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#6 新しい試み

 あれから3日。毎日変わらない日々が続いていたのだが。金曜日の夜、珍しく早く帰宅した父さんが家族全員を食卓に集めた。「みんな、ちょっと話がある。聞いてくれないか。」「なぁに改まって?」「聞く聞く!」若葉は気だるげに、大地はワクワクした様子で席に着いた。「実は、麗花が俺の職場に通うことになってな。そこで、対応省の社宅にみんなで引っ越さないか?」「「「えぇー⁉」」」「通うって私は何も聞いてないんだけど、どうなるの?」「うちの部屋の本棚も持っていける?」「俺、学校転校しなくちゃならない…?」「ちょっと待った、お前ら、1人ずつにしてくれ。」こういう時は我慢できない大地から「俺さ、転校しなくちゃいけないの?」「いや、大丈夫。社宅は1区の端の方だから、むしろ今より近くなるぞ。」「ぃよっしゃ~!」次に若葉「社宅って狭いんじゃない?うち、本全部を本棚ごと持っていきたいんだけど。」「それも大丈夫だ。今日見てきたけど、この家の3倍くらいあるぞ。」若葉はホッと胸を撫でおろした。そして私「対応省に通うなんて、聞いてないよ?どういう異動があったの?」「それは少々込み入った話だから、よく聞いてくれ。」飴色の髪が3つ同時に頷いた。「まず、麗花は対応省に所属することになる、対公部の隊員としてな。関連値テストも定期的に受けて、必要に応じて会議や訓練に参加することになる。」私だけが頷いた。「そして俺は、新しい部署の部長になったから、これから凄く忙しくなる。だから家と職場が近い方が良いだろうと思うんだ。」父さんは指折り説明してくれた。「理由はこれだけじゃないが、ざっとこんなもんだ。どうだ?引っ越し、しても良いか?」「私は大丈夫って言うか、私のせいみたいなものだから、父さんに従うよ。」「俺も!良く分かんないけど、転校しないなら良いよ!」「別にうち、自分の部屋がちゃんと思い通りならそれでいいから。」「みんなありがとう!来週には完全に引っ越すようにしたいから、少しずつ準備してくれ。」「はーい」こうして阿澄一家は対応省の社宅の一室、研究室のすぐそばの建物にある大きな部屋へ引っ越した。

 「姉ちゃん、なんだかこの家騒がしいね。」「確かに、いつも外の廊下に人気があるし、1日に1回はピンポン鳴るもんねぇ…。」どうやら若葉は新しい家にまだ慣れないようだ。部屋の壁に防音シートを貼ることを検討した。ピンポーンとインターホンの音がして、「はーい!」と大地の声が続く。「こら大地!勝手に出ないでって言ってるでしょ!」最近は来客が多いせいか大地が玄関応対に出たがる。大体の場合は職員の誰かが父さんを探して訪ねてくるので、大地が出ても何にもならない。私は慌てて玄関へ向かう。「はい、阿澄です!」間一髪、私が戸を開けた。「どうも、この前はありがとうございました。」「お姉さん、久しぶり!」そこにいたのは恒太朗とその父だった。「あ、いえ、わざわざどうも…。恒太朗も久しぶりだね!」「えへへ…。」恒太朗は今日も楽しそうだ。「檜山雄造ひやま ゆうぞうと申します。実は我が家もこの社宅に引っ越すことになりまして、よろしくお願いします。」「お姉さん、お隣さんだから、遊びに来てね!」なるほど、先のエントルコードに関わる引っ越しなのだろう。「またご近所さんになれるのは嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします。」前は上の階に住んでいた檜山一家が今度はお隣さんになるらしい。「では、別の部屋にも挨拶に行くので…」「お姉さん、またね!」「はい、恒太朗もまたね!」恒太朗の父親、雄造さんか…。怖い顔に似合わず、すごく丁寧で子供思いな人だなという感じだ。

