学生(17)秋野ヒロシの独白
ああ、…こんなだったら、海の誘いなんて断っておけばよかった。
……夏休み中盤、課題に行き詰まり、惰眠をむさぼっていると普段は音沙汰もない鉄の塊から着信音がした。また使いもしないクーポンでも届いたのだろうと期待せずにソレを見ると、なんと中学の同級生からの連絡だった。
『明日の海、お前何持っていくんだ?』
どうやら、明日クラスのみんなで海に行くらしい。自分だけ誘われていなかったのは不服だったが、暇だったので急遽行くことにした。
…なんとか口の中に空気を蓄えようとしたが、結局泡となって出て行った。こういうときはどうすれば良いんだったか。腕や足をやみくもに動かすも、沈んでいく。
せめて沖縄の海とかであれば水面がわかっただろうに。濁った水のせいで太陽の光すらわからない。
苦しい、苦しい、苦しい…、息の苦しさをごまかすために思い浮かぶのは、あの通知を無視していればとか、なんで浮き輪を忘れたんだとか、そういうどうにもならないことばかりだ。
口や鼻から出る泡が減ってきた。もう空気が残っていないらしい
必死に開いた目が痛い、変に海水が入った鼻が痛い、
もうだめだとわかっても、もがく手を止められない
ダメだ、生きたい。まだ生きたい
彼女だってまだできていない。『鈴木放浪記』の最終巻だってまだ読んでない、『イカ神』だってサ終までやり続けたかった
クソ、まだ生きたいんだよ、死にたくない
死にたくないんだ、死にたいやつがいればすぐに変わってやる。
せめて死ぬなら、だれかを助けて死にたい
それで、こんな人生でも、そいつの命は助かったと安堵しながら死にたい、
なんでだ、なんでこんなところで一人死ななくてはならないんだ
嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ、違う、違う
いい、いい、安堵なんていらない
彼女だって、できなくたっていい
漫画もゲームも、もはやどうでもいい
死ななければ、生きることさえできれば、なんだって
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
結局そんな願いもかなわなかったらしい、ひどい眠気に襲われ、俺は意識を手放した。
……ただ、意識が途切れる直前、頭の奥で声が響いたような気がした。
「あなたの願いをかなえましょう」と。