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モーニングコールは寝ぼけ眼の彼女から  作者: 阿井川シャワイエ


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第11話 ふたりきりの試着室(前編)

 ようやく成瀬さんもパンツを試着する覚悟を決めてくれたようだ。


 こういうときに「本当にいいの?」なんて聞き返したりしてはいけない。

 覚悟が揺らいでしまうからだ。

 

 本人が了承した以上、すぐさま行動に移すことにしよう。


 まずは試着するパンツを――。


「あちらにおふたりでお入りいただける、大きめの試着室もございま~す」


「……!」


「よろしければお使いくださ~い」

 

「あ、ありがとうございます」


 びっくりした。


 さっき声を掛けてくれたミニスカートの店員さんが、背後から話し掛けてきたのだ。

 きっと試着室を使いそうな気配を感じ取ったのだろう。


 そんな彼女は笑顔を浮かべたまま、レジへと引っ込んでいく。


 用件だけ伝え、即撤退。

 プロだ。


 そんな店員さんの姿をぼんやり見送っていると、成瀬さんのつぶやきが聞こえた。


「じゃ、じゃあ、試着室に行こっか」


「え? いや先にパンツを選んでから――」


 慌てて呼び止めたが成瀬さんの耳には届かなかったらしく、ふらふらとした足取りで店員さんが指差していた試着室へと向かっていく。


 ……しょうがない、ここは私が適当に見繕うか。


 すぐ近くの棚に目を向けると、そこにはデニム系のパンツが並べられていた。


 成瀬さんにデニムか……。


 うん、似合う。

 というか、似合わないわけが無い。


 問題は成瀬さんの服のサイズが分からないということだけど……今はスピード重視だ。

 小さすぎるという事態さえ避けられれば、それでいいだろう。

 

 手早くサイズ違いのデニムパンツ2着を手に取り、成瀬さんの後を追う。


 私が追い付いたとき、彼女は4つ並んだ試着室の一番奥に入ろうとしていた。

 見た感じ、ふたりで入れそうな広さの試着室はそこだけのようだ。


 あいかわらず妙にふらついている成瀬さんの後に続いて、私も試着室の中へ。


「…………」


 広めの試着室と店員さんは言っていたが、正直そこまでではないような……。

 せいぜい1.5畳くらい?

 ふたりで入るとちょっと手狭だ。


 そんなことを考えながら試着室のカーテンをきっちり閉め、振り向く。

 成瀬さんは鏡に映る自身の姿をじっと見ていた。 


 ……いまさらだけど、これ私が一緒に入る意味あったか……?

 まさか、パンツのはき方が分からないということも無いだろうし、試着用のパンツを成瀬さんに渡して、1人で着替えてもらえば良かった気がする。

 

 だってこれから彼女はお着替えタイム、スカートを脱ぐ必要があるのだ。


 そのとき私はどうすればいい?


 もちろん目をそらしたり、後ろを向いたりするのが礼儀だとは思う。

 でもそれはどちらかというと、異性が着替えるときの礼儀というか……。


 同性同士でも、そういうことをするものなのだろうか?

 まともに友達のいなかった私には、そのあたりのことがよく分からない。


 変に気を遣うと、成瀬さんの下着姿を意識しているのがバレバレで、かえって変態的なのでは……?

 

 まあ、こんなことを気にしてる時点で、じゅうぶん変態的なんだけど……。


 ……うん、そうだ。

 私は成瀬さんの下着が気になる変態なのだから、やっぱりデニムパンツだけ渡して試着室を出よう。

 それがお互いにとって一番いいはず。


「成瀬さん」


「う、うん、分かってる」


 声を掛けると、彼女はビクッと肩を震わせてから、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「ん」


 そんな成瀬さんにデニムパンツを差し出す。 

 けれど、彼女は恥ずかしそうに目を伏せていて、こちらを見ることすらしない。


「スカート、脱ぐね……」

 

「え、うん…………うん!?」


 しまった!

 陰キャ特有のダメ処世術、『相手がなにを言っているのかよく分からないから、とりあえず頷く』を発動してしまった!


 冷静に考えれば、私が取るべき反応なんてただ1つ。

 デニムパンツを成瀬さんに渡して、「じゃあ私は外で待ってるね」と伝える以外にはあり得なかったのに……。


 しかし私が後悔しても、もう遅い。

 

 脱衣の許可を得たと思い込んだ成瀬さんは、吐息を震わせながら制服のスカートに手を這わせ、指をもぞもぞと動かし――やがてパサッ、という音が試着室に響いた。


 思わず息をのむ私の目にまず飛び込んできたのは、丈の長いブラウスでも隠しきれていない純白のパンツ。


 しかし思ったより大人びているというか……ランジェリーと表現したくなる類の下着だ。


 これも親が買ってきたのか……?

 でも母親が娘に買い与えるにしては、ちょっとセクシーすぎる気がする。

 もしかすると下着だけは自分で買っていたのかもしれない。


 だとすると、成瀬さんはこういう下着が好みなわけか……。


 …………。


 続いて目に入ってきたのは、ほどよく肉の付いた健康的な太ももだ。


 美しさと同時に力強さも感じさせるのは、成瀬さんのほんわかした見た目からすると多少意外だったが、田舎出身という彼女の言葉を思い起こせば納得できる部分もあった。

 きっとこの脚で、野山を駆け巡ったりしたのだろう。


 …………。


 試着室を出るどころか、普通に着替えシーンを鑑賞してしまった……。

 そして成瀬さんの下半身を眺めながら、中学時代の彼女に想いを馳せてしまった……。


 やっぱり私は変態のようだ。


 そのことが伝わったわけでもないだろうが、成瀬さんは顔を赤くしている。


「ど……どうかな……? わたしのパンツ姿……?」


「…………え?」


 どうって言われても困る。

 

 だって成瀬さんはまだパンツをはいてない。

 試着用に持ち込んだデニムのパンツは、私がしっかりと持ったままなのだ。


 なのになぜ私はパンツ姿の感想を求められているのだろう?


 ……もしかしてジョークか……?

 

 ズボンとしてのパンツははいてないけど、インナーとしてのパンツははいていますという、身体を張った渾身の一発ギャグ……?


 いまいち理解が追い付いていないが、感想を求められた以上ノーリアクションというわけにはいかない。

 なんでもいいから反応しないと……。


「す、すごく似合ってると思う。その……成瀬さんって可愛い下着をつけてるイメージだけど、こういうセクシーな感じも似合うんだなって驚いたというか……良い意味で意外性があった」


 しかし焦った結果、変態的な言動になってしまった。

 良い意味での意外性ってなんだ。

 本音なだけに、自己嫌悪だ。


「へ……へへへ……」


 でも成瀬さんは、満更でもなさそう。

 それならまあいいか……。


 ただ――。


 こちらが差し出すパンツを一向に受け取ろうとしない成瀬さんの照れ笑いを見ながら、私は嫌な予感がしていた。

 文章量が多くなったので、前編と後編に分けることにしました。

 後編も本日(23日)中に投稿する予定です。

 夕方か、夜くらいになると思いますのでよろしくお願いします。

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