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34.レギオン

 昨日は第六階層まで攻略しました。

 今日は朝から第七階層に挑み、そして現在、私達は第九階層手前の踊り場に居ます。


「これから第九階層に挑むわけですが、その前に一つ伝えておくことがあります」


 人差し指を立てて言いました。


「この階層にはレギオンがいます。皆さんで協力してそれを倒してください」

「レギオン……?」


 誰からとなく疑問の声が上がります。

 《迷宮》関連の知識は貴族が独占しているため、こういった質問が出ることは想定済みでした。

 そもそも私もナイディンさんに教えてもらうまでは知りませんでしたしね。


 昨日(おこな)ったリハーサル通りに説明していきます。


「レギオンとは《迷宮》魔物の大規模な群れのことです。以前話したように《迷宮》の魔物は原則、六体以上の群れにはなりませんが、レギオンは例外です。強力なリーダー格の魔物を中心として、複数の群れが併合され大きな一つの群れとなります」


 声量、発音、抑揚、テンポ。

 全て練習通り最適なもので、狩人さん達の意識をしっかりと引き付けられています。

 そのことをセリフの切れ目に確認し、話を続けます。


「群れの個体数は少なくとも二十、多ければ百体にも上ります。今回のレギオンは全部で八十九体です」


 皆さんの雰囲気が張り詰めました。

 約九十体の魔物の群れなど自然界では滅多に現れません。

 ベテランの狩人でも恐らく見たことは無いでしょう。


「さらにこれらの魔物全てが、リーダーの指揮下で連携を取ってきます。ただの烏合の衆ではなく統率の取れた一個の軍団です。とはいえ指揮官はリーダーの一体のみ。その魔物を倒せば連携は瓦解します」


