表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/491

第213話

 C級。

 そこは、F級やD級とは明らかに違う、本物の「戦術」が要求される世界。

 今のこの中途半端な軍団で、果たして通用するのか。

 分からない。

 だからこそ、面白い。


 彼は、自らのパッシブスキルツリーを、改めて見つめた。

 レベル10。

 彼の手元には、ギルドクエストで得た2ポイントと、レベルアップで得た貴重なパッシブスキルポイントが、合計で5ポイント残っている。

 この5ポイントを、どう使うか。

 それが、彼のC級デビュー戦の、勝敗を分ける。

 彼は、昨夜SeekerNetの『ネクロマンサー総合スレ』を読み漁って見つけ出した、一つの「最適解」を、脳内で反芻する。


(今の俺の軍団に足りないのは、単純な火力と、そして何よりもミニオン自身の耐久力だ)

(ならば、取るべき道は一つ)


 彼は、迷わなかった。

 その瞳に、絶対的な確信の光を宿して、彼はその5ポイントを、星空へと注ぎ込んでいく。


 まず、1ポイント。

 彼は、ミニオンの耐久力と火力を同時に底上げする、基本にして最も重要な小ノードを選択した。

【ミニオンライフダメージノード】

 効果:ミニオンの最大HP10%上昇。ミニオンのダメージ10%上昇。


 次に、2ポイント。

 彼は、純粋な破壊力を追求する。

【ミニオンダメージノード】

 効果:ミニオンのダメージ16%上昇。


 これで、彼のミニオンたちの火力は、合計で42%も跳ね上がった。

 そして、残りの2ポイント。

 彼は、このビルドの根幹をなす、二つの巨大な星へと、その手を伸ばした。

 まず、1ポイントを使い、中ノード**【死への同調】**を取得。

 効果:最大スペクター召喚+1、最大召喚ゾンビ召喚+1、最大召喚スケルトン+1。

「…よし。これで、ゾンビが一体増える。単純に、戦力が25%増だ。デカい」

 彼のゾンビ軍団は、これで5体となった。

 そして、最後の一つの星。

 彼は、ミニオンオフェンスマスタリーの選択画面を開いた。

 その中から、彼が選んだのは、あのS級ネクロマンサー『骸の女王』も推奨していた、究極の攻撃的マスタリーだった。


【骨砕きの猛攻】

 効果:ミニオンのヒットは、50%の確率で敵の物理軽減を無視する。


「…確率の、上乗せか。面白い」

 彼の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。

 これで、彼のミニオンたちは、ただのゾンビではない。

 敵の装甲を確率で無視し、その内部の弱点を直接抉り出す、死の尖兵へと生まれ変わった。

 全てのパッシブスキルを、割り振った。

 だが、彼の強化はまだ終わらない。

 彼は、スキルジェムの管理画面を開き、これまで貯め込んできた大量の魔石を、躊躇なく消費していく。

【ゾンビ召喚】のスキルジェム。

 そのレベルを、3から4へと引き上げた。


【スキルジェム『ゾンビ召喚』がLv.4にレベルアップしました】

 ミニオンの最大ライフが、さらに6%上昇。

 これで、実質的なレベルは、F級を卒業したばかりのLv.14相当にはなっただろうか。

 準備は、整った。


「…さてと。午後の部、始めっか」


 彼は、ARカメラの向こう側にいる、彼と同じようにこの退屈な日常に刺激を求める数十万人の観客たちに、気だるそうに告げた。

 彼の新たな人生、ネクロマンサーとしての物語。その続きを、世界が待っている。

 彼は、配信のスイッチを入れた。

 今日の配信タイトルは、彼の現在の心境をそのまま映し出すかのように、どこまでもゆるく、そして正直だった。


『【ネクロマンサーLv.10】C級ダンジョン初挑戦なので、雑談しながらのんびり』


 その、あまりにも力の抜けたタイトル。

 それが公開された瞬間、彼のチャンネルには、通知を待ち構えていた数十万人の観客たちが、津波のように殺到した。

 コメント欄は、もはやお馴染みとなった温かいツッコミと、期待の声で溢れかえっていた。


『C級初挑戦でのんびりwww JOKERさん、相変わらずすぎるwww』

『今日の生贄は、どこのダンジョンだ?』

『新しいミニオン軍団の力、見せてくれ!』


「…うるせえよ。好きでやってる」


 隼人は、コメント欄の熱狂にいつものようにぶっきらぼうに答えながら、転移ゲートをくぐった。

 彼がたどり着いたのは、静寂と、そして死の匂いに満ちた、薄暗い空間だった。

 C級ダンジョン【嘆きの聖歌隊】。

 壁も、床も、天井も、全てが様々な色に輝くステンドグラスの破片と、腰の高さほどもある巨大な燭台で埋め尽くされている。それらが放つ、ぼんやりとした幻想的な光だけが、唯一の光源だった。

 空気中には、常にどこからか、悲しげな聖歌のようなハミングが、聞こえてくる。


「…なるほどな。雰囲気は、悪くねえ」

 彼は、その空気を深く吸い込んだ。

 そして、自らの魂に命令を下す。

「――起きろ、しもべたちよ」

 彼がそう念じると、彼の足元の影から、ずるりと五体のおぞましい姿が現れた。

 彼の魂とリンクした、ゾンビミニオンたち。

 アメ横の市場で買い揃えた、一体5000円の安物の装備。それらをその身にまとい、彼は静かに、そして確かな足取りで、礼拝堂の奥深くへと進んでいった。


 彼の足音が、静寂な回廊に響く。

 その音に、彼はわずかに眉をひそめた。

(…静かすぎる)

