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和解?

第五話

 彼女を吹き飛ばしてしまった僕は、街の診療所に急いで向かっていた。


「先生! 今いいかい?」


 いつも通りがらがらで、ほとんど人のいない古びた診療所のドアを足で開けて先生を呼んだ。


「おお! その声は」


 積み上げられたガラクタの奥から微かに声が聞こえてくる。


「まったく。いい加減片付けたらどうなんだ。客も来ないだろうよ」


 この診療所の先生、名前は何だったかいまいち覚えては居ないが、僕が小さい頃に魔物と戦って負った傷の手当をよくしてくれたのだ。


「ハンス君すまない、裏口にまわってくれるかね?」


 先生の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。


 仕方がないので、ツタだらけの建物の壁を見ながら裏口へまわった。


「何で裏口の方が整理されているんだか。こんなんじゃ初めて来る患者がどこから入ったら良いか分からないじゃないか」


 そうつぶやきつつ中に呼びかける。


「先生! 生憎今、両手が塞がっているんだ! 開けてくれないか?」


 ドーラを地面に下ろす訳にもいかないし、たまには運動不足の先生に働いてもらおう。


「年寄りにもう少し優しくしても罰は当たらないだろう?」


 先生がそんな事を言いながら裏口の方に近づいてくる物音が聞こえる。


「先生の場合、医者の不養生だろ。もっと運動しなきゃだ」


 ガチャ


 扉が開く。


 先生は抱えられているドーラを見て、非常に驚いた顔をした。


「傷だらけではないか! 今診てあげるからこっちに来なさい」


 その後、ドーラをベッドに寝かせて、先生に事の経緯を説明した。


「ハンス、お前さんが彼女を傷物にしてしまったんだ。責任を取らなくちゃいけないなあ」


 先生は笑いながらそう言う。


「おいおい、悪い冗談はよしてくれよ。僕にあの猛獣の面倒を見ろっていうのか?」


 勘弁してくれと言わんばかりに僕は両手を広げた。


「まあでも、そこまで悪い子じゃないのだよ。ドーラは」


 先生は昔を見るような眼で言った。


「ドーラと知り合いだったりするのか? 先生」


 僕は尋ねた。


「昔の話じゃよ。お前さんが強くなって、あまりこの診療所に訪れなくなった時期のことだ」


 先生は椅子に座り直しながら話しだした。


「もっとも、ドーラは私のことを覚えているかどうか、分からないんじゃがな」


「何かあったのか?」


 意味有りげな言動をする先生に僕は聞いた。


「ドーラは捨て子じゃったんだよ」


 先生は下を向きながら言った。


「人間の悪意渦巻くスラムで生活をしていたそうだ。知っての通り、あのようなところで幼い女の子が一人で暮らせるようなことはない」


 確かに、その小さな身ですべてを引き受けることはあまりにも酷なことだと僕は思った。


 先生は少し間を置いて話を続ける。


「だから、彼女は強さを追い求めたのだ。君と同じようにな」


 あのスラムで生き残るには、強者に従うことを受容する、又は、誰にも影響されない力を自分自身で手に入れることが必要だ。


 彼女は、後者を選んだのだろう。


「街の人間も彼女には元々目をつけていたのだが、結局、悪い大人に利用される前に孤児院で引き取ることになったのだ。もっとも、彼女がそれを望んでいたとは言い難いが」


 その孤児院は僕も知っている所だ。街の外れにある、教会関係の人間が運営していると聞いたことがある。


「その時に、孤児院で出張診療をしていたのが私でね。当時はこれぐらいしか仕事がなかったのだ」


 今もそうだろと僕は心のなかで突っ込む。


「とにかく彼女は何事も信用していなかったようでね。まあ、あの環境に置かれていては当然とも言えるが。私たちは悪い大人ではないよと、彼女に伝えたのだが、悪意を持って接する大人は皆そう言うんだ。と返されてしまったよ」


 今とあまり変わっていないんだなと僕は思う。


「確かにそうだとは思った。僕らは教会の人間だと言っても、そんなものはただの記号に過ぎないだろ、と鼻で笑われたことを今もよく覚えている」


 彼女が言いそうなことだ。


「ひねくれてはいたが、頭はかなり切れる子供だった」


 そして、先生はこちらを向いて言った。


「まあ、なんだ。ごちゃごちゃ話したが、こんな感じだだから彼女には友達がいないんだ。できれば、君が傍に居てやってくれ」


「結局そういう話かよ」


 僕はそう呟いた。


「僕がドーラに殺されたりしたら、あんたが責任取ってくれよ」


 正直、あまり気が進まなかったため、先生にそう伝えた。


「大丈夫だ」


 先生は僕の目を見て言った。


「私が保証する」


「ドーラが良いって言うなら考えなくもないが、そう言うとも思えないだろ」


 僕は立ち上がってそう言った。


「待ってくれ! せめて彼女が起きるまでここにいてやってくれ」


 先生は僕を引き留める。


「そう言って、先生が起きたドーラにボコボコにされたくないだけじゃないのか?」


「彼女はきっとそんなことはしない」


 その自信はどこから来るのやら。そう思いながらも、仕方がなく、僕は座って待つことにした。


「じゃあ、私は買い物に行ってくるからあとは宜しく頼み申す!」


 先生はそう言って裏口の方へ走っていく。


「おいこら! 逃げるなよ!」


 彼は行ってしまった。


 ドーラと二人。気まずい空気。


 いや、気まずいと思っているのは僕だけか。


 少しの間僕は、ぼーっとドーラのことを見ていた。

 しかし、昨日と今日の疲れが急に襲ってきて、いつの間にか座ったまま眠ってしまった。


 どれほどの時間が経っただろうか。


 外を見ると、日が落ちかけていた。


「あれ? ドーラは?」


 ベッドに寝ていたはずのドーラがいつの間にかいなくなっていた。


「呼んだ?」


 後ろからドーラがひょっこりと顔を出す。


 彼女と目が合う。


 こういうとき、なんて言えば良いか分からないな。

 僕はそんな事を考えていた。


「何か言いなさいよ」


 ドーラはそう言いながら、僕の前に来てベッドに腰掛けた。


「あぁ、昼間はすまない。別に気絶させるつもりはなかったんだ」


 僕は謝罪した。


「別に謝れだなんて一言も言ってないわ」


 じゃあ、何を言えば良いんだよと思ったが、彼女は続けて話しだした。


「あんた、強いのね。先生から聞いたわ」


 藪から棒にどうしたんだ。というか、先生一回戻ってきたなら起こしてくれよ。


「私、この街で一番強いと思っていたし、今まで誰も歯向かって来なかったの」


「はあ。そうなんですね」


 話が見えない。何を言いたいのだろうか。


「だから」


「だから?」


 僕はそう聞き返す。


「あ、あんたが嫌じゃなければ、ついて行ってあげないこともないわ!」


 ドーラはドヤ顔でそう言った。


「⋯⋯え?」


 僕の思考は一瞬止まった。


 ドーラの顔がみるみる赤くなっていく。


「あっ、まず」


 そう思った瞬間、彼女の拳が飛んできた。


 僕ノックアウト。


 薄れゆく意識の中でドーラがこう呟くのが聞こえた。


「あ、あんたが悪いんだからね」


 さいですか。


 こうして、僕とドーラの交流? が始まった。

読んでいただきありがとうございました。


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これからも応援していただけますと幸いです。

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