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ギルド受付の少女

第十二話

 街の騎士団に厄介者を引き渡した後、僕らは冒険者ギルドに向かっていた。


「そもそも、冒険者ギルドが管理していない買取屋って怪しすぎなのよ! どうして今まで気づかなかったの?」


 ドーラは僕に対しても少し怒っているようだった。


「借金は人の視野を狭窄させるんだよ。たぶん」


 追及を避けたかった僕は適当に答えた。


「まあいいわ。ああ、ついでにあんたの冒険者登録もしにいきましょう」


 ドーラは後ろ向きに歩きながらそう言った。


「どうしてだ?」


 僕は彼女に聞いた。


「ギルド管理下の施設を使うのに必要なのよ。あったら身分証としても使えるし何かと便利よ。逆に無いと、今回のあんたみたいに騙されることになるわ」


 釘を刺すようにドーラは言う。


 歩いているとギルドのある通りに出た。遠くからギルドの様子が見える。


「ギルド、ボロボロのままね」


 彼女はそう呟いた。


「ドーラのせいだろ」


 僕は冷たくあしらう。


 ギルドのドアだったところを通り抜けて、奥の方へ入る。流石にガラスは掃除されていたが、部分的に吹き飛んだ窓枠の補修はまだのようだった。

 様々なものが散乱しているギルド内を進む。


「こんな感じで乱闘とかよく起こるから、ギルドの受付は被害を被らないように奥の方にあるのよね」


 ドーラが僕の前を先導しながら説明する。


「そりゃとても合理的なことで」


 僕は入り口の方を振り返りながらそう言った。


 ギルドの奥の方は初めて入ったが、冒険者がたむろしている入り口付近と比べて、少し落ち着いた雰囲気の造りだった。暗めの木材を使っているのだろうか。それとも、入り口付近はよく吹き飛ぶから、単に安い木材が使われているのだろうか。

 入り口付近はよく吹き飛ぶって何だ?


「ここよ」


 ドーラが扉を指さしながらそう言った。


 扉には受付という看板が掲げられている。


 僕は扉を開けて中に入った。


 そこには、机に伏せて寝ている少女の姿があった。


「えっ?」


 壁一面に大量の棚に大量の書類。明らかに事務作業を行う部屋だということは分かる。それ故に、奥の方にあるこじんまりとした机に少女が一人寝ている様子がおかしく見えるのだろうか。


「起きなさいよ!」


 ドーラが机を蹴り上げる。相変わらず容赦がない。


「ひゃっ!」


 寝ていた白髪の少女は衝撃で飛び起きる。ご愁傷さまです。


「給料分は働けよな」


 ドーラが仁王立ちしてその少女に言った。


「なーんだ、ドーラじゃん。あと十分寝かせて⋯⋯」


 そう言いながら少女はもう一度机に伏せる。


「知り合いなのか?」


 少女はドーラのことを知っているようだったので、僕は彼女に尋ねた。


「まあね。受付は彼女一人だし」


 ドーラは説明しだした。


「彼女はアンナ、アンナ・メーリアン。この冒険者ギルドティルロス支部の受付だわ。ギルド長はまた別に居るんだけど、今日は見た感じ居ないみたいね」


 その少女は、黒い大きなリボンが付いたカチューシャを付けていて、背丈はドーラより少し高かった。

 服は白と黒を基調とした、シックな印象のものを着ていたのだが、なぜだか胸元の所が、なんと言えば良いのだろう。やけに大きく開いていて、彼女の余りある胸を強調しているように見えた。しかも、何故かそこだけ紐でリボン結びされているだけのようなペラペラな作りとなっていて、これが制服なら作ったやつは相当な変態なんだろうと推し量ることのできるものだった。眼福眼福。


