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18 気持ちの掛け違い

 いよいよあゆさんの誕生日を迎えた。

 付き合い始めて最初のあゆさんの誕生日を一緒に迎えられる、ということだ。

 仕事上がりに待ち合わせして二人でささやかな食事の予定を立てていた。


「特別なこととかしなくていいよ」


 張り切る僕をそんな風に気づかってくれる。

 控えめで優しい性分は相変わらずだ。


 僕は誕生日プレゼント渡して喜ぶあゆさんの顔を早く見たくてうずうずしてた。

 あゆさんがどんな反応するのか考えてるだけで楽しかった。


 昼間、外回りの途中で工藤の様子を見に病院へ寄る。

 やはり僕の責任もあるという考えが抜けてなかった。


「あれ? 鈴木君」


「あゆさんも来てたの?」


 入院した工藤への休暇申請や保険のこと、その辺の話をしに来てたようだ。


「よう、大丈夫か?」


「元気ですよ。寝飽きてるぐらいです」


「じゃあ、変わってくれ。俺は眠くて、眠くて」


「でも、本当。もう飽き飽きです」


 少しの間、いつもの工藤との漫才のような掛け合いが続いた。


「じゃあ、そろそろ戻るね」


「あ、待って、あゆさん。俺も」


「今夜はごゆっくり」


「うっさい」


 工藤に言われなくても十分承知してる。

 早く夜になってあゆさんと楽しい時間過ごしたい。

 そんなことを思うと自然に顔も笑顔になっていた。


「楽しそうだね」


「え、そう? うん、楽しいかもね」


「……そう」


「ちょっと、あれ? あゆさん?」


「早く戻らないと。仕事中でしょ?」


 仕事に真面目なあゆさんに怒られて、僕も反省してすぐに仕事モードへ切り換えた。


   ◇   ◇   ◇


 夕方、会社に戻りようやくあゆさんの誕生日のお祝いだ。


「行こうか」


「うん!」


 昼間の様子が引っかかっていたが、いつものあゆさんに戻っていて一安心。

 いつも二人で行くお気に入りのお店でご飯を食べに向かった。


「鈴木君と誕生日過ごせるなんて嬉しいな」


「俺も嬉しいよ、あゆさん」


 ご飯を食べて一息つくと、早速誕生日プレゼントをあゆさん渡す。

 

「誕生日おめでとう」


「ありがとう。開けてもいい?」


「うん、開けてみてよ」


「……これって」


 あゆさんの欲しいと言ってた指輪。

 値段は少々きつかったが、僕としてはがんばったつもりだ。


「……ありがとう」


 もっと喜んでくれると思ってた僕の予想はちょっと外れた。

 自分でながんばったと思っていただけに、少し拍子抜けしてしまった。


   ◇   ◇   ◇


 店を出てこれからと思ってたがあゆさんの元気がないように見える。


「どうしたの?」


「え? どうもしないよ」


「元気ないような気するけど?」


「そんなことないよ」


 否定はするが、やはりあゆさんの表情が曇っているのが気になる。

 そんなあゆさんに元気を出してもらいたくて僕は一生懸命笑い話をしてた。


「それで、その時工藤がさ――」


「……帰る」


 突然のあゆさんの言葉に驚く。

 一緒に歩いていた方向を逆向きになると、あゆさんはそのまま反対方向に歩き出してしまった。


「ちょ、ちょっと待ってよ。何? 何で怒ってんの?」


「怒ってなんかない」


「いや、怒ってるよね。機嫌悪いからって俺に当たるなよ」


 あゆさんのそんな態度に僕は珍しく腹を立ててしまった。

 売り言葉に買い言葉。

 僕とあゆさんの間に初めてと言っていい不穏な空気が流れる。


「工藤、工藤、工藤……。さっきから理沙ちゃんの話ばっかりじゃない!」


「え? そんなことないって」


「そんなに理沙ちゃんがいいなら、理沙ちゃんと付き合えばいいでしょ!」


 あゆさんが怒る姿を初めて見た。

 これほど感情を露わにするあゆさんを初めて見た。


「……何だよ、それ? ヤキモチかよ」


 あゆさんの気持ちの乱れに気づけなかった。

 僕も感情的になっていたからかもしれない。

 その時のあゆさんの気持ちを理解しようともせずに、僕は感情のままに怒り返してしまった。


「だいたい、何よこれ? 理沙ちゃんに頼んだんでしょ?」


 誕生日プレゼントのことを言い出した。


「びっくりさせようと思っただけだろう?」


「そんなのちっとも嬉しくないよ」


「何だよ、それ……」


 僕がどんな思いで買ったのか考えてもくれないと思うと悲しくなった。


「私以外の女の人と出掛けて買った物を貰って、私が喜ぶと思った?」


「それは……欲しい物上げたいって、そう思ったからだろ」


「理沙ちゃんにもヌイグルミ買ってあげてるし……」


「あれは、そんな深い意味はないって」


 あゆさんの目から流れる涙に罪悪感が込上げる。

 言い返せなくなっていた。


「私の気持ちなんて、ちっとも考えてくれないっ!」


「……」


 走り去るあゆさんを追いかけることが出来なかった。


「もう勝手にしろ。勘違いしてヒステリック起こしやがって」


 あゆさんの言葉で僕も傷ついていた。

 その時、僕はあゆさんの一方的な勘違いだと受け止めていた。

 今まで小さいケンカは何度かあった。

 せっかくのあゆさんの誕生日だったのに初めてと言っていい大ゲンカをしてしまった。

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