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第1話 悪役令嬢のテンプレ追放

「――リリィリリア・リリステア!お前は王太子の婚約者でありながら、サーナに対して数々のいじめを行った。よって、この時を持ってお前との婚約を破棄し、私、ロックフォード・フォン・ローゼリアは聖女のサーナ・ヒマリスを新たな婚約者として迎える!!」


私の婚約者であったはずの、ロックフォード・フォン・ローゼリア――ローゼリア王国王太子の宣言が会場に響いた。



いじめ?

はて。何のことだろう。



今日はローゼリア王立魔法学園の卒業パーティーだ。

色とりどりのドレスと礼服で会場は埋め尽くされ、壁際にはおいしそうな料理が所狭しと並んでいる。


…こんなおめでたい、お祝いの席で婚約破棄ですか?

といいますか、家同士の婚約でございましょう?

私の両親と国王夫妻は承諾していらっしゃるのでしょうか。

は?お前らバカなの?死ぬの?



婚約者である王太子の隣にいるのは、サーナ・ヒマリス男爵令嬢だ。

ロックフォード王太子の腕に抱きつき、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべている。


サーナはロックフォードの色に合わせたのか、いつも着ている黄色系統のドレスではなく、赤いドレスを着ていた。

ロックフォードはサーナの色である黄色の礼服に、サーナの瞳の色である茶色を刺し色として使っていた。

そう――婚約者は私なのに、彼らはお互いの色を身に着けていたのである。



あれ?デジャヴ??

この光景、何かで見たことある気がする。どこだったっけ…。

というか、さっきから公爵令嬢らしからぬ口調で思考してしまうのは何で――!?



「そして、――リリィリリア・リリステア!お前は王太子の命により、国外追放の刑に処す!!」



その宣言を聞いたとき。

私――リリィリリア・リリステアは全てを理解し、青ざめた。



私――…やり込んでたスマホゲーム『花咲く国の精霊姫(シンデレラ)~転生したあなたは精霊の加護を受けヒーローに愛される~』の王太子ルートの悪役令嬢に転生している――!?




いや、いやいやいや。

乙女ゲームの悪役令嬢転生て!!!

使い古されたテンプレートかよ!


しかも、婚約破棄シーンからかよ。とことんついてないわぁ。



ロックフォードは何を勘違いしたのか、嬉しそうな顔で見下しながら言葉を紡ぐ。


「今更後悔しても、もう遅い!!!全く役に立たない偽物の加護と、今まで犯してきた罪を荒野の中で魔物に追われながら悔い改め――」

「婚約解消、承知いたしました。誓っていじめはしていませんが、即座に退散させていただきます。では、ごきげんよう!!」



はい、テンプレテンプレぇ!!

テンプレはスキップだ!!聞く必要なんてどこにもないわ!!



「は?…え?いや、早――!?ま、まて!!まだ話が――!?」





ホールの扉を開け、ヒールで走る。


令嬢の所作なんて、もういらない。



もう、こんなバカの言うことは聞かなくていいんだ!!

ありがとうヒロイン!!さよなら王太子!!末永くお幸せに!!




リリィリリアは猛ダッシュを決め込み、馬車が停まっている広場へと向かう。

リリステア家の百合の家紋が入った馬車に乗り、即座に出してもらう。


「道交法なんていらない!高速道路並みの、時速80キロでぶっ飛ばして頂戴!!100キロでも良いわ!!」

「へ?お嬢様…?コーソォク、ドゥロ…?時速?キロ、とは…?」


ヤバい。伝わらなかった。

ここ、異世界だった。


「あ…。いいから急いで帰宅して欲しいの!!お願い!!」

「は、はい只今。」


御者は何事かと慌てていたが、とにかく急ぎで家に向かってもらう。




ガラガラガラガラ…

石畳の上を走る車輪の音が心地いい。

少しお尻が痛いけど、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界だから仕方ない。


リリィリリアは馬車の中で思案する。


「確か、やり込み要素多めの下剋上系チート乙女ゲームだったよね。学校の授業のおかげで戦闘経験もあるし、魔法もたくさん練習したから、野宿でもなんとかなりそうね!追放先は西隣のクリスタル帝国だといいなー。あのキラキラな、クリスタルでできたお城を実写で見てみたい!!The異世界の神秘ですよー!あ、東隣のオーロラ魔法公国でもいいなぁ。学術都市だし、ローゼリア王国よりも錬金術が盛んだし、魔法の研究に打ち込むのも素敵だよねぇ!!北隣のフォレスティア精霊国は、神秘に満ち溢れている霊山が数多くあるし…!あ、先に国外出ちゃえばどこでも行けるか!!」


