04 晴れのち雨
きっかけはあゆさんとのラインだった。
くだらないことで盛り上がるのが僕とあゆさん。
内容は僕らの住んでる所からちょっと離れた場所にあるお菓子屋さんについてだった。
「売ってないよ、あそこには」
「いや、売ってるんだって。本当、本当」
そのお店にしか置いてない限定品についてに熱く語っていた。
お菓子屋にある商品が売ってるか売ってないかで僕とあゆさんはもめてた。
「じゃあ、明日確かめに行く?」
「いいよ。絶対売ってるんだって」
二人で意地の張り合いになり確かめに行くことになった。
偶然とはいえ休日に二人で出掛けることになってしまった。
あゆさんと待ち合わせ。
時間の十分前に着いたが、あゆさんはすでに来ていた。
「早いね、まだ十分前じゃないですか?」
「鈴木君こそ」
あゆさんの私服姿に顔は歪む。
きっとお出掛け用なのか、普段の仕事の時ともお花見の時とも違っていた。
思いの外大人っぽい雰囲気に最初は意外に見えた。
しかし、話しをするといつものあゆさんに、そんな戸惑いはすぐに吹っ飛んだ。
「じゃあ、行きますか?」
「うん、行こう」
念の為キレイにしてた僕の車にあゆさんを乗せる。
「鈴木君の車だ」
「汚いけどどうぞ」
「そんなことないよ」
初めて乗る僕の車を物珍しそうに見てた。
車の中でも僕とあゆさんは楽しく話をしてた。
いつもより道のりが短く感じる程だった。
到着すると早速そのテナントに向って歩き出す。
お店の前に行くと、僕の言った通りその商品は置いてあった。
「ほらね、やっぱりあったでしょ?」
「……本当だ、売ってる」
僕の勝ち誇った顔とは反対にあゆさんはがっくり。
「私、どこと勘違いしたんだろうね?」
「そんなの知らないですよ」
「ま、いっか」
あれだけ騒いだのにやけにあっさりしてる。
そこもあゆさんらしい。
あゆさんはそのお菓子を六つと二つに分けて買った。
「しょうがないから、ご馳走してあげる。後で食べよう」
「ありがとうございます」
「後はどうするの?」
「せっかく来たんですから遊んで行きましょうよ」
「うん」
僕とあゆさんはそのお菓子屋の入ってるショッピングモールのテナント巡り。
服を見たり小物を見たり、あゆさんの行きたい所を僕が着いて行く。
さながらデートのような感じだ。
こんなにはしゃいでるあゆさんを見るのは初めてだったかもしれない。
何を買うのか悩むのものんびり。
一回見て迷った物を、再度見に行ったりと優柔不断。
僕は商品よりあゆさんを見て楽しんでいた。
「うーん。やっぱり買わなきゃ良かったかな?」
「もう買っちゃったんだから」
「そうだよね」
一日中あゆさんと僕は色んな所に見て回って楽しんだ。
帰りの車の中も遊び疲れた様子もなくあゆさんと僕は話しに花が咲く。
「そうだ。これ、食べようか?」
「あ、はい。忘れてました」
「これが目的で今日来たんだもんね」
問題となった限定品のお菓子を食べる。
「運転大変なら食べさせてあげよっか?」
「大丈夫です」
「なんだー。つまんないなぁ」
すぐに食べさせてもらえば良かったと後悔する。
この辺の先を読んだ臨機応変さが僕は甘い。
「鈴木君って男の子なのに、お菓子詳しいんだね」
「え? あー、はい」
「いつも買ってるの? あそこのお店で?」
あゆさんに聞かれたことに僕は一瞬止まってしまった。
あそこのお店は付き合ってた彼女とよく行っている店だった。
そのお菓子も彼女が好きで、だから僕は知っていた。
別に隠すようなことでもない。
はっきり彼女とよく行くと言えばそれで済むはずだった。
「鈴木君?」
「あ、すいません。あのお店、家の人がよく行くんですよ」
「へ〜、そうなんだ」
僕は思わず嘘をついてしまった。
彼女の存在をあゆさんに隠してしまったんだ。
彼女がいるという事実を知られたくなかった。
「じゃあね。今日は楽しかったよ」
「はい。俺もです」
「良かったらまた行こうね!」
「はい、もちろんです」
あゆさんを笑顔で途中まで送って行く。
なぜ正直に話さなかったんだろう。
嘘をついた罪悪感が残る。
あゆさんに対してだけではない。
付き合ってた彼女に対しても同じように申し訳ない気分になっていた。