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武器と武器

第二十話

 服を買った後、僕らは一度宿にドーラの斧を取りに行った。


「斧持って行くっていうことは戦うの? 流石にこの格好じゃ無理よ」


 ドーラは斧を手で持って床に突きつけながら言う。


 見た目だけ見ると、町娘が信じられないほど大きな斧を持っている姿が何だか違和感がすさまじかった。


「やっぱ斧があるとドーラってわかりやすいな。トレードマークとしては十分な役割を果たせそうだ」


 僕は彼女を見ながら言った。


「別に飾りじゃないわ。いざという時は戦えるわよ」


 凛とした表情で彼女は言う。


「それは心強いよ」


 ドーラのその強さに思いを馳せながら僕は言った。


「まあ、何だ。斧の手入れとかあんまりしてないだろ? 武器屋に行って見てもらおうかなって思ってさ」


 僕は彼女に本当の目的を伝えた。


「そういうことね。分かったわ。行きましょう」


 ドーラは階段を降りていった。


 僕らは通りを歩いて武器屋に辿り着いた。


「いらっしゃい」


 四角い眼鏡をかけた細身の男が出迎えくれた。


 店主はドーラの斧を見て言った。


「ドーラ・ブラウン⋯⋯だよな」


 あまり確証は無いと言った風である。


「どこかであったかしら?」


 ドーラが武器屋の店主に尋ねた。


「いや、ここに来る冒険者たちがよくその特徴を話していたんだ。金髪に赤眼⋯⋯そしてその大きな斧」


 店主はそう言った。


「まるで、野生から出できたような風貌の一匹狼だと聞いていたんだが、案外そんなこともないみたいだな。話が盛られていたのだろう」


 まあ、確かに数日前まではそう言われても仕方が無い風貌をしていたことは否定できないな。そう思って僕はドーラを見る。


「それで何用かね?」


 店主は僕らに聞いた。


「彼女の斧のメンテナンスをしてほしいんだ。あんまり気にかけたこともなさそうだし」


 僕は店主にそう言った。


 ドーラは無言で僕を睨む。


「最強の悪魔の斧となっちゃ私も気が乗るね。喜んで受けさせてもらうよ」


 店主は嬉しそうに言った。


「もう悪魔って言わないでよ」


 ドーラがボソッとそう言ったように聞こえた。


 そして、彼女は店主に斧を引き渡そうとする。


「あ、ちょっと待ってくれ。その斧信じられないほど重いんだ。常人が受け取ろうとしたら怪我するぞ」


 ドーラと店主の動きが止まる。


「確かにそうだったわね」


 彼女は手元に斧を戻しながら言った。


「ふむ。どうしようか。じゃあ、とりあえず作業台の方まで持ってきてくれるかい?」


 僕とドーラは店主に連れられて、店の奥にある作業スペースへと向かった。


「わあ、凄いわね」


 作業場にある多くの工具を見ながら彼女は言った。


「これでも街ではかなり腕利きの方なんだ。自分で言うのもなんだが」


 店主の男は誇らしげである。


「じゃあここに置いてくれるかい?」


 彼はずっしりとした大きな木製の机を指さした。


 ドーラは斧をそっと置く。


「ありがとう。何かあったらまた呼ぶから店の商品でも見ていてくれ。これを一人で持ち上げたりは厳しいからな」


 店主は苦笑いしながら作業を始めた。


 僕らは店の方に出た。


「結構いろんな物があるのね」


 ドーラが周りを見渡しながら言う。


「来たことないんだな。最初に山で会ったときは何か防具を着けていたからてっきりこういう店で買ったのかと思っていたぞ」


 僕は思い出しながら言った。


「あれは⋯⋯借り物よ」


 ドーラが少し言いづらそうに言う。どうせボコボコにした冒険者から巻き上げたのだろう。僕は敢えて突っ込まなかった。


「欲しいものとかあるか?」


 僕は彼女に聞いた。


「服も買ってもらったのに悪いわよ」


 ドーラは遠慮しているようだ。


「あれだけ買ったのだから今更なにを言うんだ。しかも半分ぐらいは僕の趣味で買った様なものだし」


 特に絹の寝間着などは買ったことさえドーラは知らないはずだ。


「わ、私のだけじゃなくてあんたの装備も何か買いなさいよ。素手で戦うつもり? そんなんじゃ私を守れないわよ」


 ドーラはツンツンしながらそう言った。


「確かにそれもそうかもな」


 僕は同意してドーラの方を見る。


「使うなら何が良いと思う? 実はあんまり武器を扱ったことがないんだ」


 僕は尋ねた。