 そうだ。

 C級ダンジョンだというのに、敵の気配が、全くしない。

 だが、彼のギャンブラーとしての直感は、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

 見られている。

 それも、一体や二体ではない。

 もっと多くの、そして統率の取れた何者かに、その一挙手一投足を、監視されている。

 そんな、確かな感覚。


 コメント欄もまた、その異様な雰囲気に、ざわつき始めていた。

『あれ?敵、いなくね?』

『不気味だな…。嵐の前の静けさってやつか…』

『気を付けて、JOKERさん!何か、嫌な予感がする!』


「ああ、分かってる」

 彼は、短く答えた。

「気を付けてと言うが、気を付けるしかねぇダンジョンなのは確かだ」

「まあ、ヤバそうなら撤退するが…。だが、スリルが好きだからな」

 彼の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。

 彼は、その見えざる視線を楽しむかのように、あえてゆっくりと、回廊の突き当たりにある、巨大な両開きの扉へと、その歩みを進めていった。

 そして、彼はその扉を、躊躇なく押し開けた。


 その先に広がっていたのは、広大な、円形の礼拝堂だった。

 ステンドグラスから差し込む、七色の光が、大理石の床に幻想的な模様を描き出している。

 そして、その広間の中央。

 そこに、一体だけ、ぽつんと、それはいた。

 翼が折れ、体の所々が苔むした、巨大な石造りのガーゴイル。

 そのあまりにも静かで、そしてどこか寂しげな光景。


「…1体だけか?」

 彼は、思わず呟いた。

「妙だな」

 彼のその一言。

 それが、この静寂の劇場の、幕開けの合図だった。

 彼がそう呟いた、その瞬間。

 ガーゴイルが、その石の巨体を、ギギギと音を立てて起こした。

 そして、その後ろの、祭壇の影から。

 すうっと、音もなく、五つの人影が、その姿を現したのだ。

 顔をフードで隠し、ぼろぼろの聖歌隊の制服をその身にまとった、浮遊する霊体。

【嘆きの聖歌隊員】。


「…なるほどな。こういう感じね」

 彼は、その完璧な布陣に、感嘆の声を漏らした。

 タンク一体、後衛五体。

 実に、合理的で、そしていやらしい。

 彼が、そう思った、その瞬間。

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 五体の聖歌隊員が、一斉にその指先を、隼人へと向けた。

 そして、一切の詠唱なく、その周囲の空間から、数十、数百という青白い魔力の弾丸が生成され、嵐となって隼人へと襲いかかった。

 魔法の、弾幕。

 そのあまりにも理不尽な、開幕攻撃。


「――ゾンビ、盾になれ!」


 彼は、即座に叫んだ。

 その命令に、彼のゾンビ軍団の一体…彼が心の中で「1号」と名付けた、最も信頼する僕が、即座に反応した。

 ウオオオと雄叫びを上げながら、1号は、隼人の前に立ちはだかるように、その腐った肉体を壁とした。

 だが、その壁はあまりにも、脆かった。

 ドッドッドッドッドッ!

 数十発の魔力の矢が、1号の体を容赦なく貫き、引き裂いていく。

「ギッ!?」

 1号が、情けない悲鳴を上げる。

 その体は、一瞬で蜂の巣にされ、光の粒子となって消滅した。

 たった、数秒。

 それだけで、彼の貴重な戦力の一つが、失われた。


 だが、その犠牲は、無駄ではなかった。