 「姉ちゃーん、電話だよー!」今度は部屋の中から声がする。今日はなんだか忙しない。スマホの着信画面の文字は「真琴ちゃん」だ。「もしもし、この前はどうしたの?」「もしもし、この前はごめんなさい。」お互いに同時に喋り始めてしまい、つい笑った。「それで?この前はどうしたの?」いつもの如くなんでも聞くよという調子で聞く。「まずは謝ります。突然出て行ってごめんなさい、言い訳だけれど、わたくしも何も知らなかったの。」「今はどこに?」「両親と一緒に、叔父様の家ですわ。もう潮鳴坂(しおなりざか)には帰れないかも知れません。」「帰れないって、今の家を手放すって事?」「えぇ、大学の転学届ももう出されているみたいで、もうどうにもなりませんの。わたくしはどうしたら…」うんうんと、とにかく話を聞いてあげる。真琴ちゃんがナイーブな時はいつもこうだ。「急に引っ越しする理由、誰かに聞いてみた?」「じいやには聞きましたけど、お父様の決定という事しか分かりませんでした。」内心でやっぱりと思った。真琴ちゃんが親に振り回されるのは今に始まったことではない。「またお父さんか、しばらく一緒に住むの?」「おそらくそうでしょう。今は叔父様の家の一室を間借りしている状態ですから、新たな家が見つかれば出ていきます。」「真琴ちゃんだけこっちに戻ってくることもないの?」「今回わざわざお父様がわたくしを呼び戻したという事は、もう1人暮らしの家には戻れないでしょう。」「そう…。」私は言葉が見つからないまま黙りこくってしまった。中学からの友達が簡単には会えない所に行ってしまうのに、何もしてあげられないのだ。「新しい家が決まったら教えてよ。遊びに行くからさ。」何とか真琴ちゃんを励まそうとしたけど、あまり元気づけられなかったみたいだ。「ありがとうございます。…また、連絡しますね。」気落ちした声のまま、電話は切れてしまった。真琴ちゃんのお父さんについての問題の時は、大体いつもこうだ。親友と言えど家族の問題なのだから、私に相談されても困るというのが本音だが、真琴ちゃんの様子を間近で見てきた私は、やはり真琴ちゃんの為に何かしてあげたいと思ってしまう。

 ピンポーンとインターホンの音がする。またか。「はーい、今出ます。」こっちは昨日引っ越し作業が終わったばかりだからちょっと休ませてほしいものだ。「はい、阿澄です。」「やぁ、阿澄チャン。ごきげんよう。」そこに居たのはとってもごきげんそうな湊斗先生だった。「いま父はいませんよ、伝言なら…」「いやいや、今日は信助クンじゃなくてキミに用があるんだ。いまから3時間位キミを借りるつもりだよ。」「3時間…この前言っていた訓練ってヤツですか?」「そうそう、察しが良いねぇ。新しいお知らせもあるからおいで。」まったく胡散臭い。普通ならこんな大人にはついて行かないが、この場合はそうもいかない。「分かりました。準備します。」

こうして私は湊斗先生に連れられて、無機質な白い壁実験室へ足を踏み入れた。「よーし早速実験を始めよう!」もう実験って言っちゃってるじゃないか…。ウキウキの先生と対照的な私はガラス越しに先生を睨んだ。「それじゃ、阿澄チャン。カメラとかの機材の準備はOKだから、能力を出してみて。」「え?」まさか丸投げとは思わなんだ。「ほら、能力については実験段階って言ってるでしょ?オイラ達もどうやって発動するのかとか分かんないからさぁ。」「雨音さんはどうしたんですか⁉」「いや、あの子はもう見つけた時から能力を使いこなしてたからね。制御も発動も自由自在だったから、わざわざ観察するまでもないって判断したんだよ。」ちくしょう、結局初めては全部私の担当か!前例が無い事をやるのは荷が重い。「まぁ、とにかくやってみます。」ちょっとイラつきながら、手を前に出してみた。なにか出るならこうすべきだろうという少年漫画で学んだお約束だ。あの時はどうしたっけ?順に思い出していく。車でアイツの足元に着いた時、廊下で生存者を探していた時、恒太朗が死んでいると思った時…。何か熱いものが手に触れた気がした。それを意識して掴もうとした瞬間、それは霧のように消えてしまった。「今、何か…。」「うん、撮れてるか分からないけど、オイラにも見えてたよぉ~!」湊斗先生のねちっこい声も今は嬉しい。「映像を見てみようよ。」チョイチョイと手招きされた。この部屋はレコーディング室のような構造だったらしい。湊斗先生が手元にあるマウスみたいな端末をカチカチやると、ガラス面に映像が投影された。画面上では、私が立って手を前に突き出している様子が斜め上からの視点で見える。こう見るとちょっと恥ずかしい…。「見て!ほらほらココ!」先生が画面を指さした。予想通りというべきか、突き出した私の右手の辺りに薄く光る靄のようなものが見える。「上手く具現化出来ない場合、不定形のまま現れるんだね!」先生興奮気味だ。「ね、この時どんな感覚があったの?」「なんというか、手の先に熱いものがあって、もう少しでそれを掴めそうな感じでした。」「もしかしたら、それを掴めたら剣になるのかなぁ?もう少しやって見てよ。」ぐいぐい来るなぁ…。緊張気味の私を置いてけぼりにして、先生は凄い勢いでルーズリーフに何か書き留めている。とは言え、私にも確かに確信のような感情があった。このままいけば、能力を自分の物に出来る、この力があればエントルコードに対抗出来る…。この能力で誰かを救えるなら、私はこれを振るう事に迷いなんてない。


閲覧ありがとうございます。ユキハンです。小説を書き溜めるばっかりで、投稿してない状態だ続いています。ごめんなさいorz 毎週投稿が目標でしたがあえなく達成ならず…。他の趣味とのバランスのとり方が難しいですね。まぁ趣味が多すぎるのが悪い気はしてますが(^^;汗)

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