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02 プロフィール:K 《このイライラは知らなかった》

02 プロフィール:K 《このイライラは知らなかった》


俺は神狩幸谷(かがりこうや)


花鮫小学校三年C組。自分から言わせてもらおう!俺はモテモテだ!


イケメンで、文武両道で、周りの人にも親しげがある。別クラスの女子に告られるほとのモテモテだ。


友達も多い。これは簡単だ。だって、友達は作るものではなく、勝手に集まるものだ。


勉強では常にクラス上位三位の枠に居て、運動会でもリレーのアンカとして、前に走っている奴を抜いて一位になった。


でも!それでも!あいつは俺を見ていない!


それがなぜかイライラする。


あいつとは、幼馴染の笹野咲(ささのさき)だ。


親同士が仲良しで、家も同じビルにいる。でも、最初の挨拶きりであいつは俺と一緒に遊んでくれない。


あいつはいつも前髪で顔を隠しているが、俺には分かる。あいつの目は凄く綺麗だ。


それに、なんとなく感じたことがある。あいつは何をしていてもどこか引いているようで、手加減しているようだ。


証拠はある。走るのが早いのに、わずとスピートを下げて一緒に走っている女子を待っていた。頭がいいのに、わざと正しい答えを消して間違った回答に変わった。


それに普段は女子としか会話しないのもイライラする。


「幸谷、買い出し頼める?醤油が切れたのよー。玉ねぎもついでにね。あ、あとトイレットペーパーももうすぐ切れるから、駅近のスーパー特売してるらしいから、買ってきて~」


「え~、母ちゃん。俺、小三だぞ?小三の子供に遠出させていいわけ?」


「うるさいな、もちろん、咲ちゃんも一緒だよ。あんただけじゃ頼りにならないわよ」


「じゃ、あいつだけで行かせろよ。今日もうちの晩御飯をタダ飯にするだろ?それくらいっ」


「神狩幸谷!そんなこと言っちゃダメ!」


あ、やば。お母ちゃん、俺をフルネームで呼んだときはマジで怒ったときだ。


「お金はこれ?じゃ、行ってきます!」


俺はパンっとドアを閉めて、家を飛び出した。そして、あいつがもうビルのロビーで待っているのを見て、そのイライラが何となく薄めた気がする。


それでも、俺はあいつにいい顔を見せていない。なんかそうしなくちゃ負けだって思った。「おい!行くぞ」


あいつがただ「うん」と返事しただけで、それ以降何も話していなかった。


だんまりのままで、なんかつまんないって思った俺は『マスターオーダー』という漫画の話を話した。途中でチラついたあいつの顔は、真面目に俺のくだらない話を聞いているから、なんかまたイライラしてきた。


「神狩くん」


「え?おお、…何?」急にあいつに呼ばれてびっくりした。


「コンビニ行ってくる」


「おお、分かった。じゃ、あとでスーパーの出口で集合な」


「うん」


そして、帰り道で俺は寄り道しようと提案した。


あれは迂闊だった。もうすっかり、日が暮れて、雨も降り始めて、俺たちも道を迷った。


「だ、大丈夫だ!俺は、道、分かるから!泣かないで!俺に任せろ!」


「……泣いているのは神狩くんでは?」


「俺は泣いでない!」そう怒鳴っている俺を見ても、あいつはいつも通り涼しい顔をしているのもイライラする。


あの日、どうやって家に帰ったのかも、帰った時、何時になったのかもわからなかった。


あいつはただ何も言わないまま、俺の手を引いて、前に歩いて、気づいたら俺は母ちゃんの腕の中に居た。


「咲ちゃん、今日も家でご飯食べるの?うちで一緒に食べない?」


「大丈夫です。いつもありがとうございます」


そう言っているあいつは、母ちゃんから弁当箱を受け取ってから、暗い廊下の突きで消えた。


「本当、幸谷。明日、学校に行ったら、咲ちゃんにありがとうを言ってね。ほら、手を洗って、ご飯にするよ」


俺もありがとうって言うつもりだった。でも、あいつがクラスの女子に『俺との仲は普通』って言ったのを聞いて、なんかまたイライラしてきて、言うのをやめた。


バレンタインデーが近づくごろ、クラスの男子たちがなんだかんだそわそわしてきた。


「なんだよ?期待くらいさせろよ。俺は幸谷と違って、チョコがもらいたいだかんな」


「本当、なんで幸谷だけ女子からチョコもらえるだろう。くそ!隣のクラスの子までによ~」


「え?欲しいの?じゃ、もらったチョコ分けよか?」


「「幸谷は黙って!」」


俺は親切にチョコを分けようとしたのに、本当こいつらなんだよって思った。まあー、でも、意味不明な優越感があるのが認めるよ。だって、俺、モテるんだし。


そしたら、健くんが「笹野さんからチョコもらえないかな」って言い出した。


「最近、笹野さんが可愛いなと思ったよな」とか、「いつも手伝ってくれて、優しいな」とか、「実はさ、前髪に隠された顔、めっちゃ可愛いだぞ」とかまで言い出した。


なんか俺、イライラのマックスであいつに直接聞いた。そしたら、あいつが『別に、頼まれたから』って返事したが、なんか笑っているようで俺はまたイライラしてきた。


バレンタインデーで健くんがあいつに「チョコくれる?」って言ったらさ、あいつ本当に先生からもらったチョコを健くんにあげたんだ!なにそれ!まじでイライラする!


あれから、俺はだんだんあいつに対して汚い言葉を言い始めた。


「ブス」「バカ」「のろま」そして、クラスの男子もあいつにそう言い始めた。


あいつがまた他の奴に押し付けられたことをしているから、俺はあいつが落ちた課題本を踏んだ。


あいつがまた正解を消そうとしているから、俺はあいつの消しゴムを投げた。


全てが、俺がボールをあいつの顔に当たった時から始めた。いいえ、多分、俺があいつのことを皆の前で「ブス」って言ったから始まったのかも。


体育でボールを当たったのはわざとじゃないのに、すぐ謝ろうと思ったのに、なぜか言葉が詰まった。


男子たちがあいつをいじめ始めた。女子もあいつを無視し始めた。


俺は最後にあいつを見たのは、職員室で号泣している姿だった。


あいつは転校して、引っ越した。


お父さんとお母さんが、あいつのお父さんに顔を下げているのも見た。


「ごめんなさん」って言おうとしたが、もう会えなくなった。


結局、俺はあいつのお父さんに「ごめんなさい」ってしか言えなかった。




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