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第2話

 都庁のすぐそばに、そのビルはあった。

 かつては外資系のエリート企業が入っていたであろう、ガラス張りの近代的な高層ビル。だが、今その正面玄関に掲げられているのは、素っ気ないゴシック体で書かれた『関東探索者統括管理センター』という看板だった。

 そこは、人生の一発逆転を夢見る者、社会からはみ出した者、あるいは、ただ純粋な力に焦がれる者たちが、等しく最初に訪れる場所。現代に残された唯一のフロンティアへの、狭く、そしてあまりにも多くの人間が殺到する入り口だった。


 ビルの内部は、空港のロビーを思わせる広大な吹き抜けになっていたが、その空気は期待よりもむしろ、焦燥と不安で満ち満ちていた。何百人という若者たちが、番号札を手に、硬いプラスチックの椅子に座って自分の番を待っている。彼らの服装は様々だ。隼人のように、なけなしの金で揃えたであろう安物の装備に身を包んだ者。有名ブランドの探索者用ウェアを着こなし、自信に満ちた表情を浮かべる者。あるいは、スーツ姿のまま、人生のレールから外れる覚悟を決めてやってきた者もいる。


 隼人は、受付で渡された『375番』という番号札を握りしめ、空いている席に腰を下ろした。順番が来るまで、まだ二時間以上はかかるだろう。彼は目を閉じ、周囲の会話に意識を集中させた。こういう場所で得られる生の情報は、時にどんな高価なガイドブックよりも価値がある。


「なあ、お前はどんなスキルが欲しい?やっぱ『火球ファイアボール』みたいな攻撃系だよな!」

「俺は『身体強化フィジカルブースト』系がいいな。シンプルに強えし、どんな武器でも使えるだろ」

「ハズレだけは引きたくねえよなあ。『アイテム鑑定』とか、『索敵』とかさ。サポート系はギルドに入らねえと食っていけねえし」

「分かる。俺のダチ、『土壁アースウォール』だったんだけどさ、パーティーじゃ壁役ばっかで全然稼げねえって嘆いてたぜ」


 聞こえてくるのは、希望と、現実的な打算が入り混じった会話ばかり。この世界では、最初に授かるユニークスキルが、その後の探索者人生のほぼ全てを決定づける。攻撃系スキルはソロでも活躍しやすく、花形とされる。防御系やサポート系は、パーティーでの需要はあるものの、稼ぎは攻撃役アタッカーに劣るのが常だ。そして、ごく稀に存在する生産系や特殊系スキルは、大当たりか、あるいは全く使い物にならないかの両極端。まさに、人生最初の、そして最大のガチャだった。


『368番の方、7番カウンターへどうぞ』


 無機質なアナウンスが響き、一人の青年が緊張した面持ちで立ち上がった。カウンターの向こうには、役所の職員のように疲れきった表情の中年男性が座っている。青年の前には、水晶が埋め込まれた黒いパネル――スキル測定器が置かれていた。

 青年が恐る恐るパネルに手をかざすと、水晶が淡い光を放ち、カウンターのモニターに結果が表示される。職員が、感情の乗らない声で結果を読み上げた。


「――はい、鈴木さんね。ユニークスキルは…『調理』。以上です」


 瞬間、待合室のあちこちから、くすくすという嘲笑が漏れた。青年は顔を真っ赤にして俯く。

「ちょうり…って、あの料理の、ですか?」

「ええ。食材の味を少しだけ良くしたり、保存期間を延ばしたりできるみたいですね。まあ、ダンジョン内での食事には便利なんじゃないですか。はい、これが探索者カード。ご武運を」

 事務的な言葉と共に、一枚のカードが手渡される。青年はそれをひったくるように受け取ると、逃げるようにしてセンターを去っていった。その後ろ姿に、何人かが「飯マズパーティーには需要あるかもな」「キャンプ専門探索者かよ」と容赦のない言葉を投げかける。


 残酷な場所だ、と隼人は思った。だが、同時に、これほどまでに公平な場所もない。家柄も、学歴も、金も、ここでは何の意味も持たない。ただ、天から与えられたたった一つの才能だけが、人間の価値を決定づける。それは、隼人が渡り歩いてきた裏社会の賭場よりも、よほどクリーンで、本質的だった。


