表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃん

キツネのおかえし

『情けは人の為ならず』という言葉があります。

これを『甘やかすと人のためにはならない』と誤解している方もいるようです。

本来は他人に親切にすると、いつか回りまわって自分に返ってくるという意味です。


このお話は知様主催『ぺこりんグルメ祭』参加作品です。

別の小説の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。


 昔、とある村に(かや)を売って生計を立てている六助(ろくすけ)という若者がおりました。

六助は仕事中、きれいな茅が生い茂っているのを見つけました。


 さらに茂みに向こうの斜面に、ぽっかりと穴が開いているのが見えました。

どうやらキツネの巣穴のようです。

でも、巣穴の前の茂みがじゃまで出入りがしにくそうでした。


 六助は巣穴の前の茅をきれいに刈り取りました。


「これで風通しもよくなったね。出入りも楽になって、星や月もおがめるね」



 その日の夜、一匹のキツネが六助の家を訪ねてきました。

掃除をしてくれたお礼を言いに来たそうです。

さらにキツネは『幸運のまじないをかけてあげたよ。町に出て宝クジを買えば当たるよ』と言います。


「でも、クジを買うお金があまりないんだな」


 六助が言うとキツネは笑って答えました。


「戸や障子を売ればいいよ。宝くじがあたってお金持ちになったら、また買い直せばいいんだ」


 六助はいいことをきいたと思い、戸や障子を売ってお金に替えました。

そして宝クジを売っている大きな町に行きました。


 しかし、六助は町についてびっくり。なんと、宝クジを売り出すのは何か月も先のことでした。

しょんぼりして手ぶらで帰ってきた六助を、許嫁(いいなずけ)のおいちさんがなぐさめました。

戸と障子がなくなった家には、冷たい北風が吹きました。


 そこにキツネが現れました。


「あんたの家も風通しがよくなったろう。ざまあみろ」


 そう言ってキツネは去っていきました。


「そうか……。キツネさんのうちも寒くなったのか。親切のつもりで悪いことしちまったな」


「それに巣穴がオオカミやクマに見つかりやすくなったのかもね。六助さんは都の見物ができて、損はしてないんだよ。キツネさんとは違ってね」


 その日の夜は、布団の周りに茅の束を積み上げて寒さをしのぎました。

おいちさんも泊まっていきました。


 次の日、六助とおいちさんは大きな石を転がしきて、狐の巣穴の少し手前におきました。

これで風よけになるでしょう。


 家に戻ると、ふたりで茅の『むしろ』をつくり始めました。

これなら扉や障子の代わりにできそうです。


 そこにたくさんの茅のタバをかかえたキツネがやってきました。

キツネは六助に謝ると、むしろを織る作業を手伝いました。


 次の日もその次の日も、キツネは茅を集めるのと茅細工を作ることを手伝いました。

カゴや座布団、カサにホウキ、いろいろな製品ができました。


挿絵(By みてみん)


