第207話
【ワイドショー番組『ライブ!ダンジョン24』スタジオ】
ピコン、ピコン、ピコン!
スタジオに、けたたましいアラート音が鳴り響いた。
スタジオの照明が、再び赤色の警戒色へと切り替わる。
メインモニターには、ギルドの公式紋章と共に、『緊急速報』という物々しいテロップが、躍っていた。
高島玲奈は、手元の原稿を信じられないという顔で、見つめている。
「え…?うそ…?」
彼女の声が、震える。
「たった今、ギルド最高幹部会と日米両政府による共同声明が発表されました…!なんと、日米共同出資でアメリカと日本の東京に、『冒険者学校』を本日付けで設立するとのことです!」
スタジオが、一瞬静まり返る。
そして次の瞬間、これまでのどのニュースよりも大きなどよめきが、波のように広がった。
玲奈は、興奮を隠しきれない様子で、その詳細を読み上げていく。
「対象は、全国の15歳から18歳の学生冒険者達や、15歳から22歳までのC級以下の中卒冒険者が、対象とのことです!」
「そして、なんと学費は完全に無料!」
「カリキュラムは、冒険者としての英才教育を主軸に、ダンジョンでの実施授業、さらに生徒の実力を可視化し、競争を促すための**『学生内ランキングシステム』なども、導入するとのことです!」
「さらに、講師には現役のA級以上の探索者たちを招き、月に一度はSSS級冒険者による特別講師も、導入される予定だということです!まさに、超豪華な先生陣です!」
そのあまりにも衝撃的で、そしてあまりにも壮大な国家プロジェクト。
それに、スタジオの誰もが言葉を失っていた。
最初に我に返ったのは、田中氏だった。
彼の表情は、驚きと、そしてそれ以上に大きな「納得」の色に染まっていた。
「…凄いですね。国が、冒険者学校を作る時代ですよ。」
彼は、しみじみとそう言った。
「…いや、まあ、ダンジョン出現から10年目ですからね。むしろ、遅かったと言うべきですね」
「**今まで、公式ギルドが冒険者スクールを運営していましたが、**その規模と質には限界があった。ですが、国家が本腰を入れてこの問題に取り組むとなれば、話は別です」
「そして何より、タイミングがいい。**これで、雷帝・神宮寺猛様が設立された基金の100万円と合わせて、**若者たちへの金銭的な支援と教育的な支援。その両輪が、ようやく揃った。手厚い冒険者支援ができるのは、本当に嬉しい事ですね」
彼のそのあまりにも的確な解説。
それにミカが、興奮したように付け加えた。
「**学生内ランキングも、競争心が出るし、良いですね!**最近、うちの息子もなんだかだらけてて…。これくらい、ハングリーな環境の方が、子供は育つのかもしれません!」
「ええ」
田中氏は、深く頷いた。
「最近のF級、E級はハングリー精神がないと、知人のA級が愚痴ってましたのでね。フラスコシステムのおかげで、死ぬことはない。だが、それ故にぬるま湯に浸かり、その先のB級の壁を越えようとしない。この学校は、そんな停滞した若者たちの尻を叩く、最高の起爆剤となるでしょう」
「才能さえあれば、1年でA級に昇格できるこの世界。この学校から、第二、第三のJOKERや雷帝が生まれてくる。そう考えると、ワクワクが止まりませんな」
そのあまりにも明るい未来予測。
スタジオは、この日最高の希望と興奮に包まれた。
高島玲奈が我に返ると、その興奮冷めやらぬ声で番組を締めくくった。
「…ということで、本日の『ライブ!ダンジョン24』、エンディングのお時間となってしまいました!国家が動いた!日本の、いや世界の冒険者の未来は、今日この瞬間から新たなステージへと突入します!この歴史的な転換点から、我々は一瞬たりとも目が離せません!」
その日、日本中の、そして世界中の若者たちの心に、新たな、そしてより力強い炎が灯った。
それは、誰もが「主人公」になれる可能性。
新しい時代の、本当の幕開けだった。
【SeekerNet 掲示板 - 日本フォーラム】
スレッドタイトル:【国営】冒険者高等学校爆誕!【俺たちの税金、最高の使い方】 Part.2
1: 名無しのE級ヒーラー
スレ立て乙。
Part.1、勢いすごすぎて1000レス埋まるの早すぎだろ…。
まだ興奮が冷めないんだが、お前らもうギルドの公式ページから、入学案内の資料ダウンロードしたか?
