹きつけられたのは、そのさらに下に書かれていた、特殊なフラスコ群だった。
【ユーティリティフラスコ】
回復効果はないが、その代わりに、使用することで数秒間、術者に極めて強力な一時的な強化や、特殊な効果をもたらす戦略的なフラスコ。
その種類の、なんと多いことか。
彼は、その一つ一つの効果を食い入るように見つめていった。
【御影石のフラスコ】: 使用後、10秒間、物理ダメージを50%軽減する。
(…硬くなる。パワーアタックを叩き込む、その一瞬の隙を作り出すために使えるか)
【水銀のフラスコ】: 使用後、4秒間、移動速度が40%上昇し、敵をすり抜けられるようになる。
(…速くなる。ヒット&アウェイ戦術を、さらに極めることができる。あるいは、絶体絶命の包囲網からの脱出にも)
【ダイヤモンドのフラスコ】: 使用後、5秒間、クリティカル率が100%になる。
(…クリティカル率、100%。一撃必殺のロマン。だが、俺のビルドではクリティカルダメージを伸ばす手段がない。今はまだ、宝の持ち腐れか…)
そして隼人の目が、一つのフラスコの前でぴたりと止まった。
彼の脳裏に、あのゴブリン・シャーマンとの死闘の、最後の絶望的な光景がフラッシュバックする。
あの忌々しい、紫色の呪い。
【解呪のフラスコ】: 使用した瞬間、自身にかかっている全ての呪い(デバフ)を解除し、その後数秒間、新たな呪いを無効化する。
これだ、と彼は思った。
あの時、このフラスコが一本でもあれば。
俺は、あれほど追い詰められることはなかった。
このユーティリティフラスコというシステムは、単なる自己強化ではない。
敵の戦術に対する「回答」を用意しておくための、極めて戦略的なデッキ構築なのだと、彼は理解した。
どのフラスコを、5つ選ぶか。
それは、次に自分が挑むであろうダンジョンと、そこにいる敵の特性を完全に予測し、その対策を準備しておくということ。
それはまさに、ポーカーで相手のプレイスタイルを読み、その裏をかくためのハンドを構築していく作業と、全く同じだった。
彼の心はもはや、興奮で燃え上がっていた。
装備、パッシブツリー、スキルジェム、そしてフラスコ。
なんと、この世界は面白い。
なんと、このゲームは奥深いのだ。
彼は、残された四万円の軍資金の使い道を、完全に決定した。
彼は再び、SeekerNetのフリーマーケットへとアクセスする。
そして、自らのビルドに最適だと判断した5本のフラスコを、選び始めた。
まず、**【ライフフラスコ】を二本。これは、絶対の基本。
次に、【マナフラスコ】を一本。【パワーアタック】の、継戦能力を確保するため。
そして、残りの二つのスロット。
彼は迷わず、【水銀のフラスコ】と【解呪のフラスコ】**を、カートに入れた。
移動の自由と、デバフへの回答。
今の彼にとって、これ以上ない完璧な組み合わせだった。
幸い、これらの基本的なフラスコは、それほど高価なものではなかった。彼は、合計で約一万五千円を支払い、5本の空のフラスコを手に入れた。
これで、彼のベルトスロットが初めて埋まった。
装備、パッシブツリーの知識、スキルジェム、そしてフラスコ。
戦うための全ての準備が、今、整いつつあった。
神崎隼人は、自らのビルドがまた一つ完成へと近づいた、確かな手応えを感じていた。
ユニーク首飾り【清純の元素】と、その相棒たるユニーク指輪【元素の円環】。この二つの組み合わせにより、彼はMPコストを一切支払うことなく、常に全属性耐性を+26%するという神の如き防御オーラ、【元素の盾】をその身に宿すことに成功した。
鉄壁の防御力と、【パワーアタック】という必殺の牙。その両立。
それは、彼が次のステージへ進むための、最低限にして最高の切符だった。
装備は揃った。フラスコの準備も、万端だ。
彼の思考は、自然と次の課題へと移行していた。
レベルアップで得た、15ポイントもの膨大なパッシブスキルポイント。これを、どう割り振るか。
そして、雫が教えてくれたスキルポイントが得られるという「クエスト」。
「…その前にだ」
隼人は椅子に深く座り直し、再び古びたパソコンのモニターへと向き直る。
クエストを探す前に、まだ解決しておくべき問題があった。
レベルアップ時に得た、15ポイントの未割り振りのステータスポイント。これを、どうするかだ。
筋力に振れば、彼の攻撃力はさらに圧倒的なものになるだろう。
体力に振れば、パッシブスキルで得たHPボーナスと合わせて、彼の生存率は鉄壁の領域に達するかもしれない。
敏捷に振れば、攻撃速度が上がり、手数で敵を圧倒できる。
どの選択肢も、魅力的だった。
だが、彼は即断しなかった。彼のギャンブラーとしての本能が、安易な選択を良しとしなかったのだ。
勝負の世界では、一度切ったカードは、もう戻らない。
彼はSeekerNetの検索窓に、新たなキーワードを打ち込んだ。
『戦士 ステータスポイント 割り振り セオリー』
エンターキーを押すと、彼の目の前に、またしても無数のスレッドが洪水のように現れた。
そこは、まさに宗教戦争の戦場だった。
『【脳筋】戦士は黙って筋力全振り!ヤられる前に、ヤれ! Part.54』
『【生存至上主義】体力こそ至高。死ななきゃ、勝てる理論 Part.38』
『【バランス型考察】筋力2:体力1が黄金比。異論は、認める』
