05 プロフィール:K 《今でも間に合えるのか》
05 プロフィール:K 《今でも間に合えるのか》
俺は神狩幸谷。
古川高校、二年A組。もう、あの時のイライラという気持ちの正体が分かった。
小学校の頃で俺がしてきたことは黒歴史だと思ったが、忘れようとはしなかった。もう二度とあんなことをしないようにも決めて、もし、また会えるなら俺はちゃんと謝って、そして、伝えたいと思う。
俺は幼馴染の笹野咲に好きだって伝えたい。
でも、その前に中学の話をするのが先だ。再び会えるとは思わなかったが、俺は高校試験のために塾を通う時、もう一度、笹野に会った。
笹野は海外留学のことで相談しているようだ。
俺はこっそり話を聞いて、笹野は中学の時でも、二年ほどイタリアに居て、今もイタリアの高校に行くことが決めたらしい。
だから、話せるのはこれで最後のチャンスだと思い、腹をくぐって、「ささっ」
「君が神狩幸谷くんだよね?」
笹野に話しかけようとした時、知らない女子に捕まえられて、そう聞かれた。
いいえ、女子ではない?
綺麗な顔してるが、身長は俺とほぼ同じで、声も低めで、人はそのようなカッコを美少年って言うようなスタイルをして、でも長いスカートを履いていて、……
「混乱してるね~、僕は男だよ……で、君は神狩幸谷くんって合ってる?」
「え?ああ、そうだけど」
「小学校はどっち?」
「花鮫…だけど。え?何?俺、尋問されてる?」
「いや~、まさか!君の成績がとても良いし、女子たちにも『幸谷くんかっこいい~』って騒がれているから、どんな人かな~って思った」
「そう?で、俺はどんな人に見える?」
「ん~、聞いた通りの人、かな~?」
「え~、疑問形?なんか、ショック」
話かけてきた奴は、夕霧優って自己紹介した。気さくな、いい奴だって思った。
優くんは俺と同じ特進クラスに入って、成績を競い合い、高め合うような仲になった。それに、優くんには一つ面白いあだ名がある。
国王さまっていうあだ名だ。
それも、皆、彼のことをそう呼んでいる。
最初は「なんで?」って思うが、なんか優くんといる時間が長くなって、段々と理解できた。
分からないところがあれば、優くんは親切に教えるけど、彼に教えられている時、まるで、国王さまに皇命を受け取っているようだ。
でも、その「皇命」は的確で、分かりやすくて、嫌な感じはない。
高校受験が終わって、結果的に俺は希望高に受かったけど、あれ以来、塾では笹野には会えていない。
あの一回きりで、俺はチャンスを逃した。
高校でも俺はよく女子に呼び出しされて、告白されるけど、頭を過ぎったのは笹野に見てもらいたい小学校時代の自分だ。
情けなくて、カッコ悪い自分だ。
告白は全部断った。友達に「佐伯さんは学年一可愛い子だぞ?もったいない!」とか、「あの先輩は高嶺の花で、全校男子の憧れだよ!もったいない!」とか、言われている。
それは分かる。俺も女子が可愛いとか、綺麗とか思う普通の男子高校生だから、「彼女が欲しい」くらい思う。
でも、笹野が職員室であれほど泣き出している姿は頭から消えない。
消えてはいけないと思った。許してもらえなくても、せめて、ちゃんと謝ってからの話だ。
「こじらせているね~、いい加減、気持ちを切り替えたらどうだ?」
「……改めて、言わせてもらおう。優って、本当にあの夕霧優?同一人物?姉とか妹とかいない?」
「何回確認するんだよ?僕は優だよ、あの夕霧優だよ。女装はまあー、色々あるから~、仕方ないっていうか~」
「いや。かっこいいとは思うよ。男の俺でもイケメンだなって思うけど、ギャップがな~、エグいでしか言えない」
試験が終り、塾も行かなくなって、高校の新入生としてバタバタした時期を過ぎた。
そして、高二に上がる夏休みで偶然、久々に会っていない優と喫茶店で会った。
ぴっくりするほどの別人だ。
で、さすがの国王さまのあだ名だ。優は店に入って、俺と目があった瞬間、俺の席に歩いてきて、向かいの席に座った。
自己紹介した後、俺の驚きの顔を満喫したようで笑ったら、いきなり、恋話が始まったのだ。
俺が話したあと、なんか恥ずかしくなって、「お前も話せよ」って言ったら、優の奴なんと「え~、幸谷には関係ないだろう?」って平然な顔で返された。
やっぱり、変わったのは外見だけで、中身はまったく変わっていないな、優の奴は。
優はあれだな。友達だったら凄く頼りがあるが、敵に回したら怖いタイプだろう?絶対。
「俺が優の友達でよかった」って、塾を通うあの頃は時々そう思ったな。って、今の優を見て、あの受験地獄の時間を思い出して、思わず笑った。
「でもさ、その子に会って、謝ったら、この後どうする?」
「えー、実はさ。俺も考えたんだけど。……分からないって分かった」
「なにそれ?」
「あいつは……なんっていうか、不思議って感じだよ。そこも可愛いだけど。あと、一見、大人しいに見えるが実は結構行動力が凄い子で、あと、ちょっとひっこみじあんだが、聞かれたことはちゃんと答えるし、あと……」
「ストップ!僕は別に君の感想を期待しているわけじゃないから、その辺にして、そろそろ気持ち悪くなった」
「うわー、何こいつ、相変わらず腹立つな~笑」
でも、優の言ってる言葉は正しい。そういうことは、ちゃんと笹野に言うべきだった。
笹野に謝りたいとか、ちゃんと「好き」って言いたいとか、全部、俺の自己満足で、罪悪感を消したいだけの願いだ。
それでも、期待はする。
笹野にもう一度会いたいって思う。
そう思うところ、高校二年生のゴールデンウィークの最後の一日で、俺は駅前で笹野に会った。
小学生の時、前髪で顔を隠している時と違って、笹野はすっごく綺麗になった。
それでも、俺はあの綺麗な目を見て、すぐに分かった。笹野咲だって分かった。
もう、チャンスを逃してはダメだ!って思い、俺は口を開いた。
「笹野!…笹野咲だよな?」