 もちろんリーダーを倒すのは容易ではありませんが、と付け加えます。


「以上を踏まえて皆さんでレギオンを撃退してください。作戦などはお任せします」


 そう言うと皆さんは顔を見合わせ、ぽつぽつと話し始めました。

 少しして、会話の中心だった狩人長さんが質問してきます。


「なあ、もしヤバくなったら師匠が助けに入ってくれるんだよな?」

「ええ、それはもちろん」

「分かった。なら俺らも力を尽くそう」


 その後もしばし会議をし、そして第九階層へと突入しました。

 踊り場の扉を抜けると、そこには荒廃した町が広がっています。


「なーんど見ても薄気味悪いっすねぇー」


 狩人さんの一人がぶるりと体を震わせました。

 彼の言うように、この階層の景色には何だか寒々しいものがありました。

 整然と立ち並ぶ石造りの建物群が、ゴーストタウンの如き空虚さを醸し出しているのです。


「レギオンはあちらの方角ですよ。この大通りを直進して五つ目の角を曲がれば接触できますよ」

「わかりました、師匠。いいかお前ら、作戦通り《潜伏》を使いつつ接近だ」


 班ごとに固まって、狩人さん達は進行を始めました。


「私の元で修行したまず間違いなく勝てます、存分に力を揮ってください」


 最後にそう言い残し、私を地面を蹴ります。

 尋常でない速度で景色が流れ、そしてゴーストタウンの中心にそびえる塔の頂上へと降り立ちました。

 今日はここから狩人さん達とレギオンの戦いを観察します。


「早速接敵しましたね」


 私の見下ろす先では〈魔術〉や〈弓術〉を扱える狩人さん達が一斉攻撃を仕掛けていました。

 それを受けるのは人型の石像、ゴーレムの兵隊達です。


 成人男性ほどの大きさをしたゴーレム達は、腕の先端がそれぞれ特定の武器に変形しており、中には盾になっている者もいます。

 防御に秀でた盾ゴーレムの背に隠れることで、ゴーレム達は〈術技〉の急襲を耐え凌ぎました。


 この連携を指示したのは軍団の中央にいる《アイアンゴーレムコマンダー》です。

 他の岩石製ゴーレムと異なり、体が鋼鉄で出来ているこの個体がレギオンを率いるリーダー格です。

 盾ゴーレムによる守備陣形が完成すると、レギオンは進軍を始めました。


 リーダー自身は体育祭の騎馬戦でそうするように、部下三体を馬としてその上に乗っています。

 遠くを見渡しやすくするためです。

 右手の盾を前に構え、防御態勢も完璧です。


「よしッ、退け!」


 対して狩人さん達は後退を選びます。

 開幕の猛攻で全体的に損害を与えられましたが、ゴーレムの《防御力》は高く、倒せたのは十体に満たないのです。

 防御陣形が完成した後はさらにダメージ効率が落ちており、このまま撃ち続けても倒すより先に接近されるため、妥当な選択と言えるでしょう。


「「「ゴゥゥゥゥゥウッ」」」


 低い駆動音を響かせながらゴーレム達は追いかけます。

 《敏捷性》で劣るためなかなか距離は縮まりませんが、疲労をしないゴーレム達がいずれは追いつくことでしょう。

 ──このまま何事もなければ、の話ですが。


「〈エクスプロージョンストライク〉」

「〈アルカナアロー〉ッ」


 通りを進むレギオンの中央部にて手下達の上に乗るリーダー個体。

 そのリーダーの頭部目掛けて左右から攻撃が飛来しました。

 建物の陰に潜んでいた精鋭狩人さん達の狙撃です。


「ギギィィ!?」


 寸前で攻撃の気配を捉えたリーダーは、転げ落ちるようにして攻撃を回避しました。

 落ちた先にいたゴーレムが、鋼鉄製のリーダーの重量に潰され倒れてしまいます。

 と、同時に逃げていた狩人さん達が一転攻勢、指揮官にトラブルが発生したゴーレム達は対応に統一性がありません。


「作戦が上手く行きましたね」


 狩人チームの立てた作戦は、まず〈術技〉の集中砲火で出来るだけ兵力を削り。

 次に撤退しつつ精鋭狩人さん達が《潜伏》している地点まで(おび)き寄せ。

 そこでリーダーを狙い撃つというものでした。


「グギギッ」

「隙アリだぜ!」

「ガグっ!?」


 そして作戦の第四段階。

 レギオンを混乱させ、さらに一転攻勢で意識を前方に集中させ、その隙に背後から狩人長がリーダーを狙います。


 故・ポイルス氏が使っていた頑鉄剣を手に、《ユニークスキル:暗剣殺の導き》で気配を薄め、ゴーレム達の合間を風のように疾駆。

 意識が完全に前へ向いていたアイアンゴーレムの頭に唐竹割を食らわせました。

 その重厚な斬撃は、頭部にある《魔核》を斬り砕き、強力なリーダー個体を一撃で絶命させたのでした。




 そこから先は殲滅戦でした。

 敵陣の中で孤立した狩人長も獅子奮迅の暴れっぷりで危なげなく離脱。

 統制を失った魔物の群れは狩人の皆さんの活躍で全滅しました。


 その後、第十階層の最終守護者にも各班ごとに挑戦、報酬を獲得。

 ちょうどいい時間となったため《迷宮》を出ます。

 外には茜空が広がっていました。


「あ、帰って来たんですね。《迷宮》はどうでしたか?」

「山ほど素材が手に入りましたぜ、ヴェルス様!」


 私が貪縄で巻き付けた夥しい数の素材達を指さし、狩人の一人がそう言いました。


「す、凄まじいですね……。これは商人長も喜びそうです。やはりレギオンを?」

「ええ。おかげで狩人さん達の《レベル》も大きく上がりましたよ」


 うんうん、と狩人さん達が頷いています。

 その様子を見てホッとしたようにヴェルスさんが口を開きました。


「良かったです、これなら僕らの留守を任せられそうですね」

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