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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ネクロマンサービルドE級編

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179/491

第176話

 その日の午後の空気は、どこか穏やかで、そして退屈だった。

 神崎隼人――“JOKER”は、午前中のハイスト配信を、いつものように完璧な成功で締めくくっていた。

 純利益、約120万円。

 その数字は、もはや彼の心を、以前のようには踊らせてはくれなかった。

 それは、もはやギャンブルではない。

 ただの、ルーティンワーク。

 彼の魂は、渇いていた。

 この、完成されすぎた日常を打ち破るような、新たなスリルを。

 未知なる、テーブルを。


 彼は、タワーマンションの自室に戻ると、しばらくの間、窓の外に広がる西新宿の風景を、ただぼんやりと眺めていた。

 そして彼は、決意した。

 自らの手で、新たな嵐を巻き起こすことを。

 彼は、配信のスイッチを入れた。

 そのタイトルを見た彼のチャンネルに待機していた数十万人の視聴者たちが、一瞬、その意味を理解できずに、静まり返った。

 そして、次の瞬間。

 コメント欄は、これまでのどの熱狂とも比較にならない、本当の「爆発」を起こした。


『【朗報】JOKER、新たな人生を始める【ネクロマンサービルドスタート】』


『は!?』

『新たな人生!?』

『ネクロマンサー!?マジかよ!』

『あの最強の戦士ビルド、やめちまうのか!?』

『いや、待て!あいつには、あのハズレスキルがあったはずだ!【複数人の人生】…!ついに、使うのか!』


 その熱狂をBGMに、配信画面にJOKERの姿が、映し出された。

 彼は、ギシリと軋む古びたゲーミングチェアに座り、ARカメラの向こうの興奮する観客たちに、不敵な笑みを向けた。


「よう、お前ら。見ての、通りだ」

 彼の声は、どこまでも楽しそうだった。

「今の『戦士JOKER』は、強くなりすぎた。正直、退屈だ。だから、新しいゲームを始めることにした。ゼロからな」

「次の俺の人生。それは、お前らが一番予想しなかった道かもしれねえな」

 彼は、そこで一度言葉を切ると、最高のショーマンの笑顔で告げた。

「――死者を率いる、王の道だ」


 彼が、インベントリから一つのアイテムを取り出す。

 それは、ギルドの公式ストアで、彼の資産の中から、躊躇なく100万円をはたいて購入した、特殊なクラフトアイテム。

【魂の水晶】。

 七色に輝く美しい、しかしどこか禍々しいオーラを放つ、手のひらサイズの水晶。

 新たな「人生」を、その身に刻むための、唯一の触媒。


「じゃあ、いくぞ」


 彼は、それを静かに握りしめ、念じた。

 彼のユニークスキル、【複数人の人生】が、初めてその真の力を解放する。

 彼が【魂の水晶】を使用すると、彼の全身が、まばゆい光に包まれた。

 彼の魂の内側で、新たな器が創造されていく、その圧倒的な感覚。

 そして、光が収まった時。

 彼の目の前のARウィンドウに表示されていたレベル46という数字が、ゆっくりと、しかし確実に、その輝きを失っていく。

 45、40、30、20、10…。

 そして、ついに。

『LEVEL 1』

 その、あまりにも懐かしい、そして無力な数字へと、レベル1に変わる。

 同時に、彼の身を包んでいた装備が、全て音もなく消え去った。

 装備も、全部外れてる。


『うおおおおお!マジでレベル1に戻った!』

『装備も、全部消えたぞ!』

『これが…【複数人の人生】の力か…!』


 コメント欄が、その奇跡の光景に、戦慄する。

 隼人は、自らの軽くなった体を確かめるように、軽く腕を振るった。

「…はっ。なるほどな。面白い。力が、完全に抜けていく感覚だ」

「よし、変わってるな。装備は、全部インベントリに入ってるな」

 彼は、インベントリに先ほどまで装備していた戦士用の装備が、確かに格納されていることを確認する。

 そして彼は、ニヤリと笑った。


「さてと」

「いよいよ、ゾンビ召喚だ」

 彼は、インベントリの中からいくつかのみすぼらしいアイテムを取り出し、その身に装備していく。

 ボロボロの黒い魔術師のローブ。

 そして、その手に握られたのは、まるで森で拾ってきたただの枯れ木のような、歪なワンド。


「こいつは、なかなかの掘り出し物でな。5000円だったぜ」

 彼は、そう言ってそのワンドをカメラの前にかざして見せた。

「そして、このローブ。これは、フリマで100円。本当に、安いな。F級装備ってのは、良いよな」

 その、あまりにも貧相な装備。

 それに、コメント欄が爆笑の渦に包まれる。


『wwwwwwwwwww』

『A級トップランカーの装備が、100円www』

『その落差が、ヤバすぎるwww』


「だが、これでいい」

 彼は、満足げに頷いた。

「ここから、どう成り上がっていくか。それを見せるのが、今回のショーの醍醐味だからな」