俺、さっき見てみたんだが、マジでヤバいぞこれ。
2: 名無しのD級戦士
1
見た!見たぞ!
俺、正直最初は半信半疑だったんだ。国がやることなんて、どうせ大したことないだろって。
だが、違った。
あのカリキュラム、本気だ。
「A級探索者による実践戦闘指導」
「SSS級探索者を月に一度、特別講師として招聘」
「ダンジョン内でのサバイバル技術演習」
なんだこれ。夢かよ。
3: 名無しのF級盗賊
2
だよな!
俺たちが今まで、攻略サイトの断片的な情報と先輩の武勇伝だけで学んできたことを、体系的に、しかも無料で教えてくれるってんだからな!
冒険者学校、羨ましいな!
4: 名無しのC級(中卒・21歳)
3
羨ましいじゃねえ。
俺は、行くぞ。
絶対に、行く。
5: 名無しのD級戦士
4
おお!C級ニキ!
あんたも、対象年齢なのか!
6: 名無しのC級(中卒・21歳)
5
ああ。
対象は、「15歳から22歳までのC級以下の中卒冒険者」。
俺は、ギリギリ滑り込みセーフだ。
早速、昨日の夜応募してきた。
そしたら、どうだ。
今朝、もう返事が返ってきて、「適性試験に合格しました。1週間後から、講義が開始されます」だとよ。
仕事、早すぎだろ国…。
7: 名無しのF級冒険者
6
うおおおおお!マジかよ!
おめでとう!
8: 名無しのC級(中卒・21歳)
7
ああ、ありがとう。
正直、泣いた。
俺、15で中学出てこの世界に飛び込んだけど、ずっと学歴がないことにコンプレックスがあったんだ。
パーティ組んでも、高卒や大卒の連中から、どこか見下されてるような気がしてな。
それに、伸び悩んでた。
**余裕で生活は出来てたけど、**B級の壁がどうしても越えられなかった。
もう、俺の冒険者人生、ここまでなのかなって諦めかけてた。
でも、これで変われるかもしれねえ。
掲示板じゃなくて、直接A級の講師陣に勉強させて貰えるんだ。こんな凄い事、他にねえよ。
本当に、嬉しい…。
そのあまりにも切実な、魂の告白。
それに、スレッドは温かい祝福の言葉で満たされた。
『おめでとう!』『頑張れよ!』『俺たちの分まで、強くなってくれ!』
だが、その和やかな空気の中で。
対象年齢からわずかに、あるいは大幅に外れてしまった「大人」の冒険者たちの、悲痛な叫びが響き渡った。
45: 名無しのB級(28歳)
…ずるい。
46: 名無しのA級(32歳)
45
ずるいな。
47: 名無しのC級(23歳、昨日誕生日)
45 >>46
ずるい。ずるい。
なんで、22歳までなんだよ!
俺、昨日23歳になったばっかりだぞ!?
たった一日の差で、このチャンスを逃すのかよ!
あんまりだ!ギルドに、抗議のメール送ってくる!