長すぎる髪さえ切れば、平民でも生きていける。

だって私、前世は日本人で、一般庶民の元社畜だし!

なんとかなるなる!


「あ、でもお米たべたーい!!それなら行き先は、平安と江戸を足して2で割って魔法と不思議を混ぜ込んだような、和風ファンタジーな常世国(とこよのくに)かな!?向こうの乗りものは馬車じゃなくて牛車ぎっしゃだよなぁ。…牛さんに引かれるのか…。あ、でも、もしかしたらどこかで忍者や修験道、陰陽師の式神に会えるかも!あれ?平安混ざってるってことは、お米の調理方法は強飯(こわいい)なんだろうか…神社に奉納された(あわび)のお下がり、直会(なおらい)でいただけたりするのかな?魔法蹴鞠選手権や巫女舞見れるかな?うわぁ夢広がる!!」



やりこんだこの乙女ゲームの世界は無駄に細かく設定されており、旅行を考えるとワクワクがとまらなかった。


だが、そのためには一刻も早く帰宅し、荷物をまとめる必要があった。

まずは王太子と、この国から逃げださなければ未来はない。

悪役令嬢が追放された道中で、王太子が雇った刺客に殺されるイベントがあるのだ。


早めに移動すれば、待ち伏せの時間や場所もずれるはず。

生き残る確率をなるべく上げておきたかった。



そういえば。

ロックフォードが選んだのはサーナ。


ゲームでは、サーナ(プレイヤー)は転生者という設定だった。

それに、サーナはやってもいないいじめを捏造していた。


恐らく本当に転生者で、ゲームの記憶を頼りにロックフォードのルートに進み、エンディングを迎えたんだろう。



「はー。王太子と離れられたのは嬉しいけど、お父様になんて言おう…。厳格だし、地位も宰相だし……どうしたもんかなぁー。今まではたくさん愛してもらえたけど、ゲームでは婚約破棄後はあっさり捨てられるんだよなぁ。お母様も亡くなってるから頼れないし。せめて荷物だけは持ち出したいー…。」



そうこう悩んでいるうちに、馬車は家に着いた。

御者に礼を言い、馬車から降りてまずは自室に向かう。


「お、お嬢様!?今は卒業パーティーの真っ最中では!?」

「あ、うん。色々あって帰ってきた!お父様は執務室?後で行くって伝えておいてくださいませ!!」

「へ?あ、はい?つ、伝えておきます…。」


途中、出会ったメイドや執事に話しかけられたが、適当に返して部屋に飛び込む。

時間は有限。

短時間で価値あるものと着替え一式を詰め込んで、家から出ないといけないのだ。


まずは着替え!

着ているドレスを脱ぎ捨て、メイドに手伝ってもらいコルセットも外す。

動きやすい簡素なドレスに着替え、靴も歩きやすいブーツに履き替える。

よし、これで国を出ても動けそうだ。


着替え終わったら、次は持ち物だ。

クローゼットを開け、着回しできそうなものを引っ張り出す。

魔法鞄に、手あたり次第、アクセも服も片っ端から詰め込んでいく。


魔法鞄とは、見た目の何百何千倍も物が入るのに、重さが500グラム(ペットボトル飲料)程度にしかならないという、質量保存の法則を全無視(フルシカト)したような魔法がかかっている鞄だ。

結構お高いが、リリィリリアは小さめのショルダーバッグ型のものを持っていた。



…この壺売れるかな?