 彼は、転移ゲートへと向かった。

 彼が選んだ、その新たな人生の最初の舞台。

 それは、彼が全ての物語を始めた、あの場所だった。


 F級ダンジョン【スライムの洞窟】。


 ◇


 ひんやりとした、湿った土の匂い。

 数ヶ月ぶりに訪れたその場所は、何も変わっていなかった。

 だが、そこに立つ彼自身は、全くの別人だった。

 彼は、もはやA級のトップランカーではない。

 ただの、レベル1のか弱い魔術師見習い。

 その、あまりにもな無力さ。

 それが、逆に彼の心を、これ以上ないほど高揚させていた。


 彼が、洞窟の奥深くへと慎重に足を踏み入れていくと、すぐに最初の敵と遭遇した。

 一体の、緑色の半透明の生命体。

 粘性の、スライム。

 以前の彼であれば、ただの一瞥で塵芥のように消し飛ばしていただろう、最弱のモンスター。

 だが、今の彼にとっては、貴重な「資源」だった。

 彼は、そのスライムを、自らの杖から放たれる貧弱な魔力の弾丸で、数分かけてようやく倒した。

 そして、その場に崩れ落ちた、緑色の小さな死体。

 それを見つめる彼の瞳は、妖しく、そしてどこまでも冷徹に輝いていた。


「――起きろ」


 彼は、その死体へと骨の杖を向け、念じた。

 スキル【レイズ・ゾンビ】、発動。

 スライムの死体が、ピクピクと痙攣を始める。

 そして、そのゼリー状の体の中から、一体の人型の骨の影が、ゆっくりとその姿を現した。

 彼の、最初のしもべ

 記念すべきゾンビ1号が、誕生した瞬間だった。

 彼は、そのゾンビ1号に満足げに頷くと、さらに森の奥深くへと進んでいく。

 そして彼は、自らの新たな人生の本当の「始まり」を、迎えることになる。


 彼が、一体のゾンビを引き連れ、洞窟を進んでいくと、すぐに次の敵が現れた。

 三体の、スライム。

 以前の彼であれば、何の問題もない相手。

 だが、今の彼にとっては、十分に脅威となりうる。

 彼は、隠れない。

 ただ、その三体の前に、静かに佇むだけ。

 そして彼は、命令を下した。


「――1号、行け」


 その、短い、しかし絶対的な意志の力。

 それに、彼の後ろに控えていたゾンビ1号が、即座に反応した。

 ウオオオと呻き声を上げながら、ゾンビ1号は、三体のスライムのその一体へと、突撃していく。

 その、あまりにも唐突な攻撃。

 それに、スライムたちは、その原始的な思考回路で、ただ目の前の脅威に反応するだけ。

 だが、隼人はその盤面を、完全に支配していた。

 彼は、ゾンビにただ突撃を命じたのではない。

 ゾンビに、的確な指示をしつつ、その思考を操っていたのだ。


「右の一体に、集中しろ。他の二体は、無視しろ」

 彼の声が、静かな洞窟に響く。

「そうだ。そのまま、押し込め。体勢を、崩せ」

 彼のギャンブラーとしての「盤面を読む力」が、このネクロマンサーという新たなビルドと、完璧なシナジーを生み出していた。

 彼は、もはや一人のプレイヤーではない。

 戦場を俯瞰し、駒を動かす指揮官だった。


 ゾンビ1号は、その命令通り、一体のスライムに執拗に食らいつく。

 そして、そのスライムが体勢を崩した、その瞬間。

 ゾンビ1号の腐った口が大きく開かれ、そしてそこから一つの奇妙な、しかし確かな勝利の雄叫びが放たれた。


「――ア゛…、ハァ…!」


 その、あまりにも人間的な、そしてどこか知性を感じさせる声。

 それに、他の二体のスライムは、完全にその動きを止めた。

 そして、その硬直の隙を、隼人が見逃すはずもなかった。

 彼は、残りの二体のスライムへと、自らの唯一の攻撃魔法を放った。

 骨の杖から放たれる、貧弱な魔力の弾丸。

 だが、その弾丸がスライムの体を捉えた、その瞬間。

 彼らの頭上に、紫色の不吉な紋様が、浮かび上がった。

【脆弱の呪い】。

 その呪いを受けたスライムたちの防御力は、無に等しかった。

 そこに、ゾンビ1号の追撃の一撃が、叩き込まれる。

 そして、二体のスライムもまた、なすすべもなくその場に崩れ落ちた。


 後に残されたのは、三つの新鮮な死体。

 隼人は、その光景に満足げに頷いた。

 そして、彼はゾンビ召喚を2回唱える。

「起きろ。そして、俺に仕えろ」

 ゴゴゴゴゴ…

 二体のスライムゾンビが、新たに彼の軍団へと加わった。

 ゾンビミニオンが、3体召喚される。

 彼は、その三体の死の軍勢を引き連れ、さらに奥へと進んでいく。


「よし、じゃあいくぞ。付いてこい」

 彼は、そう指示を出し、ダンジョンを進んでいく。

 その彼の新たな人生は、最高の形でその幕を開けた。


 ◇


 数時間の探索の末。

 彼のゾンビ軍団は、その数を着実に増やしていた。

 そして、彼のレベルもまた、2まで上昇していた。

 だが、そのドロップ品は、あまりにもしょぼかった。

 スライムの、核。

 そして、いくつかの低級の魔石。

 その全てを合わせても、一日2万円にも満たない。


『うわー、ドロップしょぼすぎw』

『A級配信の後だと、この落差がヤバいなw』

『でも、これはこれで面白い!原点回帰って感じがして!』