48: 名無しのB級(子持ちパパ)
47
まあまあ、落ち着け。
気持ちは、分かるがな。
俺なんか、もうとっくの昔に対象外だ。
はぁ…。俺たちの時代にも、こんな学校があったらなあ…。
息子の学費の心配、しなくて済むのに…。
心底、羨ましい…。
49: 名無しのA級(通りすがり)
48
駄々をこねるな、大人の冒険者達(笑)。
お前らが、若者の未来に嫉妬してどうするんだ。
俺たちは、俺たちのやり方でこの理不尽な世界と戦うしかねえんだよ。
その突き放したような、しかしどこか愛のある言葉。
それに、大人たちはぐうの音も出なかった。
スレッドは、再び未来への希望に満ちた若者たちの熱狂の場へと、その姿を変えていく。
60: 名無しのラノベ主人公
しかし、マジですげえなこの学校。
学生内ランキングとか、ラノベの世界だと思ったぜ。
絶対、面白いことになるだろ。
生徒会とか、四天王とか出てくるのかな。
胸が、熱くなるな。
61: 名無しのネクロマンサー
60
分かる。
俺、絶対風紀委員になるわ。
そして、「校則違反のミニオンは認めん!」とか、言ってみたい。
62: 名無しのラノベ主人公
61
wwwwwwwww
お前、絶対主人公に最初に倒されるタイプの噛ませ犬だろwww
そのあまりにも平和な、オタクたちのやり取り。
それにスレッドが和やかな笑いに包まれた、その時だった。
その浮かれた空気を、断ち切るかのように。
一つの冷静な、そしてどこまでも本質を突いた分析が、投下された。
投稿主は、このスレッドの誰もがその名を知る、伝説のコテハンたちだった。
155: 元ギルドマン@戦士一筋
…まあ、お前らが浮かれるのも無理はない。
だがな、少し頭を冷やせ。
国が、何の見返りもなしにこれほどの巨大なプロジェクトを立ち上げると思うか?
これは、ただの慈善事業ではない。
そんな中、次の10年のための布石だろうなと、俺は見抜いている。
その意味深な言葉。
それに、スレッドがざわついた。
『え?』『どういうことだ?』
その疑問に答えたのは、情報のプロフェッショナルだった。
160: 名無しのA級(情報屋)
ギルドの旦那の言う通りだぜ。
お前ら、この世界の本当の姿を知らなすぎる。
いいか、よく聞け。
**ダンジョン先進国のここ東京で、**A級探索者は一体何人いると思う?
たった、約10,000名だ。それが、A級の世界だ。
100万人の探索者の中の、わずか1%。
それが、この世界のエリート層の現実だ。
165: ハクスラ廃人
160
そういうことだ。
そして、考えてみろ。
このダンジョン好景気。これからも、どんどん魔石の需要は増え続ける一方だ。
都市のインフラ維持。
装備のクラフト。
新たな、技術開発。
その全てに、魔石が必要になる。
だが、その魔石を効率的に供給できるのは誰だ?
B級上位以上のダンジョンを、安定して周回できるエリート探索者だけだ。
どう考えても、魔石の供給が足りない。
このままでは、いずれ日本の、いや世界の経済は破綻する。
172: ベテランシーカ―
165
ええ。その通りです。
東京だけの冒険者が多いように感じているかもしれませんが、その恩恵を充分に受けているのは、ダンジョン先進国ぐらいですしな。
特に、資源の少ない我が国にとって、ダンジョンから産出される魔石は、唯一にして最大の生命線です。
その供給を安定させ、そしてさらに増大させるためには、どうすればいいか。
答えは、一つしかありません。
彼女は、そこで一度言葉を切った。
そして、その冷徹な、しかし揺るぎない結論を告げた。
173: ベテランシーカ―
今後の事も考えると、多くのエリートA級が、必要になる。
そういうことです。
そのあまりにもリアルで、そしてどこまでも戦略的な国家の思惑。
それに、スレッドの住人たちはもはや言葉を失っていた。
自分たちが、ただ無邪気に喜んでいたこの「冒険者学校」という甘い響きの言葉の裏側にある、巨大な国家間の生存競争。
その真実を、目の当たりにして。
彼らは、自らがその巨大なゲームの盤上の一つの駒に過ぎないことを、改めて理解した。
だが、彼らは絶望しなかった。
むしろ、その逆。
その壮大な物語の一員であることを、誇りに思った。
そして彼らは、自らの役割を果たすことを誓った。
この国のために。
そして、自らの夢のために。
強く、なることを。
スレッドは、再び未来への希望と、そして力強い決意の言葉で満たされていった。
その熱狂の中心で。
一人の若者が、呟いた。
その言葉は、この時代の全ての若者の心の叫びだった。
201: 名無しのF級冒険者
…すげえ。
なんだか、よく分かんねえけど。
すげえ時代に、俺たち生きてんだな。
よし。
俺も、やってやる。
A級に、なってやる。
そしていつか、俺も誰かを救える英雄になってやる。
見てろよ、世界。
見てろよ、雷帝。
そして、JOKER。
俺たちの世代が、この世界の未来を創るんだ。