それぞれのスレッドでは、それぞれの正義を信奉する者たちが、罵詈雑言を交えながら、自らのビルドの優位性を延々と語り続けていた。
隼人は、そのあまりにも不毛な議論を冷めた目で見ながら、高速でスクロールしていく。彼の脳は、これらの感情的なノイズを自動的に除去していく。
彼が求めているのは、個人の感想ではない。もっと普遍的で、本質的な「セオリー」。幾多の探索者たちの成功と、そして無数の「死」の上に築き上げられた、揺るぎない真理だ。
彼は、検索の深度をさらに深めていく。
『トップランカー』『戦士』『ステータス』
そして彼は、一つの古びた、しかし今もなお多くの探索者から参照され続けている、伝説的なインタビュー記事を見つけ出した。
それは、初代【剣聖】と呼ばれ、今は引退した伝説の戦士クラスの探索者への、独占インタビューだった。
インタビュアー: 「〇〇様は、現役時代、ステータスポイントをどのように割り振っていましたか?多くの新人戦士が、悩むところだと思うのですが」
初代剣聖: 「…はっ、簡単な話だ。『振らない』。それが、俺の答えだ」
インタビュアー: 「えっ?振らない、ですか?」
初代剣聖: 「ああ。少なくとも、レベルが低いうちはな。考えてもみろ。この世界で、俺たちを本当に強くしてくれるものはなんだ?レベルアップか?スキルか?違う。本当に俺たちの運命を変えるのは、いつだって、たった一つの強力な**『ユニーク装備』**との出会いだ」
隼人はその言葉に、思わず息を呑んだ。
自らの左腕に宿る【万象の守り】を、思い出す。まさしく、彼の運命を変えた、たった一つの出会い。
初代剣聖: 「そして、そういった強力なユニーク装備には、往々にして厄介な**『装備条件』**が付いて回る。例えば、戦士が使う最強の斧。そいつを装備するためには、『筋力200』に加えて、なぜか『知性50』が必要だったりする。あるいは、鉄壁の鎧。そいつは、『体力150』と『敏捷70』を同時に要求してきたりする」
「お前が、レベルアップで得たなけなしのポイントを全て筋力に注ぎ込んでいたらどうなる?その最強の斧を目の前にして、指をくわえて見ていることしかできねえ。その鉄壁の鎧は、お前にとってただの鉄の塊だ」
「だから、俺は振らない。常に、ポイントを余らせておく。いつ、どんな『カード』を引くことになるか、分からんからな。最高のカードを引いた時に、いつでもその場でベットできるだけの『チップ(ポイント)』を手元に残しておく。それこそが、この理不尽な世界で勝ち続けるための、唯一のセオリーだ」
そのインタビュー記事を、読み終えた時。
隼人の心は、完全に決まっていた。
やはり、彼の直感は正しかったのだ。
目先のわずかな強化に飛びつかず、ポイントを温存していた自らの判断。それは、無意識のうちにこの世界の本質を見抜いていたということ。
彼は、自らのギャンブラーとしての才覚に、改めて静かな自信を深めていた。
「そういうことか」
彼は、誰に言うでもなく呟いた。
これで、パズルは全て解けた。
ステータスポイントは、温存する。
パッシブスキルは、生存能力を底上げする。
装備とフラスコは、セオリー通りに揃えた。
オーラの問題も、解決した。
彼のビルドの第一段階は、今、完全に完成した。
彼は、椅子から立ち上がった。
その瞳にはもはや、一切の迷いはない。
名前
神崎 隼人 / JOKER
レベル
5
クラス
戦士 Lv.3
HP
337 / 337
(基礎210 + 装備補正60) × パッシブ補正1.25
MP
50 / 50 (予約: 0)
筋力 (Strength)
23
体力 (Constitution)
25
敏捷 (Dexterity)
15
知性 (Intelligence)
10
精神 (Mentality)
9
幸運 (Luck)
??
ステータスポイント
残り: 15
パッシブスキルポイント
残り: 0
ユニークスキル
【複数人の人生】
複数のビルドを保存・切り替え可能。
【運命の天秤】
確率を操作し、奇跡的な結果を生み出す。
クラススキル
【パワーアタック Lv.1】
次の近接攻撃の威力を、150%に上昇させる。
【挑発 Lv.1】
オーラスキル
【元素の盾 Lv.10】
周囲の味方の全属性耐性+26%。(【清純の元素】により付与)
所持スキルジェム
【ヘビーストライク】
インベントリに保管中。
【パリィ】
インベントリに保管中。
【フロストウォール】
インベントリに保管中。
武器
無銘の長剣
隻眼の老人から購入した、バランスの良い長剣。
頭
【傷だらけの鉄兜】
HP+20
胴
【焼け焦げた胸当て】
火耐性+5%
手
【万象の守り】
攻撃速度+15%、全属性耐性+25%
足
【使い古された革のブーツ】
移動速度+8%
首輪
【清純の元素】
全耐性+5%、HP+40、スキル【元素の盾 Lv.10】付与
指輪 (左)
【元素の円環】
【元素の盾】のMP予約コストを、100%減少させる。
指輪 (右)
【氷結した指輪(劣化版)】
氷耐性+4%
ベルト
フラスコホルダー付きベルト
1
ライフフラスコ (中)
HPを回復する。
2
ライフフラスコ (中)
HPを回復する。
3
マナフラスコ (小)
MPを回復する。
4
水銀のフラスコ
使用後、4秒間、移動速度が40%上昇する。
5
解呪のフラスコ
使用時、自身にかかっている呪い(デバフ)を解除する。