 ある日、六助とキツネが仕事をしていると、奥さんになったおいちさんが言いました。


「今日のお昼ごはんはごちそうですよ」


 おいちさんが出したお皿には、いなりずしと巻きずしが乗っています。

村を訪れた行商人に、カヤ細工と交換でノリやカンピョウ、油揚げなどを譲ってもらったそうです。


 六助とキツネは、おいしいおいしいと言って食べました。

彼らはお金をためて、いつか本当に宝クジを買いに行こうと約束しました。


 それから月日が流れ、狐の巣穴の前に置かれた石は『六助稲荷』と呼ばれるようになり、そこに神社が建てられました。

神社の近くにお土産屋ができて、稲荷ずしと巻きずしのセットが売られるようになりました。

それはなぜか『六助』がなまって『助六ずし』と呼ばれたそうです。


 * * *


偉文(たけふみ)くん。『ざまぁ』と『復讐』のあるお話を書いてほしかったんだよ。何かが違うと思うんだよ」


 安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、従妹の(こよみ)ちゃんが遊びに来ている。

彼女はとても物知りの小学生だ。僕が書いた絵本の案を見ている。


「いや、ちゃんと六助さんは仕返しされて『ざまあみろ』って言われてるよね」


「こういうのって、普通は主人公の方が復讐するんだよ。それに『六助稲荷』の由来の話って、他のパターンもあったと思うんだよ」


「暦ちゃん、よく知っているね。キツネに化かされる話とか、子ギツネのかたき討ちの話とかもあるよ」


「じゃあ、かたき討ちの話にすればよかったんだよ。今度、人形劇で『ざまあ』の話をやろうと思うんだよ」


「人形劇って小さい子供も見るんだよね。あまり残酷な話はやめようね」


 僕は登場人物が傷つく話とか悲しむ話は苦手なんだよなぁ。 

グリムやアンデルセンの童話でも、原典はけっこう残酷だったりするけどね。


「ところで偉文くん。あっちのテーブルに木のタライがあったけど、あれは何?」


「目ざといね。オヤツをつくっておいたから持ってくるね」


 僕は作っておいたものを木桶から小皿に移して、暦ちゃんの前に置いた。


挿絵(By みてみん)


「あ、稲荷ずしと海苔巻きなんだよ。いただきまーす」


 暦ちゃんはもぐもぐとおいしそうに食べ始めた。

僕はその間にお茶を用意した。


「偉文くん。『助六ずし』って歌舞伎の『助六』からできた名前だよね。それに、海苔巻きは具がいっぱいの太巻きだと思うんだよ」


「その通りだよ。よく知ってるね」


 助六は歌舞伎の主人公の名前だ。

その舞台の弁当に稲荷ずしと巻きずしが出て、『助六ずし』と呼ばれたらしい。


「僕の話では質素な村人が作るものだから、細巻きでいいんだよ」


「でも、『六助』がなまって『助六』になるのは変なんだよ。絵本のラストは、『六助がひっくり返るほどおいしい』ってことにすればいいんだよ」


 あ、その手があったか。


暦ちゃんの豆知識:

挿絵(By みてみん)


助六は歌舞伎の「助六由緣江戸桜」の主人公だよ。

ヒロインに揚巻という女性がいるんだよ。

幕の合間に揚げ(いなりずし)と巻き(まきずし)の弁当がでて、助六寿司と呼ばれたんだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ぺこりんグルメ祭」企画概要 ←クリック♪↓検索
ぺこりんグルメ祭


暦ちゃん&偉文くん登場作品
K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃん


アホリアSS作品集
新着順最近投稿されたものから順に表示されます。
総合評価順人気の高い順に表示されます。
青いネコとお姉さん・シリーズ中学生のお姉さんと小学生の少年のほのかな恋模様?
K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃん・シリーズ人形劇のクラブに所属する小学生姉妹の活躍
ヒーローマニアの日常・シリーズ特撮ヒーローオタクの大学生ふたりのお話
百科涼蘭・シリーズアウトドア好きのお姉さんのお話です
タマゲッターハウス・シリーズ化け物屋敷をモチーフにした短編集。
小説家になろう全20ジャンル制覇?
魔法少女がピンチ!
 黒衣の玉子様が助けに来た
変身ヒーロー&魔法少女もののローファンタジー小説。 全14話
神具トゥギャザー
 ~ゴーレム君のダメ日誌~
転生前?の記憶を持つゴーレムが主人公のファンタジー小説。 全15話
割烹巻物:活動報告を盛り上げよう 活動報告で使えるいろいろな技を紹介しています。
庫添個展:アホリアSSのイラスト集 小説や活動報告で使える挿絵を公開しています。
  
― 新着の感想 ―
[一言]  「情けは人のためならず」の失敗例から助六ずしへ。普段「とりあえず」でいただいていた助六ずしに、拝礼。  六助さんもひっくり返るほどおいしい……私も「その手があったか」と口に出してしまいま…
[良い点] 「ぺこりんグルメ祭」企画から拝読させていただきました。 青いネコのコンビも好きですが、こちらのコンビもいいですね。 暦ちゃん、賢くて、可愛いですね。
[一言] 暦ちゃん、賢い……! 助六寿司の由来、今回の企画で初めて知りました。意外に知っているようで知らないことって多いものですね。 人形劇で「ざまあ」なんて今時だなぁと思いました笑。 おいちさんの考…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