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11 ファーストキス

 あゆさんが夕飯を作りに来てくれることになった。

 初めて部屋に招き入れるせいか僕もちょっと緊張を隠せない。

 もちろんあゆさんも男の部屋に入るのは初めてだと言う。

 しかし、緊張してる様子はない。

 まずは近くのスーパーで必要な物を買うことになった。


 スーパーの中でもいつものあゆさんらしいペース。

 一つ買うのも見比べてゆっくり吟味。

 本当にお金持ちなのだろうか?

 会社で聞いた噂を疑いたくなる。


「あ、ごめんね。迷っちゃって」


「いいよ、別に。二人で買い物ってのも何かいいじゃん」


「うん。実は私もそう思ってたの」


 照れ笑いを浮かべるあゆさんが微笑ましい。


 ――彼女と2人で買い物。


 僕は前の彼女でえる絵里のことを思い出していた。


   ◇   ◇   ◇


「おい、それ家にあったぞ」


「そうだっけ? でもいいじゃん。安いんだから」


「安いって言っても使わねーだろう? この前も結局捨てたじゃんか」


「うっさいな、祐は。買い物のことは男のあんたはイチイチ文句言わなくていいって」


 絵里は細かく見ないでただ適当に買ってたっけ。

 それでも作った料理は抜群に美味かった。


   ◇   ◇   ◇


「どうしたの?」


「ん? なんでもないよ。行こう」


 あゆさんと絵里を比べてしまってたことに反省しなければ……。

 買い物を終えた僕とあゆさんは住んでるアパートへ向った。


「こんにちは」


「どうぞ、どうぞ」


「ここに鈴木君が住んでるんだね」


 それなりに掃除はしてきれいにはしてたつもりだ。


「何か照れるね」


「そう?」


 あゆさんに言われると僕も意識してしまいそうだ。

 早速料理に取り掛かるあゆさん。

 今日はじゃがいものコロッケにサラダ、そして味噌汁。

 普段、あまり野菜を食べてないという僕の食生活を考えてるらしい。

 そんな心づかいに感激する。


 エプロン姿で料理を始めたあゆさんだが、やはりそこもマイペース。


 ――サク……サク……サク……


 包丁を切る音も絵里とは違ってゆっくりだ。

 どうやら時間が掛かりそうだ。


「……」


 あゆさんがいるのに、また絵里のことを思い出してしまう自分がいる。

 どうしてなのだろう。


「いいから座っててよ」


「いや、なんか落ち着かなくて」


「自分の家なのに変だよ」


 立ち上がってあゆさんの方へ行くと叱られてしまう。

 ドジでおっちょこちょいなのを知っている。

 手切ったりしないか、そんな心配をついしてた。

 そんな本音をあゆさんに言ったら怒られてしまうだろう。

 しばらくするといい匂いが食欲をそそる。


「出来た!」


「おおー! 美味そう」


「じゃあ、食べようか」


 待たされた甲斐あってか、お腹もぺこぺこだ。

 手料理に食欲旺盛。


「うまっ! あゆさん、美味いよ」


「本当? あー、良かったぁ」


 僕の美味しそうな様子にあゆさんも笑顔で答えてくれた。

 食事の後、片付けが終わるとTV見ながら会話に花が咲く。


「一人って寂しくない?」


「う〜ん、どうかな? 馴れればそんなこともないよ」


「そっか」


 ずっと自宅住まいのあゆさんは一人暮らしに憧れてるようだった。

 一人娘でお金持ち。

 両親に溺愛されてるのが分かる。


「あ、そろそろ帰るね」


「うん」


 もう何時間も過ぎてたが、そんなことすら忘れる程短く感じた。

 僕はもっともっとあゆさんといたい。

 あゆさんをもっと知りたいって思っていた。

 前を歩くあゆさんに自然と手が伸びそうだ。


(……あゆさん)


「ん? 今呼んだ?」


「いや、何も言ってないよ」


 そう言うと、不思議そうな顔でまた振り返り後ろ向きになる。

 僕はあゆさんを抱きしめたい衝動が我慢出来なくなった。


「あ……ゆみ!」


「えっ!?」


 最初、驚いて固まってしまったが、あゆさんはすぐに両手をバタバタ動かしている。


「ど、ど、どうしたの? あの、その……」


 動揺してるあゆさんを見ると僕も我に返るようだった。


「あの、いや、ごめん」


「……ううん」


 それでも僕は手を離さず、後ろから抱きしめてた。

 あゆさんもいつの間にかじっとしたまま動かなくなった。


「……鈴木君」


 振り向いたあゆさんの顔がすごく近くかった。

 すごくきれいで、かわいらしくて……。

 顔を近づけるとあゆさんも以前のように抵抗しなかった。

 眼鏡にぶつからないように、顔が斜めに傾くとあゆさんも応じるように目を閉じる。


 ――♡


 僕とあゆさんは初めて唇を重ねた。

 あゆさんにとってはちょっと遅いファーストキスだった。


「……」


「……」


 唇を離してもお互い照れ臭い。

 あゆさんは僕の胸に手を回して抱きついてきてた。

 意外と着痩せするタイプなのだろう。

 押し付けられた胸の膨らみが思った以上にあるのに反応してしまう。

 だが、これ以上は何も出来そうにないのは、あゆさんの真っ赤な顔で予想出来た。

 慌てずゆっくりあゆさんのペースで仲良くなれればいい。

 僕はそう思ってた。


 しかし、キスするまで一ヶ月ちょっと。

 これはエッチに至るまで相当な時間を要するに違いない。

 そんなことも思う。

 それでも幸せそうな顔してるあゆさんを見てるとどうにでもなると思えていた。

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