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召喚、炎の使い魔『イフリート』!

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 一方、魔物の出現という不測の事態に、馬車に乗っていたハートとリルフィリアも動揺していた。

「ちょっと待ってろ!」

 ハートは、そう言って先に乗降口から顔を出して外の様子を窺った。

 見ると馬車の周囲を獣のような魔物が数えきれないぐらいの多さで囲んでおり、剣や槍を手にした兵士たちがそれらと戦っている。

(どうする……)

 このまま馬車の中に隠れているか、それとも外に逃げるか──ハートは迷った。

 戦闘は馬車の近くで行われており、その場に身をさらすのは危険とも言える。

(でも、このままここにいたって……)

 何もできない馬車の中に留まっていることはよくないと直感したハートは、先に乗降口から馬車の外に身をさらした。

「リル、降りるぞ!こっちだ」

 そう言ってハートは中にいるリルフィリアに手を差しのべる。

 周囲では、兵士たちの怒号や悲鳴、魔物が唸り声が交錯しており、それを耳にしたリルフィリアはひどく怯えた様子でいた。

「大丈夫!ほら!」

 リルフィリアを安心させようと努めて明るい表情で、ハートがもう一度彼女に手を伸ばす。

「う、うん……」

 リルフィリアが震える手をハートの手に重ね、それを握ったハートは、なるべくゆっくりとリルフィリアを馬車の外へ誘導した。

 馬車から降りた二人。周囲では激しい戦闘が繰り広げられている。

「ああ"──!!」

 耳をつんざく恐ろしい叫び声がして、二人は反射的にその方を振り返る。

 二人の視線の先で、三体の獣の魔物が皆そろってある一ヶ所に頭部を付き合わせている。

 密集する三体の魔物の隙間から、何かが突き出ているのがハートたちの目に見えた。

──それは人間の腕だった。

助けを求めるように空につき出されたその手は、もがくように少し動いたあと、びくびくと痙攣し、ぱたりと倒れた。

「いやっ」 

 目の前で人が魔物に食い殺される瞬間を目撃して、恐怖に駈られたリルフィリアが、ハートにしがみついて肩にその顔をうずめてきた。

「────!」

 ハートも体をこわばらせ、言葉を失った。

「こ、こっちだ……」

 それでも、隣の幼なじみの少女を守りたいその一心から、ハートは動き出した。

 リルフィリアの体に腕を回して、馬車伝いに前方に移動する。

 その途中で、半分から折れた槍──いずれかの兵士のものだったのだろう、持ち主の姿はない──が地面に転がっていたのを見つけ、ハートは空いていた片手でそれを拾いあげた。

 かといって、ハートに剣術やその他の武術の心得はない。ただ心細さから手にしただけだ。

 どこか、逃げられる道は──

 ハートが辺りを見渡すも、魔物は兵士と戦っているものだけでなく、その向こうの森の木々の間にも逃げ道を塞ぐように控えていた。

(あの人──ウィンクルムさんのところに……)

 ハートの頭に浮かんだのは、この騎士団の隊長である女性騎士ウィンクルムであった。

 先ほど接触したのはわずかな間でしかなかったが、その堂々とした佇まいから、きっと彼女は実力のある人物だ。

 そう感じたハートは彼女を頼ろうとその姿を探す。

「────なっ」

 しかし、馬車の側面から前に回りこんだハートたちの目に入ったのは一体の巨大な魔物──雄牛の巨人ミノガントスであった。

「あっ!!」

 巨人の魔物の向こうにある大木の根本に、青の装束に銀の鎧の姿──倒れたウィンクルムが目に入った。

 ウィンクルムはぴくりとも動かない。

「そんな……」

 一縷の望みが絶たれると同時に、目の前にそびえ立つ巨大な魔物に愕然とするハート。

「……オンナノ……コドモ」

 ミノガントスがぎこちない声を発した。

 その眼はリルフィリアを見ていた。

「アトハ……コロス」

 人語を発した魔物に唖然としたハートであったが、その直後、一体の獣の魔物ウルヘルヴが襲いかかってきた。

「──!」

 とっさにハートがリルフィリアを突き飛ばす。

「おわっ!」

 ウルヘルヴに飛びかかられたハートは地面に倒れる。

 とっさに掲げた折れた槍にウルヘルヴの大顎が食らいついている。

「う……ぐっ……」

 地面に仰向けになったハートは両腕で槍を押してウルヘルヴを押し返そうとするも、獰猛なウルヘルヴはハート以上の力でその牙をハートの首もとに伸ばしてくる。

「いっ……あ"っ……」

 歯を食いしばってウルヘルヴに対抗するハート。しかし、だんだん腕が疲れてウルヘルヴに押し負けそうになった。

──このままじゃ……

 ウルヘルヴの大顎から、涎がハートの顔に垂れる。

 先ほどの兵士のように食い殺される──恐怖でハートは総毛立った。

「ハート!」

 ウルヘルヴに襲われているハートのそばでリルフィリアが叫ぶ。

 リルフィリアにはウルヘルヴは近寄って来なかった。

 ウルヘルヴの標的になっているのは兵士やハート、リルフィリア以外のものばかりだ。

 目の前で今にもハートが魔物に殺されそうになっているのを見て、リルフィリアはぎゅっと目を瞑った。

「我──天と人とを繋ぐ者!」

 上ずった声で、早口にリルフィリアは魔法──召喚術を詠唱した。

 リルフィリアの前に、赤く光る魔方陣が現れる。

──ハートを助けて!!

「出でよ炎の使い魔──『イフリート』!」

 リルフィリアの叫びとともに、赤の魔方陣から一体の召喚獣──燃え盛る炎のような体毛を持つ紅の獅子、炎の使い魔『イフリート』が現れた。

 その体はウルヘルヴよりも一回り大きく、魔法力が光の粒子となって体の周りに漂っている。

「ガアッ!!」

 短く咆哮するとイフリートは、ハートを襲っていたウルヘルヴに突進した。

「ギャッ!!」

 イフリートがウルヘルヴの首に喰らいつき、ぶんと首を振ってウルヘルヴをハートの上からはね除けた。

「ガウガウッ!!」

 イフリートに気がついた他のウルヘルヴたちがイフリートに向かってきた。

──カッ!!

 イフリートの口から光が迸ったかと思うと、そこから真っ赤な炎がウルヘルヴめがけて放出された。

「ガアアアアッ!!」

 燃え盛る炎に正面から呑まれたウルヘルヴが悲鳴を上げて塵となって燃え尽きる。

 それは火炎系の大魔法に匹敵する強大な火力だった。

  

 

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