 やがて、長い待ち時間の後、ついに隼人の番号が呼ばれた。

『375番の方、4番カウンターへどうぞ』

 隼人はゆっくりと立ち上がり、指定されたカウンターへ向かった。対応したのは、先ほどの鈴木という青年を対応した職員とは別の、少し若い女性職員だった。彼女もまた、マニュアル通りの笑顔を顔に貼り付けてはいるが、その目の奥には深い疲労が滲んでいる。


「神崎隼人さんですね。では、こちらの測定器に手をかざしてください」

 促されるまま、隼人は黒いパネルに右手を置いた。ひんやりとした感触が、汗ばんだ掌に心地よい。

 パネルの水晶が、青白い光を放ち始めた。それは、先ほどの青年たちの時よりも、明らかに強く、そして長く続いた。女性職員が、訝しげに眉をひそめる。

 やがて光が収まり、彼女の目の前のモニターに結果が表示された。


「ええと…神崎さんのユニークスキルは…」

 彼女はモニターの表示を読み上げようとして、わずかに言葉を詰まらせた。そして、意外そうな顔で隼人を見上げる。

「スキルは、二つ…ですか。珍しいですね」

 その言葉に、周囲で待っていた何人かが、興味深そうにこちらを窺う。二つ名持ち(デュアルホルダー)は、数千人に一人と言われる希少な存在だ。それだけで、エリートへの道が約束されたようなもの。羨望の視線が、隼人に突き刺さる。


 だが、女性職員が読み上げた一つ目のスキル名が、その場の空気を一変させた。

「一つ目は、【複数人の人生(マルチアカウント)


 ユニークスキル【複数人の人生】

[画像:一つの魂の輝きから、無数の異なる色の光の道筋が、無限に分岐していく様を幻視したかのような、抽象的で美しいアイコンのイメージ。]


 名前:

 複数人の人生(マルチアカウント)

(Multiple Lives / Multi-Account)


 レアリティ:

 ユニークスキル (等級:■■■■)


 種別:

 パッシブスキル / 魂の器 (Passive Skill / Vessel of the Soul)


 効果テキスト:

 このスキルを持つ者は、極めて希少な触媒【魂の水晶】を一つ消費することで、自らの魂の中に、新たな**『人生キャラクタービルド』**を一つ、創造することができる。


 新たに創造されたキャラクターは、レベル1の、初期スキルを持たない**『無職』**の状態から始まる。


 ただし、その新しいキャラクターは、このスキルによって創造された他の全てのキャラクターが、クエスト報酬などで得た**「外部取得パッシブスキルポイント」**を、共有し、受け継ぐことができる。


 術者は、街や隠れハイドアウトなどの安全な場所で、精神を集中させることにより、いつでも自らが歩む「人生」を、瞬時に切り替えることが可能である。

 切り替えた際、装備品は全てインベントリへと自動的に収納される。


 これは、ただの転職ではない。

 一つの魂の中に、無数の、全く異なる可能性の「自分」を宿し、それを自在に演じ分けるための、神の如き器である。


 フレーバーテキスト:

 もし、君に、もう一つの人生が与えられるとしたら。

 君は、何を望む?


 鋼の肉体と、不屈の魂を持つ**【戦士】**か。


 世界の理を、その指先で紡ぐ**【魔術師】**か。


 影に生き、影に死す、孤高の**【盗賊】**か。


 あるいは、何者でもない**【無職】**として、

 全ての可能性をその身に宿したまま、

 ただ、風の吹くままに、歩き続けるのか。


 その選択肢は、無限。

 その道筋もまた、無限。


 さあ、選ぶがいい。


 君の前には、無限の可能性が存在しているのだから。



 瞬間、周囲の羨望は、あからさまな失望と、そして憐憫へと変わった。

「なんだ、マルチアカウントか…」

「デュアルホルダーって期待したのに、片方がアレじゃあな」

「むしろマイナスじゃねえの?」

 そんな囁き声が、隼人の耳にも届いた。


複数人の人生(マルチアカウント)】。

 それは、ユニークスキルの中でも、特に「器用貧乏」「金食い虫」として名高いハズレスキルだった。

 効果は、複数の「キャラクター」を自身に保存し、ビルドを切り替えることができるというもの。ビルドとは、ステータスの割り振りやスキルの習熟度、装備の組み合わせなどのことだ。理論上は、筋力特化の戦士ビルドと、魔力特化の魔術師ビルドを使い分ける、なんてことも可能になる。

