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第175話

【SeekerNet - North America Server】


 スレッドタイトル:【助けて】来月からF級デビューする18歳なんだが、何から始めればいい?


 1: 名無しのルーキー

 はじめまして。

 先月、カリフォルニアの高校を卒業した18歳です。

 昔からの夢だった、探索者になることを決意しました。

 親には、大学に行けと泣いて反対されましたが、勘当同然で家を飛び出してきました。

 手元にあるのは、卒業祝いでもらった中古のピックアップトラックと、なけなしの貯金3000ドルだけです。


 配信で見た、日本のJOKERさんみたいなクールなソロプレイヤーに、憧れてます。

 でも、何から始めればいいのか、全く分かりません。

 とりあえず、一番近いF級ダンジョン【ゴブリンの森】に、行こうと思ってるんですが…。

 先輩方、どうか俺にこの世界で生き残るための知恵を、授けてください。

 お願いします。


 その、あまりにも青臭く、そしてどこまでも真摯な魂の叫び。

 それに、スレッドの猛者たちが、待っていましたとばかりに、それぞれの哲学を叩きつけていく。


 12: 名無しのF級探索者(2年目)


 1

 ようこそ、地獄へ。

 まず、言っておく。JOKERに憧れるのは、やめとけ。

 あれは、神に愛されたただの例外だ。

 俺たち凡人が真似しようとしたら、一日で死ぬ。


 15: 名無しのE級ヒーラー


 12

 まあまあ、そう言ってやるなよ。夢を見るのは、自由だろ。


 1

 まず、君がすべきことは、武器を揃えることだ。

 だが、新品に手を出すな。絶対に、だ。

 ダンジョンの前のマーケットで、中古のボロボロの剣でも、槍でもいい。

 最初は、それで十分だ。

 どうせ、すぐにもっとマシなものがドロップするからな。


 23: 名無しのD級タンク


 1

 E級ヒーラーの言う通りだ。

 そして、次に君が買うべき最も重要なもの。

 それは、武器でも防具でもない。

 安い、キャンピングカーだ。


 その、あまりにも現実的なアドバイス。

 それに、スレ主のルーキーが食いついた。


 28: >>1


 23

 キャンピングカーですか?

 ピックアップトラックの荷台で、寝泊まりしようと思ってたんですが…。


 35: 名無しのD級タンク


 28

 馬鹿野郎。

 そんなことしてたら、野盗か、あるいはダンジョンから溢れてきたモンスターに、寝てる間に殺されるのがオチだ。

 いいか、よく聞け。俺たちの生活は、ダンジョンだけじゃない。

 その「外」で、いかに安全に、そして快適に過ごすか。

 それが、長期的にこの仕事を続けていくための、秘訣なんだ。

 中古の、本当にボロいのでいい。2000ドルも出せば、雨風をしのげる鉄の箱が手に入るはずだ。

 ダンジョンの前は、もう街とかしてるし、そこには必ず俺たちみたいな連中が集まるキャンプサイトがある。

 換金所は、ダンジョンの前にあるから、そこで生活出来るぜ?

 まずは、その「村」の一員になれ。

 話は、それからだ。


 その、あまりにも実践的な、そしてどこまでも優しいアドバイス。

 それに、スレッドには「これ、マジで重要」「俺も、最初は車上生活で死にかけた」といった、共感の声が溢れた。

 そして、議論は次にF級からの「卒業」のタイミングへと、移っていった。


 45: 名無しのC級盗賊


 1

 よし、キャンピングカーは買ったな?

 じゃあ、次に俺からのアドバイスだ。

 F級に慣れたら、すぐ卒業して、次のE級ダンジョンにいけ。

 F級なんてな、魔石のドロップも経験値も、ゴミみてえなもんだ。

 あんな場所に、いつまでもしがみついてる奴は、一生F級のままだぜ。

 常に、リスクを取って上のテーブルを目指せ。

 それこそが、成り上がるための唯一の道だ。


 48: 名無しのC級(元会社員)


 45

 その通りだ。

 目標は、高く持て。

 D級まで、早く上がれ。そうすれば、職業として成功出来る。

 D級になれば、日給も安定し、パーティにも誘われやすくなる。

 そこまでたどり着けるかどうかが、最初の大きな分かれ道だ。


 その、効率とスピードを重視する意見。

 それに、多くの者が頷く。

 だが、その前のめりな空気に、待ったをかける冷静な声があった。

 投稿主は、B級のベテランヒーラーだった。


 55: 名無しのB級ヒーラー

 …少し落ち着きなさい、あんたたち。

 その考え方は、あまりにも危険すぎるわ。


 いや、安全マージンとって、しばらくはF級で過ごす方が良くないか?

