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第108話

 翌日。

 彼の配信チャンネルに、一つの新たなショーの幕開けを告げるタイトルが表示された。


『【リベンジ】静寂の図書館完全攻略【イカサマ対策完了】』


 そのあまりにも挑戦的で、そして自信に満ち溢れたタイトル。

 それに、彼のチャンネルは瞬く間に数万人の観客で埋め尽くされた。

 コメント欄は、期待と、興奮と、そしてわずかな不安が入り混じった、熱狂の坩堝と化していた。


『きたああああああ!リベンジマッチ!』

『待ってたぜ、JOKERさん!』

『イカサマ対策完了だと…!?まさか、あのMPリジェネ装備、手に入れたのか!?』

『いや、あれはまだマーケットに出てなかったはずだ…。一体、どんな手を使ったんだ…?』

『楽しみすぎる!最高のショーを見せてくれ!』


 その熱狂を背中に感じながら、隼人は転移ゲートをくぐった。

 彼がたどり着いたのは、静寂と、そして死の匂いに満ちたあの場所。

 B級ダンジョン【静寂の図書館】。

 天まで届くかのような巨大な本棚が、迷宮のように入り組んで並んでいる。

 床には埃をかぶった分厚い絨毯が敷き詰められ、全ての足音を吸収する。

 空気中には、古い紙とインクの匂い、そしてどこか甘い腐敗臭が混じり合っていた。

 前回、彼に屈辱的な敗北を味わわせた、因縁の舞台。

 だが、今の彼の心に恐怖はなかった。

 あるのは、ただ、これから始まる一方的な復讐劇への、冷たい期待だけ。


「よう、お前ら」

 彼は、ARカメラの向こうの観客たちに語りかけた。

「今回は、イカサマ対策をしてきたんで、平気かもな」

 その軽口に、コメント欄が沸き立つ。

 彼は長剣【憎悪の残響】を抜き放つと、その静寂の迷宮へと、そのリベンジの第一歩を踏み出した。


 彼が最初の一冊の巨大な本棚の角を曲がった、その瞬間。

 それは、現れた。

 カタカタと骨の擦れる音と共に、本棚の影から、一体の骸骨がその姿を現したのだ。

 ボロボロの魔術師のローブをその身にまとい、その骨の手には、歪な木の杖が握られている。

【図書館の司書】。

 因縁の相手だった。


 司書は隼人の姿を認めると、一切の躊躇なく、その骨の指先から青白い魔力の弾幕を放ってきた。

 隼人はその光景にデジャヴを感じながら、あえてその数発をその身に受けた。

 ガキンと、鎧が音を立てる。

 そして、彼のステータスウィンドウに、あの忌々しいデバフアイコンが点灯した。


 《静寂の呪詛カース・オブ・サイレンス


 彼のMPバーが、減り始める。

 毎秒10。

 前回、彼を絶望の淵に叩き落とした、悪夢のカウントダウン。

 だが、今回は違った。

 よく見ると、彼のMPバーは、わずかに、しかし確実に回復していた。


「…ビンゴだ」

 彼は、ニヤリと笑った。

【明瞭のオーラ】Lv.3がもたらす毎秒+6.5のMP回復。

 彼の基礎MP回復、毎秒+1。

 そして、MP自動回復レートアップ。

 その三つの力が、サイレンスの呪いを完全に凌駕した瞬間だった。


『おおおおお!』

『MPが減らねえ!』

『すげえ!サイレンス、効いてねえぞ!』

『これが、JOKERのイカサマ対策か!』


 コメント欄が、熱狂に包まれる。

 隼人はその声援をBGMに、通常技を連打しながら様子を伺う。

 司書は、必死にサイレンスの弾幕を放ち続ける。

 だが、もはや意味はない。

 彼のMPは、減るどころか、むしろ増えていく一方だ。

 そして、彼は確信する。

 このテーブルのルールは、完全に変わったと。


「さてと」

 彼は、ウォーミングアップは終わりだとばかりに、その構えを変えた。

「――お遊びは、ここまでだ」

 彼は、温存していた魔力を解放し、必死の一撃を叩き込んだ。

【衝撃波の一撃】。

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 司書の脆弱な体は、その質量の暴力の前に、なすすべもなく吹き飛ばされ、本棚に叩きつけられ、そして光の粒子となって消滅した。

 あっけない、幕切れだった。

 彼のMPは、確かに大きく減少した。

 だが、彼は慌てない。

 サイレンスの呪いが解けるのを待つ。

 5秒。

 そのわずかな時間が経過した、その瞬間。

 彼のMPは、パッシブスキルとオーラの効果で、秒間12以上という驚異的な速度で回復を始めた。

「…なるほどな」

 彼は、満足げに頷いた。

「少し待つ手間はあるが、ドロップ品を拾う時間で、すぐ回復するな。とりあえず、第一関門は突破か」


 彼は、その新たな攻略法を手に、図書館のさらに奥深くへと進んでいく。

 次に彼を待ち受けていたのは、さらに悪質な敵の集団だった。

 数体の司書が同時に現れ、そしてその背後からは、新たな敵…【禁書庫の番人】と呼ばれる巨大な鎧の騎士が、重い足音を立てて迫ってくる。

 司書たちが、一斉にサイレンスの弾幕を展開する。

 そして、その弾幕の中を、番人が巨大な剣を振りかざし突撃してくる。

 魔法と物理の、完璧な波状攻撃。

 だが、隼人はもはや動じなかった。

 彼のHP自動回復は、秒間128.3。

 番人の重い一撃ですら、彼のHPを5割以上削ることはできない。

 そして、彼の元素耐性は、75%の上限に達している。

 司書たちの魔法弾など、もはや彼にとってはただの豆鉄砲だ。


「…魔法は、怖くねえな」

 彼はそう判断すると、大胆にその敵の群れの中心へと飛び込んでいった。

 そして、彼は必殺技を叩き込む。

【衝撃波の一撃】。

 その一撃で、脆弱な司書たちを一掃する。

 そして、残った硬い番人を、サイレンスの効果が切れるのを待ちながら、通常技で蹂躙していく。

 あまりにも、一方的な展開。

 あまりにも、美しい攻略法。

 彼は、この忌々しい図書館を、完全に自らの支配下に置いたのだ。

 物語は、主人公が自らの知恵と仲間との絆で最悪のギミックを完全に打ち破り、そしてその成長を数万人の観客に証明した、その最高のカタルシスと共に幕を閉じた。



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