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第197話

【SeekerNet 掲示板】


 スレッドタイトル:【神降臨】グランドハイストから、ついに“アレ”が出たらしいぞ…【ヘリカルリング】


 1: 名無しの情報屋A級

 おい、お前ら寝てる場合じゃねえぞ!起きろ!

 たった今、ギルドの公式トレードサイトのサーバーログに、とんでもないアイテムが記録された!

 間違いない!本物だ!

 グランドハイストから、ついに出やがった!

 あの歪んだ螺旋が!


 2: 名無しのC級戦士


 1

 は!?マジかよ!?

 アレって、まさか…!


 3: 名無しのB級盗賊


 1

 嘘だろ…?ここ半年、全くドロップ報告がなかったあの指輪か…?

 ソースはどこだ!早くしろ!


 4: 名無しの情報屋A級


 3

 ソースは俺だ!と、言いてえところだが、今はギルドの公式アナウンスを待て!

 だが、間違いねえ!俺のギルドのトップランカーが、今アジールでその現物を見たって、興奮気味に連絡してきた!

 間違いなく、【ヘリカルリング】だ!


 5: 名無しのF級冒険者

 あの…すみません…。

 ヘリカル…リング…?

 それって、そんなに凄いものなんですか…?

 スレの勢いがヤバすぎて、ついていけないんですけど…。


 6: 名無しのE級ヒーラー


 5

 私も、よく知らない…。

 ユニークなのは、分かるけど…。


 名無しのD級(初心者)


 5

 俺もだ。

 プレフィックス?サフィックス?って何?

 なんか、MODの数が減るって聞いたことあるけど、弱くならないのか?

 トータルで、6MODが5MODになることは理解出来るけど…。

 なんで、そんなにみんな騒いでるんだ?


 そのあまりにも初々しく、そして的を射た初心者の疑問。

 それに、スレッドに常駐する百戦錬磨の猛者たちが、待っていましたとばかりにその重い口を開いた。

 その口調は、呆れと、そしてどこか無知な若者を導く教師のような響きを帯びていた。


 20: ハクスラ廃人


 7

 だから、お前らはひよっこなんだよ!

 いいか、よく聞け!一度しか言わねえから、その頭蓋骨に刻み込め!

 この世界の装備にはな、大きく分けて二種類の能力(MOD)が付く。

 プレフィックスと、サフィックスだ。


 プレフィックスってのは、主にお前らの「直接的な強さ」に関わる能力だ。

 最大HPや、最大MP。武器に付く、物理ダメージや属性ダメージの追加。そういう、分かりやすいやつだな。

 サフィックスってのは、主にお前らの「補助的な能力」に関わる。

 各種耐性や、筋力・敏捷みたいなステータス。攻撃速度や、クリティカル率。そういう、ビルドの土台を支える地味だけど重要なやつらだ。


 普通のレア装備には、プレフィックスが3つ、サフィックスが3つ、合計で6つのMODが付く。

 だがあのイカれた指輪は、違う。

 プレフィックスの枠を二つも犠牲にする代わりに、サフィックスの枠を四つに増やしやがる。

 トータルで見れば、MODの数は一つ減る。

 だがな、問題はそこじゃねえんだよ。


 21: ベテランシーカ―


 20

 ハクスラ廃人さんの、おっしゃる通りです。

 そしてここからが、この【ヘリカルリング】が「神話」と呼ばれる本当の理由です。

 その唯一無二のユニーク特性。

『サフィックスモッドの効果量が、50%増加する』。

 皆さん、これが何を意味するか分かりますか?


 22: 名無しのF級冒険者


 21

 えっと…?


 23: ベテランシーカ―


 22

 では、具体的に数字でお見せしましょう。

 この世界のクラフトにおいて、最高ランクとされる「T1(ティアワン)」のMOD。

 それを、この指輪に付与した場合、こうなります。


 この指輪は、特定のMODの効果を50%増加させる。つまり、

 火耐性 +48% → +72%

 冷気耐性 +48% → +72%

 筋力 +55 → +82

 混沌耐性 +35% → +52%

 こうなる。なので、馬鹿みたいに強い指輪って事だ。


 24: 名無しのE級ヒーラー


 23

 …………は?


 25: 名無しのD級(初心者)


 23

 え、ちょ、待って…。

 耐性+72%…?

 B級の呪い(-30%)を受けても、42%残るってことか…?

 指輪一つで…?


 26: ハクスラ廃人


 25

 そういうことだ!

 お前らが兜だの、鎧だの、ブーツだので必死に稼いでるあのクソみてえな耐性を、たった一つの指輪がほぼ全て解決しちまうんだよ!

 つまり、どういうことか。

 他の全ての装備のサフィックスMODの枠が、完全に「解放」されるってことだ!

 耐性を気にする必要がなくなるから、そこに攻撃速度だの、クリティカルダメージだの、好きなだけ火力のMODを詰め込むことができる!

 ビルドの自由度が、爆発する!

 これこそが、この指輪が「究極のビルドイネイブラー」と呼ばれる所以よ!


