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41.和解

「山道を塞いでるんだ、いつかこの村の存在が露呈するのは分かっている。だったらいっそのこと、村を救ってくれたヴェルスさんに協力しよう、という結論になった」


 カラスの大群を撃退し、諸々の後処理を終えた後。

 これからどうするかについて村の責任者達で話し合い、ネラルさんが代表して教えてくださいました。


「ありがとうございます!」

「ただし、それはそちらの言ってたことが真実なのか確かめてからだ。おい、シーケン!」

「はいはい、何だい?」

「俺とシーケンが旅に付いて行く。そして領都で平民にも《職業》が与えられているのかを確かめる。口裏合わせする暇が無いよう見張るからそのつもりでな」


 厳しい顔でそう言われましたが、私達に物怖じする理由はありません。

 既に大多数の狩人や生産魔術師──《鍛冶術》や《錬金術》、《製薬術》等の《生産系魔術スキル》を扱う人を指します──が《職業》を得ているのですから。


 さて、そんなわけで二名の同行が決まり、彼らの旅支度が整うのを待ちます。

 次の村はそこそこ近場にあるため、今から出れば日暮には充分間に合うのです。


 そんな私達ですが実はもう一つ、この村でするべきことがあります。


「あれと米俵、交換」


 アーラさんが米俵を抱え、村長と交渉しています。

 彼女が指さしているのはモコモコとした白い毛布。

 見るからに暖かそうなそれは、寒さを凌ぐためのキーアイテムです。


 《迷宮》の羊魔物の《ドロップアイテム》から作られており、非常に高い防寒性を誇ります。

 《錬金術》によって毛布自体に発熱機能も《付加》されているので、これさえあれば真冬でも安心です。


「こ、こんなに良いのですか!? どうぞ何枚でも持って行ってくだされ!」


 ただ、米俵を渡すのは過剰だったため、村人達には恐縮されていました。

 元々配る予定だった量より多めに渡したのですが、やり過ぎだったのかもしれません。


 何はともあれ、彼女は毛布を人数分もらって来てくださり、残りの旅路の過酷さが緩和されました。

 ネラルさん達の支度も終わり、出発の時間となります。


「留守は頼んだぞ」


 ネラルさんが部下達にそう言い残し、後続の馬車へと乗り込みました。

 鑑定使いのシーケンさんも一緒です。


「では、出発進行です」


 山道を降りるべく、牛車が動き出しました。




 隠れ村を出てから二日後の夕方。

 私達は領都へ帰って来ました。


「町だけあって活気があるな」


 町の様子を目にしたネラルさんが呟きました。

 彼の言葉の通り、夕暮れ時にもかかわらず仕事をしている町人の数は多いです。

 けれどその表情は明るく、私達が初めて訪れた時とは比べ物にならない程に活気がありました。


 その理由の一端は、外から来た商人が増えていることです。

 税の引き下げ、《迷宮》素材の流通量増加といった情報を、商人長と懇意にしている行商を通じて流してもらっていました。

 その甲斐あって耳の速い商人達が領都に集まっているのが現状です。


「長い間ありがとうございました」


 ヴェルスさんが、同行してくださった御者の方々にお礼を言います。

 この牛車以外は借り物なので街の入口でお別れなのです。

 ネラルさんやシーケンさんがこちらの馬車に乗っているのもそのためでした。


 御者さん達と別れてからもうしばらく牛車で進み、屋敷に到着しました。

 その気配を鋭敏に察知したのか、ナイディンさんが物凄い勢いで正門まで飛んで来ます。


「ヴェルス殿ぉ! お帰りになられましたか!」

「ああ、今帰ったよ。早速で悪いんだけど狩人長を呼んで来てくれないか」

「? 仰せとあらば、すぐにでも」


 言って、ナイディンさんは屋敷の中庭、《小型迷宮》のある方へ向かいました。

 そして約一分後、狩人長を連れて戻って来ます。