 だが、このスキルには致命的な欠点があった。キャラクターを新規作る度に、ダンジョンで稀にドロップする『魂の水晶』という高価なアイテムを消費するのだ。さらに、複数のビルドを維持するためには、それぞれのビルドに合った高価な装備を一式ずつ揃えなければならない。金持ちの道楽か、あるいは、よほど効率的に稼げるトップギルドに所属でもしない限り、宝の持ち腐れになるのがオチだった。


 女性職員も、そのあたりの事情はよく理解しているのだろう。彼女の笑顔から、マニュアル以外の色が消えていた。

「えー…ビルドの切り替えが可能なスキルですね。様々な状況に対応できる、便利なスキルですよ」

 その口調は、明らかにテンプレ通りのものだった。

 隼人は、何も言わずにただ黙っていた。周囲の反応も、職員の対応も、全て彼の想定通り。


「そして…二つ目のスキルですが…」

 職員は再びモニターに視線を落とし、そして、今度こそ本当に眉をひそめた。彼女は何度かモニターを指でタップし、キーボードを叩いて何かを検索している。その表情は、先ほどの失望とは違う、純粋な「困惑」に染まっていた。

「…おかしいわね。こんなスキル、データベースに登録がないんですけど…」

 彼女の呟きに、再び周囲がざわつく。前例のないスキル。それは、歴史を創る神スキルか、あるいは、本当に使い道のない産業廃棄物かのどちらかだ。固唾を飲んで、誰もが職員の次の言葉を待っていた。


「スキル名、【運命の天秤(フェイト・スケール)】…効果、『詳細不明』。…判定不能アンノウン?」



 ユニークスキル【運命の天秤】

[画像:古代の天秤が、片方の皿には輝く星々を、もう片方の皿には深淵の闇を乗せ、常に揺れ動き続けている、抽象的で美しいアイコンのイメージ。]


 名前:

 運命の天秤(フェイト・スケール)

(The Balance of Fate / Fate Scale)


 レアリティ:

 ユニークスキル (等級:SSS)


 種別:

 パッシブスキル / 因果律干渉


 効果テキスト:

 このスキルを持つ者は、世界のあらゆる「確率」に干渉し、その結果を捻じ曲げる。

 具体的な効果は、以下の通りである。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 また、■■■■■が■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■。

 ただし、この力の行使には、■■■■■■という、極めて重い■■を伴うとされるが、その詳細は、神々ですら、完全には解明できていない。


 フレーバーテキスト:

 神々以外に、道化師ジョーカーの真意が見抜けるわけないだろう?



 女性職員は、まるで信じられないものでも見るかのように、モニターと隼人の顔を交互に見比べた。

「お客様、申し訳ありません。こちらのスキルですが、過去に一件も登録例がありません。効果も、現在の測定器では解析不能なようです」

「…つまり、ハズレ、ということですか」

 隼人が、初めて口を開いた。

 その問いに、職員は少し気まずそうに視線を泳がせた。

「いえ、そういうわけでは…ただ、効果が分からない以上、使いようがない、と言いますか…。ご自身で、色々と試していただくしかないかと…。レアリティ判定はSSSクラスに分類されていますが、これは単に希少性を示すだけで、強さとは比例しませんので…」


 歯切れの悪い説明。だが、その場にいる誰もが、その言葉の真の意味を正確に理解していた。

 レアなだけの、ゴミスキルだ。

【複数人の人生】という金食い虫のハズレスキルと、効果不明の役立たずスキル。二つ持ち(デュアルホルダー)という希少性も、その最悪の組み合わせの前では、ただの笑い話でしかなかった。

 侮蔑、同情、嘲笑。あらゆる負の感情が混じり合った視線が、容赦なく隼人に突き刺さる。先ほどまで彼に羨望の眼差しを向けていた人々は、今や、自分の方がまだマシだったと胸を撫でおろしていた。


「はい、では…こちらが神崎さんの探索者カードになります。ご、ご武運を…」

 女性職員は、どこか申し訳なさそうに、一枚のプラスチックカードを隼人に手渡した。

 隼人は、それ受け取ると、一礼し、カウンターを離れた。背中に突き刺さる視線を、まるで意に介さないかのように、彼は少しも揺るがない足取りで出口へと向かう。


 センターの自動ドアが開き、外の喧騒が彼を包み込んだ。

 彼は、先ほど受け取ったばかりの探索者カードを、太陽の光にかざして眺めた。そこには、彼の名前と、二つのスキル名が刻まれている。

複数人の人生(マルチアカウント)

