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想定外の出来事

第十三話

「なんだか雰囲気あってワクワクするな」


 僕は測定機を指さしながら言った。


「私は最初に来たとき少し怖く感じたわ。なんだか不気味じゃない?」


 ドーラはこの場所にあまりいい思い出が無いようだ。


「それでは、行きましょう」


 少し階段を登ったところにある測定機の方にアンナが僕らを誘導する。


 そこには、台座の上に置かれた水晶玉のようなものがあった。そしてその後ろには巨大な白い壁。


「なんだか全部見透かされているような気分になって、やっぱり落ち着かないわ」


 ドーラが怖がりながら僕の方に寄ってくる。


「別に上で待っていても良いんだぞ。大丈夫だよな?」


 僕はアンナの方を向きながら聞く。


「ハンスさんだけいてくださったら問題ないですよ」


 アンナはドーラに優しく語りかける。


「べ、別に怖くなんか無いわ」


 ドーラは僕の後ろに隠れている割には強がっていた。


「始めましょう」


 アンナが呟く。


「こちらの水晶玉に手をかざしてください」


 僕は言われた通りにする。すると、僕の内側から何かが吸い取られていくような感覚がした。

 ドーラの言っていたのはこれのことか。

 心のなかでそう思う。


「あとどのぐらいすればいいんだ?」


 十秒ほど経った時、僕はアンナに尋ねた。


「おかしいですね。普通なら一瞬で終わるのに」


 アンナは不思議そうな顔をしている。


「何か煙みたいなもやもやが見えるわよ」


 ドーラが水晶玉を指さして言った。


 確かに白い霧のようなものが渦巻いているのが見える。そしてそれは段々と濃くなってゆく。


「なあ、これ大丈夫なのか?」


 僕はもう一度アンナに尋ねる。


「ちょっとわかんないですね、自信ないです」


 その刹那、水晶玉から眩い光線が飛び出し、部屋中を覆う。そして、水晶玉にヒビが入り、その割れ目から煙が出始める。


「あっ、ちょっとまずいかもです」


 アンナはボソッと呟く。


 次の瞬間、光の当たっている壁や天井が崩壊を始める。


「退避ーーー!!!」


 気づいたら僕はドーラとアンナを両脇に抱えて走り出していた。


 飛ぶように走り、やっとの思いで地下室の入り口付近まで戻って来る。


「おい! 話と違うじゃないか! 危うく全員死ぬところだったぞ」


 僕はアンナを怒鳴りつける。


「す、すみません⋯⋯」


 アンナは泣きそうになりながら謝る。


 なんだか謝られると、逆に怒っている自分が恥ずかしくなってきた。


 いや、だとしても死にかけたのだからもっと怒ったほうが良いのか?