 ただ、全てを白と黒で統一されたその洗練された佇まいは、称賛しないことができないほど美しく見えた。


「この服を考えたやつは、相当な変態だな」


 横に突っ立っているドーラに向けてそう言った。


「ギルドマスター考案の特注品らしいわ。かなり金がかかったそうよ」


 ドーラが無関心そうにそう言う。


「そりゃあ、分かってるおっさんだな」


 僕はアンナを見ながら言った。


「あら、ギルドマスターは女性よ」


 ドーラは僕の偏見を指摘するように言った。


 その直後、ドーラは五分さえ経っていないにも関わらず、無言で机を蹴り上げる。何故か少し不機嫌そうだ。


 ドーラは、びっくりして立ち上がったアンナの後ろに回り込み、背後から手を回して下から胸を掴む。


「わけわからんほどでかい胸しやがって」


 ドーラはそう言いながらアンナの胸を揉みしだく。


「おっさんみたいな触り方だな」


 正直少し羨ましい気はするが、建前上軽蔑したような目でドーラにそう言う。


「人前では辞めてくださいって何度も言ってますよね!」


 アンナの悲鳴が響き渡る。


 にしても短いスカートだ。さっきは座っていたから分からなかったが、やっぱりここのギルドマスターは分かり手だ。しかも、白いニーハイソックス。わざわざ買ってきたのかよ。売っている所、この辺りじゃほとんど見かけないぞ。


 やっとのことでドーラを引き剥がしたアンナは、息も絶え絶えしている。


「こほん、それで、あなたたちは何用ですか?」


「こほん」にツボって笑い転げているドーラを尻目に、僕は彼女に聞きたいことを言う。


「解体施設と買取施設を使いたいから、冒険者登録したいんだけど、いいかな?」


 アンナは腕を体の前に回して聞いていた。


「わかりました。書類をお持ちするので少しお待ち下さい」


 そう言って彼女は高い棚から書類を取り出して戻って来る。


「それでは、こちらに署名を。手続きはこれだけじゃないので、書き終わったらしばし待っていてくださいね」


 そう言って彼女が差し出した書類に目を通す。


「当ギルドの依頼によって怪我、病気などになった場合、ギルドは一切の責任を負わず、補償もしません──ねぇ⋯⋯」


 僕は書類に書いてある内容を口に出して読んだ。


「まあ、詐称する輩が多く出てくるだろうし、補償なんてしていられないわ。そもそも冒険者っていう職自体、自分の身を危険にさらす代わりに対価を受け取っているんだから、死んでも自業自得よ」


 ドーラは割り切ったような口調でそう言った。


「それと、ギルドの修理費、ちゃんと払ってくださいね」


 アンナが怖い顔をしてドーラに近寄る。


「わかってる、わかってるって!」


 ドーラは渋々弁償書を受け取っていた。


 僕も書類にサインする。


「それじゃあ、私と一緒に別室へ移動しましょう」


 アンナは書類を受け取って僕らを誘導する。


「どこへ行くんだ?」


 僕はアンナに尋ねた。


「測定よ。どれだけ強いかランク付けされるの」


 代わりにドーラが答えた。


「因みに、ドーラさんはAランク冒険者ですね。上位一パーセントもいません。ランクは生涯固定ではなくて、依頼によって上がったり下がったりするので、低くても心配すること無いですよ」


 アンナが追加で説明をしてくれた。


「ここを下ってください」


 アンナは地下に続く階段を指さして言った。


「地下にあるんだな。少し意外だ」


 階段を下りながら言った。周りは石材で覆われていて、少し声が反響して聞こえる。


「他人の力で干渉できないように、色々と防護されている所で測定するんですよ。たまに、測定の時に悪さを働く人もいますからね」


 アンナが小走りで下に降りていった。


「明かりをつけるのでそこで待っていてください」


 アンナが蝋燭に火を灯すと、ぼんやりと見えてくる。


「おお!」


 そこには荘厳な雰囲気の測定機が鎮座していた。

読んでいただきありがとうございました。


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