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10 工藤という奴

 僕が中途で入った後、すぐに入った新卒の新人さんはほぼ同じ時期の入社のせいか、年は離れてても仲がいい。

 分からない所は一緒に聞いたりしながら仕事してたせいもある。

 その中でも取り分け工藤くどう理沙りさという女の子。

 今流行りっぽい元気のいい明るい女の子だ。

 彼女は誰にでもすぐ打ち解けて会社でも評判はなかなかいい。

 タイプで言えばあゆさんとは真逆に近い。

 仕事の業務が被るせいか、最近彼女とよく一緒になってた。


「鈴木さん、一緒に行きませんか?」


「いいよ。じゃあ、行こうか」


 年下とはいえ気兼ねなく話し掛けられるのは楽だ。

 変に気を使われるより、仕事をする上でもやりやすさがある。


「そうだ、鈴木さん。今度飲みに行きましょうよ」


「おー、いいね、いいね。」


 同期に近かったせいもあってか、僕とは特に仲も良かった気がする。

 もちろん僕には他意はない。

 仕事の仲間としてしか見てないに決まってる。

 しかし、そんな姿でも見る人によっては違って映ってしまう場合がある。

 特にあゆさんのような恋愛初心者には得てして誤解を呼ぶ姿に見えてしまうということに僕は気が効いていなかった。


「具合でも悪いの?」


「別に」


「どしたの?」


「……何でもない」


 明らかに機嫌が悪いと見て取れる。

 今まで怒った所など見たことなかったあゆさんが珍しく機嫌を損ねてる。

 あの温厚なあゆさんでも怒る時があるんだ。

 などと不謹慎ながらそんな気持ちも少しあった。


「何か怒らすようなことした?」


「してないよ」


「だったら機嫌直してよ」


「だから、機嫌悪くなってないってば」


 益々機嫌が悪くなってる気がした。

 家に帰ってからも、やはりあゆさんのことが気になった。


「何かあったら、何でも話して欲しい。俺達、付き合ってるんだから」


 直接話したくないことならラインの方が話しやすいだろう。

 しかし、すぐにあゆさんから電話がかかってきた。

 あゆさんの機嫌の悪い理由は実に単純だ。


「工藤さんと仲良過ぎる」


「え?」


「だって! 私といる時より楽しそうに見えるんだもん」


 あゆさんの嫉妬。

 意外と独占欲が強いのだろうか?


「馬鹿だなー。仕事の同僚として話してるんだって」


「そうかもしれないけど。何かイライラしちゃうの」


「ヤキモチってこと?」


「私って妬いてたのかな?」


「そうだと思うよ。妬いてくれて、俺としては嬉しかったりして」


「それ所じゃないよ。もう頭から離れなくて……」


 そんなに僕のことを思っててくれるとあゆさんには悪いが感動してしまった。


「俺が好きなのはあゆさんだけだよ」


「……うん」


「安心した?」


「した」


 単純というか、純粋というか、あゆさんは素直だ。

 やはり付き合ったことのないせいなのだろう。

 あゆさんの純情さは真っ白な気がした。


「工藤さんって私と違って明るくて元気で、ちょっとうらやましいな」


「そんな風に思ってたんだ」


「うん、そう。ちょっとだけ憧れてるの。あまり話したことないけど」


「ふ〜ん、そんなものなんだ。今度話してみたら? 意外といい奴だよ」


「うん」


 こうしてあゆさんは工藤ショックから立直った。

 これからも細かいことで妬かれそうだと思うと先が思いやられる。


   ◇   ◇   ◇


「鈴木さんはお昼、お弁当派なんですね」


「ああ、そう」


 それからしばらくして、工藤とお昼が一緒になった時だった。

 天気が良く、公園で昼食を取ることにした僕と工藤。

 パンをかじりながら横目で見る工藤は、納得したように頷いてる。


「ふ〜ん、そっか。なるほど……」


「何だよ?」


「鈴木さんって事務の藤本さんと付き合ってるでしょ?」


「!?」


「ほら! やっぱりね」


 社内ではまだ誰も気づいてない事実。

 内緒にしてたはずの僕とあゆさんの付き合いを見破られた。

 

「何で分かった?」


「お弁当箱の巾着、同じ物だったから」


「見る所見てるなー」


「それだけじゃないですよ。女のカンです


 さすがこの若さで営業を任されてるだけのことはある。

 それにしても目敏すぎないだろうか?


「藤本さん、最近雰囲気変わった気がしてましたからね」


「そ、そうか?」


「なるほどね。男が出来たからだったか……」


 工藤は再び一人納得して笑みを浮かべていた。


「あのさ、悪いんだけど……」


「分かってます。誰にも言いません。私の心の内にだけしまっときます」


 思いの他気が効く所に安心する。


「藤本さんには話してもいいんですか?」


「あー、どうだろう? そういえば、あゆさんは工藤と仲良くなりたいって言ってたな」


「そうなんですか? よし! じゃ、今度話してみようかな?」


 これが若さ。

 僕もまだまだ若いのだろうけど……。

 工藤の積極的な勢いには、僕もタジタジだった。


   ◇   ◇   ◇


「工藤さんに知られちゃったね」


 その日の内におしゃべりな工藤はあゆさんに話したようだ。


「でもね、工藤さんってすっごーくいい子だったの! 仲良くなっちゃった」


「そうなの?」


「うん。今度一緒にご飯食べに行く約束もしたんだ♪」


 この前までの不信感はどこへやら。

 どこでどうなるのか分からないものだ。

 工藤とあゆさんは意気投合してすっかり仲良くなってしまった。

 性格が全く違う二人。

 あゆさんにもいい影響を与えて欲しいと密かに思っていた。

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