応戦─ウィンクルムvsミノガントス
息抜きで書いてるやつのほうが本命より食い付きがいい……泣
ミノガントスの雄叫びと同時に、ウルヘルヴの大群がウィンクルムたちに襲いかかった。
「──馬から降りろっ!!」
俊敏な獣の魔物相手に、騎馬のままでは戦えないと判断したウィンクルムは部下たちに叫んだ。
ガウッ!!
数体のウルヘルヴがウィンクルムめがけて一斉に飛びかかってきた。
「──っ!!」
半ば地面に倒れこむ形でウィンクルムは馬から飛び降りる。
次の瞬間、ウルヘルヴの群れがウィンクルムの馬を襲い、その喉元や脚に牙を剥いた。
何体ものウルヘルヴに組み付かれた馬は地面に倒され、悲痛な断末魔の悲鳴をあげてウルヘルヴの餌食になった。
「うわぁっ!」
後ろで部下の悲鳴が聞こえ、ウィンクルムが振り返る。
同様にウルヘルヴの群れに襲われ、下馬するのが遅れた部下の一人が地面に倒れ、ウルヘルヴが彼に食らいつこうとしていた。
「はあっ!」
気合いとともに、ウィンクルムは鞘から抜いた剣を一閃させた。
バシュッ!
ウィンクルムの一撃がウルヘルヴの胴体を切断した。
──それは魔法力を用いた一撃だった。
ウィンクルムは特別、筋骨隆々の戦士というわけではない。むしろ二十歳の女性としては骨格も筋肉も華奢なほうだ。
そんな彼女が魔物の胴体を真っ二つにする剣撃を見せたのは、彼女が持つ魔法力によるものだ。
人間はだれもが大なり小なりの魔法力を体に秘めている。
その魔法力を魔術の構造式によって、各種の魔法術──火炎魔法や水魔法──に変換するのが魔術師だ。
一方で、魔法力を身体能力の増強に変換できる人間もいる。
それがウィンクルムやほかの騎士団の兵士で、彼女らが魔法力で強化した肉体は、単に筋肉を鍛えた肉体よりも頑強であり、また大きな腕力や脚力、膂力を発揮する。
ウィンクルムとその部下たち──王国騎士団は、その差はあれども魔法力を身体的な戦闘力に変換する能力を有する者たちで構成される戦士たちの集団だった。
「馬車を守れっ!」
ウィンクルムは倒れた部下の腕を掴み強引に彼を引き起こす。
「はっ!」
馬車のほうに駆けていった部下を背にウィンクルムは前方にそびえ立つミノガントスと対峙した。
──こいつを先に殺る。
ウィンクルムは狙いをミノガントスに定めた。
背後で応戦する部下たちの果敢な声とウルヘルヴの獰猛な唸り声が響く。
部下たちを助けに行きたい気持ちがあるが、この怪物を背にして自由に動くことは叶わないだろう。
隊長である自分が倒す──ミノガントスの巨体を前に、ウィンクルムの双眸が、殺意で冷たく据わる。
「盛れ聖炎──」
詠唱とともにウィンクルムが握る剣に、赤い魔法陣が現れる。
ウィンクルムの魔法力が、激しい火炎となってその剣の刀身を包んだ。
ウィンクルムのもうひとつの能力──ウィンクルムが女性でありながら、しかも若くして騎士団の一隊を預かる長として任命されているのは、単に魔法力を使った身体的な強さだけでなく、魔法力を──しかも一般的な兵士よりも多くの量の魔法力を体に秘めている──魔術師のように魔法として扱う能力もまた備えているからであった。
魔法剣士とも呼ばれる力──炎を纏った剣を手に、ウィンクルムが魔法力で強化した脚力で地面を蹴る。
一撃で、即仕留める──強大だと分かりきった敵に、力を小出しにするのは愚かな行為とウィンクルムは瞬時に決断した。
剣を包む炎がさらに渦を巻いて大きく燃え盛る。
『バーン=イノセイド』!
高く飛び上がったウィンクルムは、ミノガントスの頭上で、燃え盛る剣を振り下ろした。
ウィンクルム最大の大技──凄まじい炎が、振るわれた剣から閃光の斬撃となってミノガントスへ迸る。
ゴオオオオッ!!
激しい閃熱がミノガントスを包み、大火となって燃え上がった。
「ウオオオオッ!!」
ミノガントスが叫び声をあげる。
(よしっ!)
燃えるミノガントスを飛び越えて向こう側へと着地したウィンクルムが、ミノガントスの方を振り返った。
手応えはあった。ウィンクルムが苦悶の咆哮を響かせるミノガントスの姿を見ていた、その時だった。
「オオオオオッ」
炎に巻かれながら、ミノガントスが体を回転させるような動きを見せた。
──なにっ!
異変を察知するウィンクルム。
しかし次の瞬間、体をぐるりと旋回させたミノガントスが、火炎に全身を包まれたまま、その回転に乗せて両手に握る大斧をウィンクルムめがけて繰り出してきた。
「──ッ!!!」
はっとするウィンクルム。
しかし、回避する間もなく、遠心力を乗せた大斧の巨大な刃は、唸りをあげて凄まじいスピードでウィンクルムへと迫った。
──死ぬ。
無意識に、ウィンクルムは剣を自身の体の前に盾のように出していた。
キッ。
ミノガントスの大斧が地面をえぐり、衝撃波が走る。
ウィンクルムの体は、大斧と剣が一瞬接触した刹那、目に留まらない加速度で吹き飛ばされていた。
ドッ!
「──かはっ」
後方に吹き飛んだウィンクルムの体は、その先にあった大木の幹に叩きつけられた。
ウィンクルムは何が起きたかわからなかった。
体が痛みを理解することすらない──大きな音と体が何かにぶつかったのだけを感じ、視界が暗くなる。
ぼやける視界の先で、ウィンクルムの炎をかき消したミノガントスが、健在な姿で歩き始めた。
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