いや、売ると足がつくかしら。

スムーズに換金できなければ意味がない。諦めるか。



諸々物色していたら、父親が部屋に乗り込んできた。


「リリィリリア…いったい何をしているんだ…?」


父は驚きながら疑問の表情を浮かべ、聞いてきた。



父の名前はルイス・リリステア。

紫じみた黒色の髪と黄色の瞳を持つイケオジだ。

髪型はオールバック。

髪と同じ色の服に、瞳と同じ色のネクタイをしている。

加護はないが、真面目で優秀な人物だ。

このローゼリア王国の宰相をしており、社交界では一輪の黒百合に例えられている。


私は母親の色を受け継いだのか、父とは正反対の色だ。

腰まで伸ばした白髪と、黄色みの強い薄緑の瞳を持って産まれた。

着ているドレスの色は白系統。

社交界では、私のことは一輪の白百合に例えられているらしい。



「あ、お父様。こんばんは。」


なんと、父の執務室へと向かう手間が省けてしまった。

お父様は乙女ゲームの登場人物というだけあって、やっぱ美しいなーと思いながら返事をする。


「……スマホが欲しい。写メりたい。この世界にはないのが悔やまれるわ。」

心の声が漏れたのだろう。

小さく、そう呟いてしまった。


「…ドレスや部屋のものが少なくなっているようだが……あー…パーティーはどうしたんだ…?あのクソ王太子…失礼、王太子殿下は確かにエスコートしに来なかったが、一応は婚約者だろう?…帰ってきて大丈夫なのか?気持ちはわかるが。」



父に困惑しながら質問されてしまった。

…今、クソ王太子って言いました?お父様??

もしかして、父はリリィリリアの味方なのだろうか?



「……えーと、その…実は先ほど精霊の加護を否定され、無実の罪で断罪されて、このあと国外追放になるため、荷物をまとめに帰って来ました…。あの本棚の中のものを入れたら出ていきますので、どうか見逃してください。」


「……無実の、罪??…国外、追放…だと……?精霊まで…否定した…?」



ゲームでは、リリィリリアはここで捨てられる。

父はどんな選択を取るのだろうか。

せめて荷物は持ち出させてほしい――



「ふざけるな!!あの、クソ王太子め!!!うちの娘をいったい何だと思っているんだ!!!!」



ルイスはブチギレた。

どす黒いものを身にまとっている。相当お怒りらしい。


ありがたいことに、お父様は味方だった。


「残りはあの本棚の中身だけだな?すぐに荷物をまとめなさい。私は少し席を外すが、まとめ終わったら声をかけてくれ。」


そう言い、父は執事を連れて部屋を出ていく。

驚いたが正直、捨てられずに見逃してもらえるのはありがたい。


私は本棚の中身のものを魔法鞄に入れ、忘れ物が無いか確認する。

近くのメイドに声をかけると、父の下へ案内してくれた。



「失礼いたします。」

ノックをし、部屋に入る。


父――ルイスは剣を持っていた。



あれ?やっぱり殺される感じ?荷物まとめたのにどうしよう。



メイドが後ろに回り、髪を下の方で1つにくくる。

そして、父に対して背を向けるよう、後ろを向かされる。


なるほど。マリーアントワネットみたいに斬首確定演出でしょうか。

せめて一思いに……。てか荷物まとめた私の努力とは…。


剣を持った父が近づいてくる。

そして――



ザシュッ!!



私の髪は切られ、肩下くらいのミディアムヘアになった。



――あれ?殺されてない!?



メイドがリリィリリアの体を支え、父親のほうへ向き直らされる。


父は片手に持った髪をリリィリリアに見せ、言った。


「リリィリリアは王太子の不興を買い、私に地下牢に幽閉されて死んだことにする。これはその遺品だ。…すぐに屋敷の地下通路を使って脱出しなさい。出口に馬車を待たせてあるから、それに乗って領地に戻り、のんびりお屋敷で隠れていなさい。…王都の屋敷(ここ)はもうじき囲まれるだろう。早く行け!」