 そんな事を考えていたら、ドーラが思い出したかのように言う。


「地下が崩壊したなら、この建物も危ういんじゃない?」


 先ほどと同じような地揺れを感じる。


「崩れるぞ!」


 僕らはギルド入り口に向けて走り出す。


「建物が崩壊するかもしれないから逃げろ!」


 エントランスに居た冒険者達にもそう呼びかけて、皆で避難した。


 通りに出て、肩で息をしながら後ろを振り返る。


「まじかよ」


 案の定、轟音を轟かせながら地下に飲み込まれていくギルド。


「ねえ! どういうこと?」


 ドーラがアンナの肩を揺らしながら詰め寄っているのが見える。


 僕は呆然と立ち尽くしてこう言う。


「これ、修理費払わないといけないのかな」


 その後は大変だったと言えば、大変だった。


 ギルド本部への報告書及び、騎士団からの事情聴取。調査は専門家などの手により多岐にわたった。


「もう無理、帰りたい」


 ドーラがうめき声をあげる。

 ここは騎士団詰所。事情聴取という名の軟禁状態で、僕らは疲弊していた。


「僕らがギルドを爆破したんじゃないかって、疑われているんだろ」


 金属製の机に突っ伏しながら僕は言う。


「何のためによ。理由がないじゃない」


 ドーラも気怠そうにそう言った。


「ギルドの修繕費をチャラにしようとしたんじゃないかって、さっき聞かれただろうに」


 僕は彼女に言った。


「修理費を無くすためにギルドごと爆破するバカがどこにいるのよ」


 それはそうだと思いつつも、やらかしてしまったら消すしかないという思考をしている人物は案外多いのではないか? 例えば、あの買取屋の店主らの様に。


「まあ、さしずめ食い物には困らなさそうだし良かったんじゃないか?」


 僕は部屋にある食料搬入口に置かれているトレーを眺めながら言った。


「豚の餌と同等じゃない」


 ドーラは文句を言う。


「無いよりはマシさ」


 うんざりしていた僕は適当に返した。


 それにしても春の夜はまだ少し寒い。ドーラは少し凍えているようだった。


「毛布ぐらい用意してくれても良いのに、ケチね」


 彼女は悪態をついている。


「とりあえずその腰に巻いているカーディガンを着ろよ。寒いだろ」


 ドーラは服に頓着しないようで、いつもほとんどシャツ一枚の格好で動いている。。今度なにか新しい服を買ってあげようか。


「あんた、もうちょっとこっちに寄りなさいよ」


 彼女はそう言って僕の服を引っ張る。


 仕方がなく、僕は椅子を持って真横に移動する。


「寂しいのか?」


 僕はからかうように言った。


「そ、そういうことじゃないわ。ただ、寒いから」


 ドーラはそっぽを向いてそう答えた。彼女にしては珍しく手が出ない。


「あんた、体温低すぎじゃないかしら」


 僕の腕に触れたドーラはそう言った。


「逆にドーラが高すぎるだけじゃないか? なんかこう、血の気が荒いし」


「そんなことないわ」


 ドーラは僕の腕を抱え込むようにして僕に寄りかかってきた。


「ち、ちょっと寒いだけよ!」


「まだ僕は何も言ってないぞ」


 ドーラは誤魔化すように言った。


 少しの間互いに無言になる。


「温かいわね」


 ドーラが眠そうに呟く。


「さっきは冷たいって言っていたくせに」


 僕は先程のドーラの発言を思い起こしながら言う。


「別に温度の問題じゃないわ」


 彼女はそう言うと、いつの間にか眠ってしまっていた。


「人の温かみってことなのかな」


 僕はドーラを起こさないように呟く。


 確かにドーラが隣にいると、その体温で眠くなってくる気持ちもわかる気がした。


 そのまま、僕もうとうとしてきて眠りについてしまった。


 次の日。


 誰かの声が聞こえてきて目が覚める。


 目を開けると、僕の膝の上ですやすやと眠るドーラの姿があった。案外こいつ小さいんだな。


 目の前を見ると、扉の陰に隠れているアンナが見えた。


「そそそ、その、そのですね。わわ私は別に覗き見していたわけではななくてですね」


 アンナは早口で弁解する。


「い、いやー、やっぱりお二人はお付き合いされていらっしゃったんですね」


 あらぬ方向へ妄想を巡らせるアンナに僕は言った。


「別にそういうわけではない。付きまとわれているだけだ。今のところは」


 するとアンナはにんまりした表情になった。


「今のところということは、これから結婚するということですね! いやー、満更でもないっていうかそういうことですね。いいですねー!」


 駄目だこの脳内ピンク。


「用件はそれだけか?」


 僕は動きのうるさいアンナに尋ねた。


「あっ、忘れていました。どうやら意図的に爆破したわけじゃないっていうのが分かったみたいなので、準備できたらギルド跡地まで来てくださいと、マスターが言っていましたので、その伝言です」


 どうやら疑いは晴れたようでなによりである。


「でも、その調子じゃまだまだ時間かかりますよね! マスターにはハンスさんは昼ごろ行くと言っていたと伝えておきます! それでは」


 そう言ってアンナは猛ダッシュで消えていった。


「あっ、おい⋯⋯」


 何だかしてやられたような気分である。


 僕はドーラの頭に手を載せて、彼女が起きるまで待つことにした。

読んでいただきありがとうございました。


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