「俺に用があるらしいがどうしたんだ?」

「……あなたは、狩人なのか?」


 ネラルさんが藪から棒に問いかけました。


「ん? そうだが、あんたら誰だ?」

「俺はとある村で狩人長をしている者だ。それより、この町では誰でも《職業》を得られるというのは本当か?」

「あぁその口か。本当だぜ、こっちのナイディンさんに言えば《職業》を取らせてくれるぞ。あんたらみたいなのがもう何人も他所の村から訪ねて来てる」


 ヴェルスさんの布教の成果ですね。

 他の村、特に近場にあって日帰りができる村の者達は、それなりの人数が町に来ていました。


「そう、なのか。疑うようで悪いんだが、確認のため鑑定させてもらえないだろうか」

「……まあいいが、俺の《ステータス》言いふらさないでくれよ?」

「もちろんだ。シーケン」

「失礼するわ」


 一言断りを入れて、シーケンさんが鑑定を発動させました。


「……確かに、この人は《職業》を持ってるわ」


 今鑑定した、という雰囲気で話すシーケンさん。

 ですが、彼女は狩人長が現れた時に一度鑑定していたので、事前に結果は分かっていました。

 もっと言うと、屋敷に来るまでにすれ違った町民のことも鑑定しており、その中にも何人か《職業》持ちの町人が居たので、狩人長を鑑定するまでもなく結果は予想できていたようです。


 無断での鑑定はマナー違反とはいえ、隠れ村組にとって領都は敵地ですし警戒は緩められないでしょう、と敢えて指摘はしませんでしたが。


「わかった、いえ、分かりました。私達はヴェルス様に協力いたします。我が村の《迷宮》も好きにお使いください。……そして、これまでの数々の非礼をお詫び申し上げます。これからはヴェルス様のため尽力させていただきます」


 ともあれ、ネラルさんは私達を信じてくださるようです。

 安堵した様子のヴェルスさんは、状況がよく分かっていない狩人長達に事情を話し始めるのでした。




 隠れ村の協力を取り付けてから三週間が過ぎました。

 十一月も下旬に入り、冬の寒さが日に日に鋭さを増しています。

 その間、筆舌に尽くしがたいほど多忙な日々を送ってきました、主にヴェルスさんが。


 《職業》を取得し、せっかくだからと《小型迷宮》に挑むネラルさん達の陰で、ヴェルスさんは領都の内外の問題解決に追われていました。

 村回りを始める前に当面の仕事は一段落させたのですが、全てが綺麗さっぱり片付いたわけではありません。

 また、村回りの最中にも新たな問題は湧いて出るため、一日二日では全く終わりませんでした。


 村回りで聞いた情報から魔物の多い地域を選出し、お金を払って狩人達を雇い、魔物間引き隊第二陣を派遣したり。

 整備の甘かった街道の中でも、重要度や緊急度の高い場所を改善するため工事の依頼を出したり。

 町外の工事では魔物の危険があるので、これまた狩人を雇って護衛に付かせたり。

 商人達の間で起こったトラブルを仲裁したり。

 収穫量が異様に多かった村へ行き、豊作の要因である《製薬術》製肥料のレシピを聞き出し、他の製薬師に配布したり。

 あまりの忙しさに堪らず文官を募集するも商人を引退したご隠居一人しか現れなかったり。

 治癒魔術師達を集めて治療院を作り、領から固定給を払う代わりに格安で治療を施させたり。

 体が鈍らないよう朝夕には私と模擬戦をしたり。

 度々訪れるポイルス氏と親交のあった商人の相手をしたり。

 毎日毎日クタクタになるまで働いていました。


 そんな諸問題への対処を終えて遂に、ヴェルスさんは《中型迷宮》へ挑戦するだけの時間的余裕を手に入れました。

 留守の間は、元商人のご隠居に仕事を任せています。


「少し、眠らせて、ください……」


 体力的余裕がなく眠ってしまったヴェルスさんを連れて、隠れ村行きの馬車は動き出しました。

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