運命の天秤(フェイト・スケール)


 周囲の人間が、この二つのスキルをどう評価したか。隼人は正確に理解している。

 一つは、凡人の夢を食い物にする、コストだけが高い器用貧乏スキル。

 もう一つは、誰も価値を理解できない、用途不明のゴミスキル。

 最悪の組み合わせ。神に見放された男。それが、客観的な評価だろう。


 だが、隼人の口元には、誰にも見えない、不敵な笑みが浮かんでいた。

 彼の心は、侮辱されたことへの怒りでも、将来への絶望でもなく、全く別の感情で満たされていた。

 それは、歓喜。

 ギャンブラーとしての、本能的な、魂の奥底からの歓喜だった。


(――それでいい。それでいいんだ)


 彼は、心の内で呟いた。

 ギャンブルにおいて、最強のカードとは何か?

 それは、誰もが「最強」と認めるエースのカードではない。そんなものは、すぐに警戒され、対策され、潰される。

 最強のカードとは、誰もが「無価値」だと信じ込み、油断しきっている、忘れ去られたジョーカーだ。そのカードの本当の価値を、自分だけが知っている。そして、全ての人間が忘れた頃に、そのカードをテーブルに叩きつけ、場を根底からひっくり返す。

 それこそが、ギャンブルの、そして人生の、最高にスリリングな瞬間ではないか。


複数人の人生(マルチアカウント)】。

 金食い虫?器用貧乏?違う。

 これは、究極のリスクヘッジであり、無限の可能性を秘めた器だ。どんな状況、どんな敵、どんなルールにも、自分自身を最適化できる。これほどの万能カードが他にあるか?コストの問題など、これから稼ぐ金でどうとでもなる。


 そして――【運命の天秤(フェイト・スケール)】。

 効果、詳細不明。

 だが、その名を聞いた瞬間、隼人のギャンブラーとしての魂は、その本質を直感していた。

 運命。天秤。

 それは、確率を司るスキルだ。リスクとリターンを、極端に揺り動かす力。

 天秤は、釣り合っているだけでは何の意味もなさない。右か、左か。どちらかに大きく傾けるからこそ、価値が生まれる。そして、その傾きを、自らの意思でコントロールできるとしたら?

 それは、神のサイコロを手に入れたにも等しい。


(俺の人生そのものを賭け金に、運命を揺さぶるスキル…か)


 最高じゃないか。

 これほど俺に相応しいスキルは、他にない。

 周囲の侮蔑は、むしろ好都合だった。警戒されることなく、誰にも邪魔されず、自分の力を試すことができる。


 隼人は、探索者カードをポケットにしまい、顔を上げた。

 彼の眠たげだった瞳の奥に、今、狂気と呼ぶにふさわしい、爛々とした光が宿っていた。

 もう、迷いはない。

 彼は、スマートフォンを取り出し、地図アプリを開いた。そして、目的地を検索する。

『F級ダンジョン ゴブリンの洞窟』

 都心から電車とバスを乗り継いで、一時間ほどの距離にある、最も難易度が低いとされるダンジョン。新人探索者が、最初にその実力を試す場所だ。


 隼人は、最寄りの駅へと歩き出した。

 すれ違う人々は、誰も彼の存在に気付かない。誰も、この平凡な見た目の青年が、これから世界の常識を覆すほどの、途方もない奇跡と伝説の第一歩を踏み出そうとしていることなど、知る由もなかった。


 電車に揺られながら、隼人は窓の外を流れる景色を眺めていた。ビル群が次第に低くなり、住宅街が広がる。車内には、学校帰りの学生や、買い物袋を抱えた主婦、疲れきった顔のサラリーマン。誰もが、それぞれの日常を生きている。

 つい昨日まで、自分もその一人だった。

 だが、もう違う。俺は、テーブルに着いた。命をチップに、運命と勝負する、プレイヤーになったのだ。


 バスを降りると、ひんやりとした山の空気が肌を撫でた。

 ダンジョンの入り口は、山の麓にある、古びた神社の鳥居の奥にあった。かつては観光地だったのだろうが、今では立ち入り禁止の看板と、物々しいフェンスで封鎖されている。入り口には、探索者ギルドの仮設テントが設置され、数人の職員が常駐していた。

