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街に入る

大きな門を抜け街に入ると、石畳できれいに整頓され、町の中央にある学校までまっすぐのびる大通りだった。

早朝の大通りでは開店の準備に勤しむ街の人々。


「す、すごい大きな道だな」

「街の南には海があるから陸路で街に来る人は大体みんな北門から来るの。だから北門から学校までの道はこの街のメインストリートになったそうよ」

「へー、それにしてもこんな朝っぱらから活気がすごいな。って! あ、あれなに!」


そこには木箱らしきものがぷかぷかと浮き上がりながら店の中に入っていっていた。


「だからあれが精霊の力よ。ほらあっちも、あれも」


プリムが指差した方を見ると、映画の中のようなとんでもない光景が広がっていた。

花壇の上に小さな雨雲が浮き上がりそこだけ雨が降っていたり、

ほかにも小さな竜巻が通りを掃除してたり、荷の上の果物が一瞬で凍ったり溶けたりとしていた。


「なんてこった……精霊の力、すっごいな!」


いやぁ、あまりのファンタジーっぷりに変なテンションになっちゃった。


「あなたも使ってみればいいじゃない」


なかなか魅力的な提案だ。


「おぅ、やってみるよ。どうやればいい?」

「祈詩を唱えるだけよ。イグ・アルフ・レーラ、風の精霊さんわたしを浮かせてちょうだい」


プリムが言葉をつむぐと、スッっと20センチほど浮き上がり、目線の高さが俺とほぼ一緒になっていた。


「ほらね? さっきの言葉を言うだけで、後は精霊が勝手にやってくれるから。ほらやってみて」


自慢げな顔にほんの少しイラッとしたが、とにかく俺もやってみる。


「よし! イグ・アルフ・レーラ、風の精霊、俺を浮かせて」

「……」

「……」

「……」

「って! 浮かないじゃん!!」

「んー、おかしいわね……祈詩が間違ってるわけでもないし」

「えー! 誰でも出来るって言ったじゃん! 俺も飛びたいよー!」

「そんなこと言われたってわかんないわよ。異世界人だからとかじゃないの? まぁ後で先生に質問してみましょ」

「まじかよぉ……ちぇ」


結構ショックを受けた……

がっかりしつつも、とりあえずプリムにあれこれ質問しながら学生寮の方へと向かった。


大道りを抜けると4階建てくらいの大きな建物が並んでいるのが見えてくる。


「ここが寮棟区よ」


プリムは金髪のツインテールを風になびかせながら教えてくれた。

大通りの喧騒とは打って変わって、早朝の寮棟区は静かである。

切り離されたような世界で聞こえる音は、鳥の鳴き声と風の音と2人の足音だけ。


こういうのは地球と変わんないんだな。


朝の穏やか空気を感じながら無言で歩いているとプリムがこちらを向いて尋ねてきた。


「そういえば精霊見て驚いてたみたいだけど、あんたの世界はどんなところなの?」

「んー、なんていうかさっき見た魔法みたいなのはなくて科学の力で発展していったところかな」

「科学? ってなに?」

「なんて言ったらいいのかなぁ……あ! ちょっと待って」


持っていた鞄から筆箱の中のペンライトを取り出し点けて見せた。

携帯がいいかなと思ったけど見せてもわかんないだろうしな。


「なにそれ? まぶし! こっちに向けないでよ! なに? 光の精霊?」

「ふふ、違うよ。まぁ仕組みを説明とかは詳しくわかんないからできないけど、精霊の力を使わないで同じようなことが出来る道具を作るのに優れた世界かな?」

「わかんないのに使えるの? なんかきもちわるいわね。でも精霊の力と同じような道具がある世界ね……想像できないわ。それで国とか人とかはどんななの?」


プリムは以外に興味があるらしく、次々と質問してくるので政治形態や生活環境、歴史などを簡単に教えてあげた。


それにしても日本か……失恋してからここまでドタバタで考えてなかったけど、俺がここにいるってことは向こうの世界から居なくなったってことだよな。

親とか心配してるだろうな。大事になってなけりゃいいけど……

俺これからどうなるんだろ……


プリムは圭輝の横顔を見ながら様子を窺っていた。


どうやらこの圭輝という男の言ってることは本当のことみたいね。

まさか異世界なんてのがあったなんて……

しかもこの世界とは全然違うみたい。入学して2週間でこんな不思議なことに出会うなんてね。


「……」

「……」


ん? 急に黙り込んでどうしたんだろ?

っ! 不安そうな顔して……泣きそうじゃない。

でもまぁ、急に知らない世界に一人で放り出されたら不安にもなるわよね……


「あんた名前……圭輝よね?」

「ん? あぁ……そうだけど」

「じゃあこれからはあんたのこと圭輝って呼ぶわね。」

「え?」

「わたしはちゃんと圭輝が生活できるよう落ち着くまでは責任とるつもりよ。だからそんなに不安そうにしなくても大丈夫よ」

「!!!」


ふふふ……今度はうれしそうな顔して……

まったく……世話が焼けるわね。

でもまぁ一応あたしが見つけたんだからどうにかしてあげないとね。


「プリム……あのさ……」

「ん? どうしたの?」

「俺……ほんとプリムががいてくれて助かったよ……失恋直後に異世界投げ出されてさ……たぶん一人にされたら心が折れてたと思う。失恋の話もちゃんと聞いてくれて、情けない俺を怒ってくれて、どう見たって怪しい奴に、この世界のことか丁寧に教えてくれてさ……おまえが俺を見つけてくれてほんとによかったよ……だから心から感謝してるんだ……ありがとうな」

「っ!!!」


なんなのよ! 恥ずかしいこと急に言うんじゃないわよ!


「ふ、ふん! そんなの気にしなくていいわよ! ほら、寮が見えてきたわ。あそこが私の住んでる寮よ。寮監がクラスの担任だからそこに相談しにいくわよ!」

「うん……って歩くの速いよ!待ってって」


あんたが恥ずかしいこと言うのがいけないんじゃない!


「もうそこだから早く来なさい!」


プリムは赤くなった顔を見られないように足早に寮に入っていった。

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