 1号が稼いだ、そのわずかな時間。

 それが、隼人に、次なる一手…反撃の狼煙を上げるための、最高の時間を与えてくれたのだ。


「――残り4体は、敵への攻撃をしろ!」


 彼は、残された4体のゾンビたちに、新たな命令を下した。

 その声は、もはやただのプレイヤーではない。

 仲間を失った悲しみを、怒りへと変えた、復讐の指揮官のそれだった。

 彼の新たな、そして最も過酷な戦いが、今、始まった。




 ## ステータス (ネクロマンサービルド)

 - **レベル:** 10

 - **クラス:** 魔術師レベル3

 - **アセンダンシー:** なし

 - **HP:** 100 / 100 `((基礎100)`

 - **ES:** 190 / 190 `((【始まりの一歩】+14 +【最初の守り】+16 +【身体を守る秘密】+20 +【深い祈り】+20 + 装備一式+140)× 1.12)`

 - **MP:** 152 / 152 `((基礎116 + 【始まりの一歩】+16 + 【深い祈り】+20)`

 - **筋力 (Strength):** 5

 - **体力 (Constitution):** 10

 - **敏捷 (Dexterity):** 12

 - **知性 (Intelligence):** 38`((基礎8+クラスボーナス+10 + 【深い祈り】+20)` 

 - **精神 (Mentality):** 7

 - **幸運 (Luck):** ??

 - **ステータスポイント:** 残り: 45

 - **パッシブスキルポイント:** 残り: 0`(ギルドパッシブポイント+4/24済み)`

 - **HP自動回復:** 0 / 秒 `()`

 - **MP自動回復:** 20 / 秒 `(基礎1 + 魔法の源泉15 × 1.25)`

 - **物理ダメージ軽減:** 0%`()`

 - **精度 (Accuracy):** +0 `()`

 - **移動速度:** +0% `()` ※水銀のフラスコ使用時、さらに+40%

 - **攻撃速度:** +0% `()`

 - **チャージ上限値:**

  - **持久力チャージ:** 3

  - **狂乱チャージ:** 3

  - **パワーチャージ:** 3

 - **耐性値:**

  - **火耐性:** 61% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+35%)`

  - **氷耐性:** 61% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+35%)`

  - **雷耐性:** 61% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+35%)`

  - **混沌耐性:** 0% `()` ※アメジストのフラスコ使用時、さらに+35%


 ### ミニオンオフェンスマスタリー

 - **【骨砕きの猛攻】:** (1pt)

  - 効果: ミニオンのヒットは敵の物理軽減を50%の確率で無視する。


 ### 中ノード (Notable Passives)

 - **【深い祈り】:** (1pt)

  - 効果: 最大ES+20最大MP20知性+20

 - **【死者のロード】:** (1pt)