 コメント欄もまた、その新たなJOKERの戦いを、楽しんでいた。

 彼が、一体のスライムが現れたのを見つける。

 そして彼は、命令を下した。

「よし、とりあえず3体全員で、殴れ」

 指示通りに動く、ゾンビミニオン。

 その、数の暴力。

 それに、スライムはなすすべもなく、1分で倒す。


「おー、すげー楽だな。指示するだけで、動くのってのは」

 彼は、その新たな戦いのスタイルに、素直な感想を言う。

 そして彼は、不敵に笑った。

「じゃあ、じゃんじゃん行くか」

 彼は、満足げに良い、進んでいく。


「稼ぎは、ゴミみてえなもんだがな」

 彼は、コメント欄の声に答える。

「だが、しばらくはハイストで安定収入120万円があるからな」

「こっちは、完全に趣味だ。遊びだ。この新しいゲームを、どう攻略していくか。それを、楽しむためのな」


 その、あまりにも贅沢な遊び。

 それに、視聴者たちは賞賛と、そしてわずかな嫉妬の声を送るのだった。

 彼の新たな、そして最も自由な冒険が、今、始まった。

 その行き着く先を、彼自身すらも、まだ知らなかった。






 ## ステータス (ネクロマンサービルド)

 - **レベル:** 2

 - **クラス:** 魔術師

 - **アセンダンシー:** なし

 - **HP:** 100 / 100 `((基礎100)`

 - **MP:** 74 / 74 `((基礎74)`

 - **筋力 (Strength):** 5

 - **体力 (Constitution):** 10

 - **敏捷 (Dexterity):** 12

 - **知性 (Intelligence):** 18`((基礎8+クラスボーナス+10)` 

 - **精神 (Mentality):** 7

 - **幸運 (Luck):** ??

 - **ステータスポイント:** 残り: 0

 - **パッシブスキルポイント:** 残り: 3`(ギルドパッシブポイント+2/24済み)`

 - **HP自動回復:** 0 / 秒 `()`

 - **MP自動回復:** 1 / 秒 `(基礎1)`

 - **物理ダメージ軽減:** 0%`()`

 - **精度 (Accuracy):** +0 `()`

 - **移動速度:** +0% `()` ※水銀のフラスコ使用時、さらに+40%

 - **攻撃速度:** +0% `()`

 - **チャージ上限値:**

  - **持久力チャージ:** 3

  - **狂乱チャージ:** 3

  - **パワーチャージ:** 3

 - **耐性値 (B級ダンジョン内):**

  - **火耐性:** 0% (上限) `()`

  - **氷耐性:** 0% (上限) `()`

  - **雷耐性:** 0% (上限) `()`

  - **混沌耐性:** 0% `()` ※アメジストのフラスコ使用時、さらに+35%


 ## スキル

 - **ユニークスキル:**

  - **【複数人の人生マルチアカウント】:** 複数のビルドを保存・切り替え可能。莫大なコストがかかるため、「有用度1」の大ハズレスキルとされているが、JOKERの【運命の天秤】がその常識を覆す可能性を秘める。

  - **【運命の天秤フェイト・スケール】:** クラフトなどの確率が絡む事象に介入し、奇跡的な結果を生み出す。JOKERの伝説の根幹をなすスキル。

 - **カスタムスキル:**

  - **【通常技】ゾンビ召喚 (消費MP: 9):** ゾンビを召喚する。最大ゾンビ数は3体

  - **ジェム構成:** (ゾンビ召喚)

  - **【通常技】【脆弱の呪い】 (消費MP: 12):** 範囲の敵を呪う対象の受ける物理ダメージを20%アップする

  - **【通常技】火の矢 (消費MP: 9):** 火の矢を放つ。


 ## 装備品

 - **武器:** 【普通のワンド】(ノーマル)

 - **盾:**

 - **頭:**

 - **胴:**

 - **手:**

 - **足:**

 - **首輪:**

 - **指輪 (左):**

 - **指輪 (右):**

 - **ベルト:**

 - **インベントリ保管:**


 

 ## フラスコ

 - **スロット1:** ライフフラスコ (中)

  - 効果: HPを回復する。

      出血状態で、使用すると、出血を、即座に、解除し4秒の出血耐性を付与する。

 - **スロット2:** マナフラスコ (小)

  - 効果: MPを回復する。

 - **スロット3:** 水銀のフラスコ

  - 効果: 使用後4秒間、移動速度が40%上昇する。

 - **スロット4:** 解呪のフラスコ

  - 効果: 使用時、自身にかかっている呪い(デバフ)を解除する。

 - **スロット5:** アメジストのフラスコ

  - 効果: 使用後6秒間、混沌耐性が35%上昇する。


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