 確かに、F級の報酬は少ないかもしれない。

 でもね、その分リスクも少ないのよ。

 その安全な場所で、じっくりと自分のビルドを見つめ直し、装備を整え、そして何よりもこの世界の「死」の匂いに慣れる。

 その地道な時間が、後々あんたの命を救うことになるのよ。

 焦ってE級に挑戦し、たった一体のエリートモンスターに、なすすべもなく殺されていった若者を、私は何人も見てきたわ…。


 その、あまりにも重く、そして説得力のある言葉。

 それに、スレッドの空気が二つに割れた。

「いや、それでもリスクを取るべきだ!」

「死んだら、元も子もないだろう!」

 効率か、安全か。

 その、永遠に答えの出ないテーマ。

 それに、スレッドはヒートアップしていく。

 その、不毛な言い争い。

 それに、一人のユーザーが呆れたように書き込んだ。


 68: 名無しの通りすがり

 おいおい、喧嘩するなら、別でスレ立てしてくれ。

 ここは、新人へのアドバイススレだろ。


 その、あまりにも正論なツッコミ。

 それに、スレッドの空気が、少しだけ冷静さを取り戻した。

 そして、その張り詰めた空気を破壊するかのように。

 一つの、あまりにも場違いで、そして圧倒的な書き込みが、投下された。

 投稿主は、A級の探索者だった。


 75: 名無しのA級(1年目)

 …ふん。くだらねえ議論してんじゃねえよ、B級、C級の雑魚どもが。


 その、あまりにも不遜な物言い。

 それに、スレッドが一瞬にして凍りついた。


 76: 名無しのA級(1年目)


 1

 おい、新人。

 俺は、お前と同じように高卒でこの世界に飛び込んだ。

 そして、1年でA級いったけど。

 今は、お前らが憧れる巨大なキャンピングカーで生活してるぜ。

 お前らがちまちま議論してる間に、俺はとっくにその先の景色を見てる。

 ごちゃごちゃ言ってねえで、早くここまで上がってこいよ。

 話は、それからだ。


 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも傲慢な強者の言葉。

 それに、スレッドはもはや反論すらできず、ただ沈黙するしかなかった。

 だが、その傲慢さの奥に。

 確かに、存在する一つの「真実」。

 それを、誰もが感じ取っていた。


 その、重苦しい沈黙。

 それを、破ったのは一人の穏やかな声だった。


 85: 名無しのサポーター

 まあまあ、皆さん落ち着いて。

 どの意見も、正しい。

 そして、どの意見も、その人にとっては唯一の正解なのです。


 1

 最後に、私から一つだけアドバイスを。

 ビルドは、何にするか決めてるか?

 戦士か、盗賊か、魔術師か。

 あるいは、私のようなサポーターか。

 まず、自らが進むべき「道」を定めること。

 それこそが、全ての始まりですよ。


 その、あまりにも本質的で、そして優しい問いかけ。

 それに、スレッドの空気が、ようやく本来の温かさを取り戻していく。

 そして、最初に質問を投げかけたあの18歳のルーキーが、最後の書き込みをした。


 102: >>1

 …先輩方、本当に、本当にありがとうございました。

 俺、目が覚めました。

 俺が、どれだけこの世界をなめていたか。

 そして、この世界が、どれだけ厳しく、そして温かい人たちで溢れているか。

 よく、分かりました。

 俺、決めました。

 まずは、安いキャンピングカーを買って、F級でじっくりと自分の力を見極めます。

 そして、必ずA級まで上がってみせます。

 いつか、皆さんと同じテーブルで戦えるように。

 本当に、ありがとうございました!


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