  - 効果: ミニオンの最大HP15%上昇、ミニオンのダメージ20%上昇、最大召喚ゾンビ召喚+1、最大召喚スケルトン+1

 - **【死への同調】:** (1pt)

  - 効果: 最大スペクター召喚+1、最大召喚ゾンビ召喚+1、最大召喚スケルトン+1


 ### 通常パッシブ (小ノード)

 - **【始まりの一歩】 +14ES、+16MP:** (1pt)

 - **【最初の守り】最大ES+16MP自動回復レート25%:** (1pt)

 - **【身体を守る秘密】最大ES+10、最大ES6%増加:** (2pt)

 - **【守りの復活】最大ES6%増加ESリチャージレート10%**(1P)

 - **【ミニオンライフノード】ミニオンの最大HP10%上昇**(1P)

 - **【ミニオンライフダメージノード】ミニオンの最大HP10%上昇。ミニオンのダメージ10%上昇。**(1P)

 - **【ミニオンダメージノード】ミニオンのダメージ16%上昇。**(2P)



 ## スキル

 - **ユニークスキル:**

  - **【複数人の人生マルチアカウント】:** 複数のビルドを保存・切り替え可能。莫大なコストがかかるため、「有用度1」の大ハズレスキルとされているが、JOKERの【運命の天秤】がその常識を覆す可能性を秘める。

  - **【運命の天秤フェイト・スケール】:** クラフトなどの確率が絡む事象に介入し、奇跡的な結果を生み出す。JOKERの伝説の根幹をなすスキル。

 - **カスタムスキル:**

  - **【通常技】ゾンビ召喚 (消費MP: 12):** ゾンビを召喚する。最大ゾンビ数は3体 ミニオンの最大ライフが4%上昇する

  - **ジェム構成:** (ゾンビ召喚レベル4 + 近接物理ダメージサポートレベル1 + 近接スプラッシュサポートレベル1 + ミニオンダメージサポートレベル1 )

  - **【通常技】【脆弱の呪い】 (消費MP: 12):** 範囲の敵を呪う対象の受ける物理ダメージを20%アップする

  - **【通常技】火の矢 (消費MP: 9):** クラススキル。火の矢を放つ。

  - **【通常技】ES再生 (消費MP: 0):** クラススキル。ESを瞬時に再生する。戦闘中につき一回使用可能。

  - **【通常技】魔法の源泉 (消費MP: 0):** クラススキル。MPの10%を基礎MP回復にプラスする。

 - **発動中のオーラ/バフ:**

  - **【元素の盾 Lv.10】(MP予約: 0):** 全属性耐性+26%。


 ## 装備品

 - **武器:** 【普通のワンド】(ノーマル)

 - **盾:** 【魔法の盾】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **頭:** 【魔法のローブ頭】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **胴:** 【魔法のローブ胴】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **手:** 【魔法の手装備】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **足:** 【魔法の足装備】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5% 移動スピード+8%

 - **首輪:** 【清純の元素】

  - 効果: 全2耐性 +5% 最大HP +40 このアイテムに、Lv10の【元素の盾】スキルが付与される。

 - **指輪 (左):** 【清純の元素】

  - 効果: 【元素の盾】のMP予約コストを100%減少させる。

 - **指輪 (右):** 【魔法の指輪】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **ベルト:** 【魔法のベルト】(マジック)

  - 効果: ES+20 全耐性+5%

 - **インベントリ保管:**


 

 ## フラスコ

 - **スロット1:** ライフフラスコ (中)

  - 効果: HPを回復する。

      出血状態で、使用すると、出血を、即座に、解除し4秒の出血耐性を付与する。

 - **スロット2:** マナフラスコ (小)

  - 効果: MPを回復する。

 - **スロット3:** 水銀のフラスコ

  - 効果: 使用後4秒間、移動速度が40%上昇する。

 - **スロット4:** 解呪のフラスコ

  - 効果: 使用時、自身にかかっている呪い(デバフ)を解除する。

 - **スロット5:** アメジストのフラスコ

  - 効果: 使用後6秒間、混沌耐性が35%上昇する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