プロローグ
「俺たち付き合うことになったからヨロシク」
いつものように学校から3人で帰宅中に、幼馴染の拓也が突然宣言した。
「……え?」
あまりに突然すぎて思考が追いついていないが、とりあえず拓也の言葉が事実かの確認の意味を込めて、香織を見ると、頬を真っ赤に染めて声を上げた。
「もぅ。拓也はいきなりすぎ!でもね圭ちゃん、遠慮とかしないでね?私たちが付き合っても、幼馴染3人の関係は変える気はないから!」
「ぅ……そ……マジで?」
口をあけて、立ち尽くしている俺は、赤坂圭輝《 けいき》高1の16歳、隠れオタクで目の前の新生カップルとは幼馴染だ。
ちなみに拓也は、バカだけどイケメンで人懐っこいためかなりモテる。
香織も、かなり可愛いのに加えて、成績優秀なためファンクラブができるほどモテるのだ。
この衝撃の告白に、俺は思った以上にショックを受けていた。
というのも、俺の初恋は香織で、その想いは小学生のころからいままでずっと変わらないままだったからだ。
拓也と香織2人が両想いになっているなんて一切気づかなかっただけに衝撃も大きかった。
「おいおい、おどろきすぎだろ。まぁそういうことだ。けど香織の言うとおりで、これからもいつもどおり3人で仲良くしような?」
「うんうん! そうだよ~って圭ちゃん? 聞いてる?」
「……え? あ……あぁ……」
香織が顔を覗き込んで聞いてくるが、俺は異常なほどテンパっていた。
えぇ……何だよ……何なんだよこれ……頭ん中ぐちゃぐちゃだ。
いつのまにそんな。
全然気がつかなかった、
っていうか……あれ?俺もしかして失恋したの?
嘘……あーやばい、わけわかんない……
あぁ……とにかくなんか言わないと……
えっと、とりあえず笑顔だ……あれ?どうやるんだっけ……ちゃんとできてる?
んで、こういうときはおめでとうって言うんだよな。
そうだよ……笑って祝福しないとだ……よし。
「まじかー……いやぁ~おめでと! まぁ俺は昔から拓也と香織はお似合いだって思ってたんだよな~! なんせイケメンと美少女カップルだもんな! くぅ~まぶしいぃ!」
「そうか? 圭輝がそう言ってくれるとうれしいよ。」
「そだね、恥ずかしいけどありがと! 圭ちゃんこれからもよろしくね!」
幸せそうだなおい!なんか一周回って冷静になった。
っていうか、こりゃぁ俺ガチで凹んでるな……
とにかく笑顔じゃないと……笑顔で……
「っ! ……ああ、まかせろ! ちなみに俺の前でいちゃついたりしてくれるなよ~! 一人身の男には刺激が強いからな! それと拓也! 香織を幸せにしてあげるんだぞ! 泣かせたら許さんぞぉぃ!」
「あはは~圭ちゃんお父さんみたい」
「あたりまえだ! おまえたち2人のことは何でも知ってるからな! もうお父さんみたいなもんだ! 拓也わかったな!」
「わかってる。香織は俺が幸せにしてやる!」
「そっか……そうか~、よ~し。いやぁ~それにしもめでたい! そだ、祝いになんかおごってやろう! ってあああああああああああああ! 財布学校に忘れてた! ちょっと取ってくるから先に帰ってて!」
「え? そうなの? んじゃ待ってるよ?」
「そうだな、圭輝急いで行って来いよ」
あぁもぉー早く行ってくれよ……
「おいおい、お二人さん! せっかくカップルになったんだから下校デート楽しむってのもいいと思うぞぉ? ささ、俺のことは遠慮しなくていいからさ。ほら、行った行った!」
「もぅ、強引なんだからぁ~。わかった! んじゃまた明日ね。ばいば~い」
「また明日な圭輝!」
「おう! ばいばい!」
俺、笑えてたかな……
めちゃくちゃ声が震えてたけど、ばれてないよね……
もう限界だった……振り返った瞬間涙が出た。
がむしゃらに走った……走って……走って……
校舎裏の丘で、ひざの力が抜けた。
香織に想いを伝えることもなくやってきた失恋……あまりに自分が情けなくて。
嫉妬や、怒り、悲しさ、悔しさ、情けなさがぐるぐると頭の中に渦巻く。
思い出が走馬灯のように頭を駆け巡り……泣いた……
気づいたらすっかり夜になっていて、泣き疲れた俺は街の光をぼんやりと眺めながら丘の天辺にある大木に背をあずけこれからのことを考えていた。
「はぁ……これからどうしよう……」
俺は香織はもちろん拓也のことも友達として大好きだ。
2人とも本当にいいやつだし困ったときは助け合える大切な大切な親友だ。
「ってもどんな顔して会えばいいんだよ……」
たぶん香織のことが諦め切れるまでは顔を会わせるだけで泣いちゃうだろうなぁ……
今までどおり3人で仲良くとか絶対無理だよな。
残酷なことを言ってくれるわ……
2人ののろけ話とか聞かされたら日には居たたまれなくなって死ねるぞ……
ってか俺どんだけ香織のこと好きだったんだよ……自分で自分の凹みっぷりにびっくりするわ!
うぅ……香織のこと考えてたらまた泣けてきた……
ひざを抱え顔を埋めて泣いていた俺はいつしか眠りに落ちていった。
夢だったのだろうか。
眠る瞬間、寄りかかっていた巨大な大木が、光を放ち輝いているのを見た気がした。
やたらと「……」が多い話になってしまいました。