「ありがとうございます。お父様。――どうかお元気で!!」


「お嬢様、こちらです。」

案内を買ってくれた使用人に礼を言い、走ってついていく。

メイドも1名付いてきてくれるようだ。


地下通路は屋敷が攻められた時のための脱出口だ。

今の国王夫妻が善政の為、10年以上使われておらず、埃や蜘蛛の巣などで酷いありさまだった。


「申し訳ございません。お嬢様。このご時世では必要ないと思っていたためこのような有様で…。」

「いえ、正直安全に逃げられるのが嬉しすぎて気にならないので、どうかお構いなく!」

「ははは。ありがとうございます。さぁ、もうじき出口ですよ。ここからは声を出さないように。」


そう注意され、梯子を使って地上に出る。

そこは、リリステア家が所有している水車小屋の中だった。

こんな便利な道があったなんて。


御者とアイコンタクトを取り、執事が馬車のドアを開け、小声でリリィリリアを案内する。


「どうぞ。」


隠し通路は正義だなんて思いながら、馬車に乗る。

使用人とメイドも一緒に乗り込む。

護衛してくれるのだろう。とてもありがたい。


「どうか窓の外は見ないよう、お願いいたします。」

「はい。」

「よし、出せ!」


使用人が御者に告げ、馬車は動き出す。

リリィリリアはこうして無事、王都を脱出したのだった。



-----------------



その頃。

リリステア家王都屋敷には、王太子とその近衛兵、サーナが訪れていた。


王太子はリリィリリアを出せと、リリィリリアに罰を与えると息まいて、ルイス相手にまくしたてていた。


「…私も同じ気持ちです。なので、罰としてあの者を地下牢にて幽閉しております。王太子様に逆らうなど……ましてや王太子様の大切なお方をいじめるなど有ってはならないことですので。たっぷり悔い改めさせ、その後放り出して見せましょう。」


父親は逆らわず、王太子に寄り添い、リリィリリアの引き渡しを拒む。

罰は自分が与えると、そう主張した。



王太子は不服そうだ。


サーナは思案する。

だって、私が「いじめられた」んだもんね。

味方して怒ってくれるよね。ロックフォードは♪

サーナは怯えた様子を見せながら、心の中では上機嫌だった。



王太子はルイスと言い争っている。

だが、サーナの発言で態度を変えることになる。



「王太子殿下ぁ~。父親に怒られるのって、結構こたえるんですよ?しかも地下牢だしぃ…。十分反省させてから、国外に出しても良いんじゃないですかぁ?」


怯えた様子を装いつつ、うるんだ瞳で上目遣いに発言する。



サーナはゲームの知識で、ルイスがリリィリリアを捨てることを知っていた。

地下牢に閉じ込めたことは初耳だが、この世界でも捨てられているはずだ。



だって――この世界のヒロインは私で、王太子もゲームの通りに動いたんだもん!



「…。サーナ……君はなんて慈悲深いんだ!!急に放り出すのではなく、反省の機会を与えてやるとは…!!ごめんね、サーナ。私が間違ってた。あの女は反省させた後で国外に追放しよう。」

「ロックフォード様ぁ!!ありがとうございますぅ。」



ロックフォードはサーナの頬に口づけし、まるで2人だけの世界かのような空気間でいちゃつき始めた。

…ちなみに、場所はリリステア家正面玄関、外である。


近衛兵は空気と化している。

ルイスは怒りを顔に出さないよう、こらえながら口をはさんだ。


「では、お引き取り下さい。今後のことはまたご報告いたします。」

「ああ。たくさん反省させてくれ。そうだ、屋敷の周囲に兵を巡回させておく。万が一脱走したときはこちらで捕まえるから、そのつもりでいろ。では。…帰ろう。私の聖女、サーナ。」

「はぁい!ロックフォード様!」


サーナはロックフォードに抱き着いた。

ロックフォードにエスコートされ、いちゃつきながら馬車に乗る。



王太子一行は数名の兵士を残し、馬車に乗って帰っていった。

ルイスは屋内に入り、怒りを露にした。

屋敷の者全てが同じ気持ちなので、口には出さないが。


執務室へと戻る途中、執事とすれ違う。


「首尾は?」

「問題ありません。現在探しております。」

「屋敷の周囲は見張られている。地下通路を使え。目立つな。」

「御意。」


歩くスピードを落とし、執事と会話し、執務室へと戻る。

大切な娘を傷つけた者を許すつもりなど一切なかった。


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