紙飛行機を飛ばすのに重要なもの
「これより、『令和紙飛行機研究所』の第一回競技会を開始します。みんな、紙飛行機の準備はできてるかー!」
先崎所長の音頭とともに、参加者たちは各々が制作した紙飛行機を頭上へと掲げた。
我々の団体は発足したばかりであるが、助手である私がVtuberとして布教活動をしたおかげで、第一回にも関わらず大盛況となった。今、私は会場のモニターに映る美少女として裏方に徹している。
「私たちはより遠くまで飛ぶ紙飛行機の研究をしておりますが、まず第一なのは、その時々の空気の流れを読むことなのです。皆様も良い風を捕まえて、素晴らしい記録を出すことを期待しております」
先崎所長が礼をすると、すぐ後ろにいる松野副所長が拍手をし、続いて参加者たちも拍手をした。
この松野副所長は、研究所の中でも特に畏れられている人物だ。今回の競技で使う機体も、世界記録が狙えるほどと目されている。私の配信でも準レギュラーとして美少女になってもらっているが、それは極秘事項だ。
「記念すべき第一投は先崎所長、お願いしまーす!」
ボイスチェンジャーを通した私の声が会場に響き、所長が指定の位置につく。
空気の流れを確認し、いざ、第一投!
しかし、紙飛行機が所長の手を離れた瞬間に、予期せぬ突風が会場を通り抜けた。煽られた紙飛行機は不自然な角度で上昇し、直後に錐揉み回転をしながら墜落。地面に叩きつけられてしまった。
「えー……先崎所長の記録は、1メートルです……」
会場は苦々しい雰囲気に包まれた。所長の顔は地面に横たわる紙飛行機のごとく、くしゃくしゃになっている。
「つ、続きまして松野副所長、お願いしまーす」
茫然自失の所長と入れ替わりで、位置についた副所長。ところが、副所長はとくにタイミングを計る様子もなく、向かい風のなかでひょいっと紙飛行機を投げてしまった。
紙飛行機はすぐさまバランスを失い、所長のものより少し先の地点で落っこちた。
「すみません、マイクいいですか」
突然、副所長がマイクをとった。
「ご覧いただいたように、空気の流れを読むのは我々であっても至難の技なのです。ですが、その難しさこそ紙飛行機の醍醐味。皆様も失敗を恐れず、自分の機体を信じて飛ばしましょう!」
歓声とともに会場の雰囲気が一変し、熱気が戻ってきた。その様子を見て、所長も気を持ち直したようだ。
戻ってきた副所長に、私はこっそりと尋ねた。
「松野さん、もしかして」
「無論、空気を読んだのだよ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。