13 お人好しの勘違い
工藤とあゆさんがいつの間にか仲良くなってた。
大人びた工藤と子供っぽいあゆさん。
年齢が逆な不思議な関係になる。
それで釣り合いが取れてたのだろうか?
あゆさんはよく工藤に恋愛についての相談もしてるらしい。
恐らく工藤の方が経験が豊富なのは間違いないだろう。
工藤はあゆさんをよく知る一人になった。
工藤は社内でも評判が良い。
誰とでも訳隔てなく付き合えるし、何よりかわいらしい所が人気だ。
ちょっと生意気な部分はがあるが悪い奴でない。
僕もそんな工藤のことはいい奴だと思ってた。
この間の飲み会の時も僕とあゆさんをかばってなのか、失礼な及川に直接文句を言ったらしい。
僕とあゆさんより工藤の方が怒ってたぐらいだ。
及川が僕に謝ってきたのは、工藤に散々言われたからだと後から聞かされた。
ただ仕事になると融通が利かない時がある。
自分の意見を曲げず、取引先ともよくぶつかり合う。
そのことでこっ酷く上司に叱られた時があった。
しかし、そこは弱い所を他人に見せるのが嫌な性格。
叱られた後も平気そうな顔して仕事してた。
そんな工藤を見て会社の皆も大物だと称えてた。
僕も感心していた。
一人で深いため息をついて落ち込んでる様子を見るまでは……。
やはり、いくら仕事が出来るとはいえ新人。
怒られれば落ち込むし辛いと思う時だってあるに決まってる。
僕は自他ともに認めるお人好しだと認識がある。
友人が叱られて落ち込んでたら、ほっとけなくなる性分だ。
工藤は僕にとってもいい友人になってたと思う。
あゆさんも落ち込んだ工藤のことが気になって僕に言ってきてた。
その日、あゆさんは家の用事で早く帰宅しなければならなかった。
「鈴木君、工藤さん心配だから慰めてあげてよ」
分かっていたが、あゆさんもお人好しだ。
そういう優しい所に惚れたのだから。
それはさておき。
了解したものの、ちょっと気になることがあった。
工藤は僕に気があるのではないだろうか?
そう感じてたからだ。
自惚れかもしれないけど、僕はそんな感じをヒシヒシ感じてた。
しかし、あゆさんにも頼まれたこともあり、僕も気になってたのは確かだ。
僕は仕事上がりの工藤を待ってた。
「あ、鈴木さん。どうしたんですか?」
「夕飯、付き合えよ」
「あゆさんは?」
「今日は先帰った」
「私と二人でってことですか?」
僕と二人で夕飯食べることに最初は戸惑ってた。
どうやら僕の自惚れは考え過ぎだったのかもしれない。
「そうですね。たまには行きますか? もちろん奢りですよね?」
「……仕方ないな」
「やった!」
結局、工藤とに人で夕飯を食べに行くことになった。
特段、二人きりといっても、何ら緊張することもなかった。
いつも仕事で一緒だから当たり前のことだ。
僕はただ工藤を元気づけようといつも以上に笑い話をしてた。
工藤もお腹抱える程笑ってくれてた。
僕も安心したし工藤もいつもの笑顔に戻ってくれた。
なかなか先輩らしい行為だ。
僕は自分で満足してた。
してたのだが……
「鈴木さん、私を慰めようとして誘ったんでしょ?」
「……え?」
工藤には僕の浅はかな考えなど見透かされていた。
「ばれてた?」
「そんなの気づきますよ」
あゆさんと違って工藤は鋭い。
この頃、あゆさんといるせいか、僕の基準がずいぶん下がってのに気づいてなかった。
「優しいんですね」
「そんなんじゃねーよ」
「でも、今日だけじゃないですよね。鈴木さんの優しい所って」
「そうか? って、何も出ないぞ。もう飯奢ったろ?」
「……ちっ!」
漫才みたいなやり取りに工藤も僕も笑ってしまった。
「あゆさんと鈴木さんってお似合いですよ」
「何言ってんだよ」
「でも、どっちも引っ込み思案で見てるこっちはイライラしますけど」
やっぱり他人が見れば、そんな風に写ってるものなのだろうか。
「今日ってさ、励ましてって言ったの実はあゆさんなんだ」
「そうだったんですか?」
「言うなって言われてたんだけど」
黙ってられない。
さすがにそこには工藤も気づいてなかった。
「落ち込んだ時、一人でいるのって嫌だろうからって」
「う〜ん。もしかして、あゆさんにも貸し作っちゃった?」
「そう言うんじゃないよ」
「……はい。そうですね。あゆさんはそんな損得考える人じゃないから……。後でお礼言っておきますね」
「ああ、そうしてくれ」
◇ ◇ ◇
次の日、工藤は元気に会社に出勤してくれた。
あゆさんとは姉妹のように仲良くしてた。
尤も、この場合あゆさんが妹みたいな感じ。
「昨日、あゆさんがうらやましいって思っちゃいましたよ」
皆がいなくなると、あゆさんを横目に工藤が僕に耳打ちしてくる。
「何で?」
「そりゃあ、鈴木さんみたいないい人が彼氏でって意味でですよ」
僕はその瞬間、三角関係にでもなったらどうしようと思ってしまった。
しかし、そんな心配はすぐに次の工藤の一言でかき消される。
「もうちょっと私の彼氏も優しかったらいいんですけどね」
「……彼氏、いたの?」
「はい。あゆさんから聞いてなかったですか?」
どうやら本当に僕の自惚れだったようだ。
自分の勘違いが恥ずかしくなってた。
のちにこの話をすると、あゆさんも工藤も大笑いしてた。
尤も、恥ずかしいのは僕だけでいい笑い話だ。
僕達三人はいい関係を築けていた。
仕事の仲間以上の関係を持てたような気がしたんだ。
だが、それぞれがどんな気持ちを抱いてるかを僕は分かっていなかった。