 そのあまりにも圧倒的な解説。

 それに、スレッドの初心者たちはもはや言葉を失っていた。

 彼らはようやく、この指輪が持つ本当の「価値」と、その「狂気」を理解したのだ。

 そして一人の新人が、恐る恐るその最も気になっていた質問を投げかけた。


 35: 名無しのF級冒険者

 へー…。いくらぐらい、するんです?


 そのあまりにも素朴な問いかけ。

 それに答えたのは、このスレッドのもう一人の主。

 元ギルドマン@戦士一筋だった。

 彼の言葉は、どこまでも重かった。


 40: 元ギルドマン@戦士一筋


 35

 …新人、よく聞け。

 その質問は、愚問だ。

 この指輪に、決まった「価格」など存在しない。

 なぜなら、これは市場にほとんど出回ることがないからだ。

 だが、もし仮に億が一、これがオークションに出品されたとしたら。

 その開始価格は、15兆ぐらいするんじゃないか?

 いや、もっと行くかもしれん。

 S級やSS級が、喉から手が出る程欲しい指輪だからな。


 41: 名無しのC級戦士


 40

 じゅ、15兆…!?

 若返りの薬より、高いじゃねえか…!


 42: 元ギルドマン@戦士一筋


 41

 当たり前だ。

 若返りの薬は、確かに強力だ。だがあれは、あくまで一個人の10年を買うだけの消費アイテムだ。

 だが、こいつは違う。

 これをベースに、神がかったクラフトに成功すれば、その探索者の力は全く別の次元へと跳ね上がる。

 それは、ギルド全体の、あるいは国家全体の戦力図を塗り替えかねないほどのインパクトを持つ。

 その「可能性」に、彼らは金を払うんだ。


 43: グランドハイストの亡霊

 …はぁ。

 懐かしいな、その指輪。

 俺も昔は、あれを夢見てハイストに潜り続けたもんだ。


 44: 名無しのB級盗賊


 43

 おお、亡霊ニキ。

 あんたほどの、実力者でも出なかったのか?


 45: グランドハイストの亡霊


 44

 ああ。

 グランドハイストを回してる連中は、みんなこれ狙いだけど、全然出ないからな、こいつは。

 俺が知る限り、この日本でドロップ報告があったのは、これでまだ4個目だ。

 それくらい、出ない。

 分かるか?グランドハイストは、100回やっても黒字にはなる。だが、これは出なかったからな。

 あの吐き気のするような試行回数の果てに、ようやくこの「当たり」がある。

 だからこそ、これほどの価値が付くのさ。


 そのあまりにも重い当事者の言葉。

 それにスレッドは、深い感嘆と、そしてわずかな諦観の空気に包まれた。

 これは、自分たちには縁のない神々の世界のお祭りなのだと。

 誰もが、そう思い始めていた。


 だが、その諦観の空気を破壊するかのように。

 一つの新たな情報が、投下された。

 投稿主は、あの情報屋A級だった。


 80: 名無しの情報屋A級

 おい、お前らしんみりしてんじゃねえよ!

 速報だ!

 たった今、この【ヘリカルリング】の出品者が判明した!

 ギルドの、公式発表だ!


 81: 名無しのC級戦士


 80

 マジかよ!誰だ!?

 どこのSSS級だよ!?


 その問いかけに、スレッドの全ての視線が集中した。

 そして、あの情報屋A級が、待っていましたとばかりにその答えを投下した。

 彼がアップロードしたのは、公式オークションハウスに出品されたそのアイテムのスクリーンショットだった。


 アイテム名: 【ヘリカルリング】 出品者: “名もなき収穫者たち(The Nameless Harvesters)” 開始価格: 12兆円 残り時間: 71時間59分58秒

 そのあまりにも謎めいた出品者名。

 それに、スレッドが爆発した。


『は!?』

『名もなき収穫者たち!?誰だよ、それ!』

『匿名かよ!ふざけんな!』

『いや、待て…。この名前、聞いたことがあるぞ…』


 そのざわめきを鎮めたのは、再び情報屋A級の書き込みだった。


 112: 名無しの情報屋A級

 ああ、奴らのことか。

 お前ら、知らねえのか。まあ、無理もねえか。奴らは、表舞台には決して出てこねえからな。

 噂でしか、知らんが。

 SS級の連中が、5人くらいで組んでるガチのハイスト専門グループだ。

 国籍もクラスも、バラバラ。

 ただ、ハイストという究極のギャンブルに取り憑かれた、「廃人」たちの集まりだ。

 彼らは、名声を求めない。富も、求めない。

 ただ、最高難易度のグランドハイストをクリアする、そのスリルだけを求めている。

 ドロップ品は、次のハイストの計画書を買うための、ただの軍資金に過ぎねえのさ。

 だから、こんな神話級のアイテムですら、あっさりと市場に流す。

 奴らにとっちゃ、この指輪の価値なんざ二の次なんだよ。


 そのあまりにも常人離れした、プロフェッショナルたちの物語。

 それに、スレッドはもはや言葉を失っていた。

 ただ、そのあまりにも純粋な強者たちの生き様に、畏敬の念を抱くしかなかった。


『すげえ…』

『本物のギャンブラーだ…』

『俺たちが必死に追い求めてるお宝を、ただの次のゲームのチップとしか見てねえのか…』

『格が、違いすぎる…』



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