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43.氷の世界

 《中型迷宮》に挑み始めてから今日で三日目。

 昨日、一日かけて第十階層まで進み区間守護者を倒し、今日からは第十一階層です。

 泊まらせていただいている村長宅を出て、《中型迷宮》のある小屋へ向かいます。


「ようヤマヒトさん、この前はあんがとな! 教えてくれた通りにやったら剣がもっと素早く振れるようになったぜ」

「それは良かったです。ただ、少し前のめりになり過ぎているので間合いを意識することをお勧めします」


 実は、隠れ村の狩人さん達にも何度か指導をしていました。

 多少助言した程度で弟子と呼べるような関係ではありませんが、お陰で顔は知られています。

 そんな彼らとすれ違ったりしつつ《中型迷宮》に着きました。


「目標は明日の昼までに第十四階層だったよな?」

「うん。ナイディンが来る頃には同じとこまで進んでおきたいからね」

「敵もちょいと歯応え出てきたし気張らねぇとな」


 ナイディンさんは二週間ほど前に一度《中型迷宮》を訪れ、第十四階層まで到達しています。

 今は仕事で領都に戻っていますが、明日にはこちらに合流して《迷宮》攻略に参加する予定です。


 《迷宮》攻略のために用意できた期間は一週間。

 四日目にナイディンさんと第十五階層の区間守護者を倒し、残りの期間で《レベル》を上げつつ最終守護者のいる第二十階層を目指す予定です。

 七日目には帰らなくてはならない関係上、あまり余裕のある日取りではありません。


「この階層の魔物の《レベル》はいくつくらいだったかしら?」

「三十一以上、四十二以下」

「よく覚えてんな」

「計算しただけ」


 《迷宮》に出現する魔物の《レベル》は階層数で決まっており、階層数が一つ増すと下限が一つ、上限が二つ上がります。

 なので《中型迷宮》における魔物の《レベル》帯は『20 +(階層数) =< 魔物の《レベル》 =< 20 + (階層数 × 2)』で求められます。


「やっぱり格上も出るよね、集中しないと」

「その方が《レベル》は上げやすいけどな」

「厳しそうなら、言って。〈魔術〉で援護する」


 ヴェルスさん達の今の《レベル》は四十弱。

 《レベル》だけなら同等以上の魔物も稀に現れ始めます。


「と、ここが十一番目か」

「今いるのが第何層の踊り場かわからないのは不便ね、立札なんかが欲しくなるわ」

「たしかにあったら便利だけど、《迷宮》に物()いとくと吸収されるから難しいね」

「その辺はもう扉からの景色で判別するしかないんじゃねぇの? というかさっむ!」

「寒冷耐性の指輪を買っておいてよかったよ」


 第十一階層は氷の世界でした。

 階層の中心には荘厳な氷の城が(そび)え、そこから放射状に城下町が広がっています。

 地面は凍土、建物は全て氷製で、ある(しゅ)神秘的な雰囲気を纏っていました。


「《階層石》はあちらに一キロほど行ったところですね」

「了しょ、きゃっ」

「おっと、滑りやすいから気を付けてね」

「……不覚」


 氷の張った箇所を踏み、転びかけたアーラさんをヴェルスさんが支えました。

 《防御力》は高さに応じて摩擦の補正も(おこな)ってくれるのですが、アーラさんは《防御力》が低めです。

 加えて、弟子達のような体幹もないため、氷上を歩くと滑ってしまいます。


「敵が来てるな。数は三体、あっちの脇道からだ」


 ロンさんの警告で全員の意識がそちらへ向きました。

 周囲の地形を確認しつつ、武器を構えて慎重に近づき、相手の出現を待ちます。


「「「オウゥゥウゥ……」」」


 現れたのはすこぶる血色の悪い人間、ではなくゾンビです。

 白目、汚れた衣服、腐敗した肉体と、映画から飛び出したみたいにポピュラーな見た目のゾンビで、人間と見間違える余地はありません。

 ヴェルスさん達は戦闘を開始します。


「「「ヴォァァァ……!」」」


 それまでの鈍重な足取りから一転、素早く接近してきます。

 彼らが手にするのは鍔が頭蓋骨になっている剣や、石突が眼球になっている槍など。

 それらおどろおどろしい武器でヴェルスさん達と打ち合います。


「《レベル》は若干負けていますね」

「でも、押してる」

「ええ」


 今回は上振れを引いたらしく、魔物の《レベル》はどれも四十越えでした。

 が、言うまでもなくこの条件なら負けません。


 剣戟の中で相手の体勢を崩し、そこで頭を攻撃することでたちまち殲滅してしまいました。

 ちなみに、ゾンビの《魔核》は脳内にあります。


「こんくらいなら問題ねぇな」


 《ドロップアイテム》を拾いつつロンさんが言いました。

 彼の言葉の通り、その後の戦闘でも特に苦戦はしませんでした。

 アーラさんが手を出すまでもありません。




 弟子達が私より明確に優れている点は、力量が近しく競い合える仲間が居るところです。

 力と技で叩き斬るしかない私とは、そこが違います。

 視線、呼吸、僅かな挙動から相手の次の手を読んだり、敢えて隙を見せることで相手の攻撃を誘ったりといった駆け引きの(すべ)を、仲間と鎬を削り合う中で培っています。


 そのため彼らは人型で、しかも武器を扱う相手とは相性がいいのです。

 今更単調な動作しかできない《迷宮》の魔物に後れを取ることはありません。

 ゾンビ達にはあまり特殊な《スキル》も備わっていませんしね。


「よし、第十三階層も後は帰るだけだ!」

「今日はこのくらいにしておこうか」

「そうね。さすがに少し疲れて来たわ」

「了承。〈魔術〉の使用頻度、増やす」

「頼むぜ」


 城壁の上にあった《階層石》に魔力を込め、ヴェルスさん達は出口を目指します。

 皆さんはまだ《レベル44》ほどであり粘ればもう少し《レベル》上げができますが、無理は禁物です。

 消耗しての戦闘は不意なトラブルの元ですからね。


 限界状態で戦う練習も必要でしょうが、それをすべきは今ではありません。


「にしても、めっちゃ冷えてきたな。特に武器」

「《炎護の指輪》の寒冷耐性があるとはいえ金属は冷えやすいですからね」

「早く第十五階層の区間守護者をぶっ飛ばして次の環境に行きてぇな」


 ちなみに、この第十三階層も氷の都市とゾンビのエリアです。

 《迷宮》の環境は区間守護者が現れる五階層ごとに変更されるため、それまでは同じような階層が続くのです。

 出て来る魔物も《レベル》と《スキルレベル》を除いて同一であり、同じ対策が通用するのは挑戦者にとっては楽でしょう。


「師匠、少しよろしいでしょうか」

「どうしましたか?」

「明日、第十四階層を攻略してからナイディンが来るまでの間に少し稽古をつけていただきたいのですが……」

「構いませんよ。特にやることもありませんしね」

「あ、じゃあ俺も」

「私もご一緒していいかしら」

「構いませんよ。どうせなら三人で連携の練習もしてしまいましょう」


 そんな会話をしつつ、しかし誰も警戒は絶やさず。

 出口を目指して歩いて行きました。

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