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エピローグ

 武帝さんを倒した弟子達に、気配隠蔽を切って話しかけます。

 パチパチと手を叩く音に反応し、皆さんがこちらを凝視しました。


「勝利、おめでとうございます」

「! 居たのですか、師匠」

「ええ、途中から」


 手を叩くのを止めて頷きました。


「……僕達は、勝ったんですね?」

「その通りです」


 未だ実感が湧かない様子でしたので、私の口からそう告げました。

 緊張状態を継続していた皆さんは、その言葉を聞いて全身から糸が切れたように脱力します。

 武帝さんの死に確信が持て、ようやく人心地つけたようです。


「皆さんお疲れ様でした。ですが、これは始まりです。本当に大切なのはこれからだということを忘れてはなりませんよ」

「はい、もちろんです。帝国を民が安心して暮らせる国にするために、気を抜いてなどいられません」


 ヴェルスさんは力強く答えました。

 戦闘を終えたばかりですが、他の皆さんもまだまだ活力に満ちているようです。

 私達は《大型迷宮》を出て帝王御殿に向かい、帝国の改革に取り掛かったのでした。




「北方の鎮圧は完了しました、ヴェルスタッド陛下」

「ありが、んんっ。……大儀であった。しばし(いとま)を取るがいい、次の任は追って指示する」


 あの日から半年が経ちました。

 新生騎士団を率いて北方制定に動いていたネラルさんが、ヴェルスさんの言葉を受けて謁見室を後にします。


「ふぅ、これで少しは落ち着いてくれるといいのですが……」

「ヴェルスさんに恭順する貴族の方も随分と増えて来ましたし、一段落すると思いますよ」


 当然ながら、武帝さんがいなくなったことで帝国内には混乱が広がりました。

 武帝さんの死にこれ幸いと王座や《大型迷宮》を狙う者達。

 《迷宮》や《職業》を一般に開放するというポリシーが相容れない者達。


 理由は様々ありますが、ヴェルスさんを次期帝王と認めない者は数多く、各地で謀反が起こりました。

 しかしそれも今は昔。

 今では反乱も下火になりつつあります。


「はぁ、北の方にも無かったのぉ」

「おや、無駄足でしたか。残念ですね、ドリスさん」


 項垂れつつ入って来たのは元竜王の少女、ドリスさんです。

 鎮圧部隊に同行し、前世の故郷がないか探しに行ったのですが、今回も空振りだったようです。

 ヴェルスさんの即位以来、帝都に来て書物を漁ったり、各地の遠征に付いて行ったりしていましたが、今に至るまでヒントすらも見つかっていません。


「うぅむ、この国にはないのじゃろうか」

「かもしれませんね。この帝国は島国(しまぐに)ですし、海の向こうにも目を向けるべきかもしれません」

「海の向こうにも国がある、と記された文献はいくつか見ましたがあれは真実なのですか?」


 ヴェルスさんに訊ねられます。


「そうですね。直にこの目で確認したわけではありませんが、恐らく本当ですよ。帝国中を探して『伝承の地』が見つからないのであれば、残るのは他の大陸です」

「そうなのですか……?」

「ほほぉう。……まあ、よい。ワシは少し疲れた。《製薬術》の練習がてら羽を休めるとしよう。海の向こうを調べるのはそれからじゃ」

「それが良いでしょう。海にも魔物はいるので渡航は困難ですし、方角もまだわかりませんからね」


 そう言って退室した彼女と入れ替わりに、二人分の気配がやって来ます。

 その内の一つは帝王御殿で働いている騎士さんです。


「申し上げます、陛下。高位貴族イスティア様の使者の方がお見えになりました」

「そうか、入ってよい」

「はっ、失礼します」


 武帝さんが亡くなったことを知り、冷静な貴族達が取った行動は静観です。

 ヴェルスさんが実力の関係ない手段で先王を殺したのならば王位を手にする好機ですが、実力で破ったのなら逆らうのは下策。

 そこで他の貴族をぶつけて様子を見ようと考えたのです。


 結果はヴェルスさん側の圧勝。

 雨後の(たけのこ)の如く現れる反乱貴族を、宣戦布告された傍から少数の配下を送り込み、あっという間に打倒していました。

 それを見て多くの貴族が軍門に下ったのですが、今回使者を送ってくださったイスティアさんもそういった貴族の一人です。


 使者さんは謁見室に入り、そして長い挨拶を挟んでから本題に入ります。


「──ということがありまして、海の向こうから人間が流れ着いたのです」

「何だって?」


 ヴェルスさんが思わず聴き返します。


「損傷が激しかったものの見たこともないほど大きな船舶に乗っており、聞いたこともない言葉を話しておりました。恐らくは()つ国の者達と見て間違いない、とイスティア様は仰っております」

「……その者達は今、どうしている?」

「イスティア様が客人として(はなれ)に招きました。酷く衰弱していたのもあるのでしょうが、(わたくし)が領都を発った頃は大人しく静養しておりました」

「なるほど……」


 ヴェルスさんは少し考え込みます。

 ただ、この状況は渡りに船なので意見させてもらいます。


「その方々のことは私に任せていただけないでしょうか。私ならば《スキル》の効果で言葉が通じずとも意思疎通は図りやすいです」

「……そう、だな。ではヤマヒト、この件は任せた」

「承知しました。ドリスさんも興味を持つと思うので出発は明日になるかと。それから──」

「もしかすると海の向こうに渡るかもしれない、か?」

「──はい。場合によってはこの国を去ることもあり得るかと」

「構わない。元より、政務はヤマヒト抜きでも回るよう調節していたからな。……本当に、これまでお世話になりました、師匠」


 最後にそっと、私にだけ聞こえる声量でヴェルスさんが言いました。

 私は一つ頷きを返すと、謁見室から出て行きます。


 ……思えば、ヴェルスさん達と山賊さん達の戦いに割って入ってから一年が経っていました。

 あの頃はまだ実力に不安もあったヴェルスさん達も、今では立派に成長しています。

 未だ国内の課題は山積みですが、これからは私がおらずとも大丈夫だと確信を持てました。


 一年も共に居た彼らと離れることに若干の寂しさを覚えつつも、私は旅立ちのための一歩を踏み出したのでした。

 ここまでお読みくださりありがとうございました。

 これにて本作は完結となります。

 約四か月間、お付き合いくださり本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少し惜しいですが、武帝は倒したし、切りのいい終わりですね…連載、お疲れ様でした!
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