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49.帰郷

 《中型迷宮》を攻略して得た素材により、ヴェルスさんの《装備品》は新調されています。

 鍛冶師長達が新しく作ってくださったそれらは最低でも《ランク4》、革鎧に至っては《ランク6》となっています。


===============

《戮牛の黒皮甲》ランク6:装備者の敏捷性を引き上げる。装備者の攻撃力を増幅する。他者を殺害した時、装備者の攻撃力を引き上げる(三度まで重複可)。

 損傷を自動修復する。耐久力上昇。耐火性上昇。

===============


 陽光を照り返す黒い革鎧が、襟首から足下までを覆っています。


 主な素材は《中型迷宮》の最終守護者からドロップした重厚かつ堅固な牛革。

 また、ゴーレムから稀に落ちる魔鉱物や、ゾンビの落とす武器片を鋳潰して作った怨鉄(えんてつ)を部分的に用いることで強度を底上げしています。

 関節部等の動きを阻害しないよう計算された設計となっており、職人さん達の苦労が窺えました。


 《装備効果》も優秀で、接近戦で重要となる《攻撃力》と《敏捷性》の強化に特化しています。

 《スキル》と《スキル》外の加工技術が合わさることで、鎧自体の強度は鋼鉄をも凌ぎ、重量も鉄鎧より軽くなりました。

 《錬金術》による《付加》も施されており、見た目だけでなく性能も第一級の《装備品》です。


「さて、旅を再開しましょうか」

「はい!」


 必要な素材を剥ぎ取っていたヴェルスさんから元気のいい返事がありました。

 目的地まではもうすぐです。




「ここが、ナイディンの故郷……」

「さすがは《中型迷宮》のある町と言ったところでしょうか、発展していますね」


 今居るのはバラッド領の領都ハルイアです。

 城壁と堀で囲われたこの町は、この世界で見て来たどの町よりも発展していました。

 大きな建物も多く、道は整備・清掃が行き届いており歩きやすいです。


 人口も多く通りを町人や商人がひっきりなしに行き交います。

 雰囲気の明るさでは現在のポイルス領領都に分がありますが、活気では負けていません。

 ユウグを厩舎(きゅうしゃ)に預けた私達は、早速領主の屋敷を目指します。


「屋敷までは距離がありますので乗合馬車を使いましょう」


 勝手知ったる地元だからでしょう。

 ナイディンさんが率先して道案内をして下さいます。

 彼が最期に訪れた時より町の様子はそれなりに変わっているようですが、基本的な部分はそのままらしく、特に迷うことはありませんでした。


「三人です。こちら、乗車賃になります」

「おう、毎度! ……って、これじゃ足りねぇよ」

「なんと」


 乗合馬車が若干値上がりしていたことは知らなかったようですが。


「歩くより早く、疲れず移動できるのはいいですね。僕達の町はそこまでするほどの広さはありませんが……l

「そうですね。面積も人口も一定以上なくては赤字事業となってしまいますから」

「ヴェルス様やヤマヒト殿の尽力で町は急速に発展しております。実現する日もそう遠くはないでしょうな」


 そんなこんなで馬車に揺られること数十分、屋敷から少し離れた停留所で下車しました。

 少し離れた、と言ってもここが最寄りの停留所なのですが。

 一般人が屋敷を訪れることはありませんし、商人や貴族などの屋敷を訪ねる人間は自前の馬車を使うため、屋敷の近くまでは行かないのです。


 そのため、徒歩での移動を始めたその時でした。


「え、嘘、ナイディン……?」

「! その声は……」


 武装して馬に乗っている、騎士と思しき女性から声を掛けられました。

 彼女は馬から降りて駆け寄ってきます。


「やっぱり! 生きてたのね!? 良かったぁ!」

「あ、ああ、久しぶりだな、ナタリー」

「久しぶりだな、じゃないわよっ。今までどこで何してたの? 連絡くらい寄こしなさいよっ」


 ナタリーと呼ばれた女性は、ナイディンさんの頭を叩くように腕を振るいますが、彼は背をのけ反らせて躱します。


「相っ変わらず気味悪いくらい鋭いわね。これでも最終守護者討伐隊に選ばれてるんだけど」

「以前会ったのは十年以上も前だろう。その間、拙者も成長している」


 それからナタリーさんは私達を見て問いかけました。


「それで、こちらの二人はどちら様?」

「そのことについては屋敷で話す。兄上が領主になっているそうだが、今から会えるだろうか」

「当然よ! あんたが賊に殺されたって聞かされてパルド様すっごい落ち込んでたんだから。きっと喜んでくれるわよ」


 そうして彼女に先導され、領主の屋敷にやって来ました。

 二人の騎士が見張りに付いている立派な門を、ナタリーさんの顔パスで通過します。

 それから敷地内をそこそこ歩き、ようやく着いた玄関で靴を脱ぎ、屋敷に上がらせてもらいます。


「この時間なら書斎におられるはずよ」


 それからも板張りの廊下をしばらく進み、目的の書斎に着きました。

 入室の許可を得たナタリーさんが扉を引き、その後に続いて私達も入りました。


「帰ったか。村の様子はどう──っ!?」


 書類に目を通していた領主パルドさんが顔を上げ、途端に目を皿のように見開き絶句しました。

 わなわなと口を震わせ言葉を紡げずいる彼に先んじて、ナイディンさんが口を開きます。


「お久しぶりでございます、兄上」

「……あぁ、ああっ、よくぞ生きて帰った、ナイディン!」


 緩慢な動作で立ち上がったパルドさんが、ガシッと力強く抱きしめました。

 ヴェルスさんの父親、ギルレイスさんが無くなられてから十数年ぶりの再会です。

 死んだと聞かされていたようですし、残された家族の思いは想像するに余りあります。


 それからしばらくして気持ちを落ち着かせ、互いの情報を交換することになりました。

 まずは自己紹介です。


「最初は情報量の少ない私から行きましょう。こちらのヴェルスさんに剣技を教えたりしているヤマヒトと申します。今後ともよろしくお願いいたします」

「うむ、よろしく。それで、そちらのでない気配を放つ青年は何者なのだ?」


 パルドさんも武人と言うことでしょう。

 《潜伏》で隠しているにもかかわらず、ヴェルスさんの強さを看破したようでした。


「僕はボイスナー領の領主を務めているヴェルスと言います」

「ボイスナー、ボイスナー……ああ、たしか西の方の領地だったか?」

「そうです。それから僕は武帝の配下に殺されたギルレイス・トゥーティレイクの息子、ヴェルスタッド・トゥーティレイクでもあります」


 それを聞いたパルドさんは目を皿のように見開き絶句しました。

 本日二度目です。

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