「無難に剣とかで良いんじゃない? あんた、物理攻撃しかしないでしょ」


 風圧を食らわせるあのパンチを物理攻撃と呼んで良いものなのか、少し怪しいところではあったが剣を見てみることにした。


「結構いろんな種類があるんだな」


 量産品と思われる鉄の剣や、見たことのない金属の剣まで様々な剣が陳列されていた。


「なんか、あの剣の金属、裏山にある鉱石の色と似てるな」


 僕は白とも水色とも見える透き通った色の剣を指さして言った。


「アダマンチウムの短剣ね。本当に固いと聞いたことがあるわ。でも値段も信じられないぐらい高いそうよ」


 ドーラはそう言いながら値札をめくる。


「ほら、銀貨百枚ですって。誰がこんなの買えるんだか。半分観賞用ね」


 ドーラはそう言って剣を戻す。


「アダマンチウムってそんなに貴重なのか?」


 僕はドーラに尋ねた。


「貴重どころの話じゃないわ。それこそアダマンチウム鉱山と呼べるものは一切ないわね。安全なところにあるものはほとんど採られてしまっているから、希少価値があるかもしれないけれど」


 でも、北の山には確かにこれと同じ色の鉱石があったんだよな。やはり、誰も立ち入らない山なだけあって鉱物資源なども豊富に残っているのかもしれない。


「やっぱり、これと同じ鉱石が山にあった気がするから、今度行ってみないか?」


 僕はドーラに尋ねる。


「アダマンチウムの貴重さがやっぱり分かっていないようね。せいぜいあっても銀鉱石とかじゃないかしら。鉱石の色としては少し似ているし」


 ドーラはあまり信用していないようだった。しかし、あの山には未だ多くのものが眠っていると僕は信じている。あの山だけではなく、この世界中の誰も立ち寄ろうとしない地域全てにだ。


「まあ、見に行くぐらいだったら良いわよ」


 考え込む僕を見てドーラは渋々了承した。


「すまない、ドーラさん。ちょっと来てくれないか?」


 ドーラが店主に呼ばれて作業場の方へ去っていく。


 武器を買おうとは言ったものの、服屋で全て使ってしまったからな。


 僕はそう思い返しながらこれからどうしようか考えた。


「ドーラに服で有り金全て使ったとバレたら流石に怒るよな。どうやって誤魔化そうか」


 僕は口元に手を当てて独り言を呟いた。


「あ? 服が何だって?」


 真後ろからドーラの声が聞こえる。


 あ、まずい──終わった。


「服の前にあんた自身の装備を整えなさいよ! 死んでしまったら元も子もないわよ」


 ぶん殴られるかと思ったが案外そうでもなかった。


 僕は恐る恐る振り向く。


「怒ってる?」


 僕は一応聞いてみた。


「怒ってないと言えば嘘になるわ。でも、あんたがせっかく買ってくれたものだし、それに対して怒るのは良くないかなって。元々あんたのお金だしね。」


 良かったと僕は胸を撫で下ろす。


「でも! それはあんたのことを心配しない理由にはならないわ。私のことばかり気にしてくれるのは良いけど、もっと自分を大事にしなさいよ⋯⋯」


 彼女なりに心配してくれているようだった。


「すまない。でも、並の武器だったら魔物に打ち付けた時に、武器のほうが先に壊れてしまったりすることがあったんだ」


 僕は昔を思い出しながら言った。正直、鉄の剣が粉々になった時の衝撃は今も忘れていない。しかも、毎回剣を壊していたら経済的でないしな。


「だから、お金貯めてからその時に良いものを買うよ。心配してくれてありがとう」


 僕はそう言って、ドーラの頭の上に手を乗せる。


「ん⋯⋯」


 ドーラはそれだけ言って気恥ずかしそうにしていた。


「終わったぞー!」


 奥から再び店主の声が聞こえてくる。


「ほら、終わったってよ」


 ドーラに斧を取りに行かせて僕は支払いを済ませるために店主の方へ向かう。


「本当に銀貨一枚だけでいいのかよ。普通もっと取るもんじゃないのか?」


 僕は金額を提示してきた店主に聞いた。そうは言っても、今現在銀貨三枚しか持っていないのだが。


「まあ、その分またここで買い物してくれよ」


 店主はそう言って僕らを送り出す。


 僕らは次の目的地を探すことにした。

読んでいただきありがとうございました。


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これからも応援していただけますと幸いです。

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