 隼人の他にも、何組かの新人探索者らしきパーティーが、準備運動をしたり、装備の最終チェックをしたりしている。彼らは皆、不安と期待に満ちた、初々しい表情をしていた。


 隼人は、彼らに一瞥もくれず、フェンスの切れ目からダンジョンの敷地へと足を踏み入れた。

 空気が、変わった。

 目には見えないが、肌がピリピリとするような、濃密な魔素の気配。空間そのものが、わずかに陽炎のように歪んで見える。これが、ダンジョン。異世界への入り口。

 洞窟の入り口は、まるで巨大な獣の顎のように、黒々とした口を開けていた。中から、生暖かく、カビ臭い風が吹き出してくる。


 隼人は、洞窟の入り口の手前で立ち止まった。

 そして、秋葉原で買った、安物のARコンタクトレンズ型カメラを目に装着する。

 彼は、これから起こる全てのことを、世界に配信するつもりだった。

 それは、単に金を稼ぐためだけではない。

 これは、彼のショーだ。神崎隼人という男の、人生を賭けた、壮大なギャンブルの記録。その証人が、一人でも多くいるに越したことはない。


 彼は、震える指で、配信アプリを起動した。

 タイトルは、もう決めてある。


『【人生RTA】無職ギャンブラー、全財産ベットでダンジョンに挑んでみた #1』


 配信開始のボタンを押す。

 視聴者、ゼロ。

 当たり前だ。無名の新人の、初配信など、誰が見るというのか。

 だが、それでいい。

 観客は、後から勝手についてくる。


 隼人は、腰に差した、刃こぼれしたナイフの柄を握りしめた。

 そして、黒い洞窟の闇の中へ、迷いなくその一歩を踏み出した。

※2025/07/08 【複数人の人生マルチアカウント】の性能を変更しバフしました。


【複数人の人生マルチアカウント】。

それは、コモンスキルの中でも、特に「器用貧乏」「金食い虫」として名高いハズレスキルだった。

効果は、複数の「ビルド・セットアップ」を自身に保存し、切り替えることができるというもの。ビルドとは、ステータスの割り振りやスキルの習熟度、装備の組み合わせなどのことだ。理論上は、筋力特化の戦士ビルドと、魔力特化の魔術師ビルドを使い分ける、なんてことも可能になる。

だが、このスキルには致命的な欠点があった。ビルドを切り替える度に、ダンジョンで稀にドロップする『魂の水晶』という高価なアイテムを消費するのだ。さらに、複数のビルドを維持するためには、それぞれのビルドに合った高価な装備を一式ずつ揃えなければならない。金持ちの道楽か、あるいは、よほど効率的に稼げるトップギルドに所属でもしない限り、宝の持ち腐れになるのがオチだった。

【複数人の人生マルチアカウント】。

それは、コモンスキルの中でも、特に「器用貧乏」「金食い虫」として名高いハズレスキルだった。

効果は、複数の「キャラクター」を自身に保存し、ビルドを切り替えることができるというもの。ビルドとは、ステータスの割り振りやスキルの習熟度、装備の組み合わせなどのことだ。理論上は、筋力特化の戦士ビルドと、魔力特化の魔術師ビルドを使い分ける、なんてことも可能になる。

だが、このスキルには致命的な欠点があった。キャラクターを新規作る度に、ダンジョンで稀にドロップする『魂の水晶』という高価なアイテムを消費するのだ。さらに、複数のビルドを維持するためには、それぞれのビルドに合った高価な装備を一式ずつ揃えなければならない。金持ちの道楽か、あるいは、よほど効率的に稼げるトップギルドに所属でもしない限り、宝の持ち腐れになるのがオチだった。



※2025/07/14 【複数人の人生マルチアカウント】と【運命の天秤フェイト・スケール】の効果文とフレバーテキストを追加しました。

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周囲の人たちにはっきりわかるように個人情報告げられるの草
測定器に手をかざすだけのお手軽さでスキルが手に入るのに全人類がスキルを取ってない理由って何なんだろう? そんな簡単なら国家主導で全国民にスキルを取らせると思う
雰囲気があってワクワクする
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