3.レベルアップ★
「ホーウッ、ホーウッ」
フクロウでしょうか、山のどこかから鳴き声が聞こえて来ました。
夜闇に目を凝らしながら岩の転がる道を進みます。
「《暗視》が無ければ大変でしたね」
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スキル 暗視Lv2 具心具召喚Lv1 気配察知Lv10 仙身丹Lv4 潜伏Lv10 ハートアラートLv1 六神通Lv1
称号 心無き者Lv1
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《気配察知》と《潜伏》が取れていることに気付いた私は、まずその効果を確認しました。
そしてそれらが隠密行動に向いた能力なのを知り、山頂を目指すことに。
《スキル》の恩恵により魔物達に見つかることなく登頂は完了。
されど四方を見回せど、あるのは手つかずの山ばかり。
人間の住処や痕跡は見つけられませんでした。
仕方がないので太陽の沈む方角を目指して歩き出しましたが、麓に着いたときにはもう夕暮れでした。
そこで一旦、近くにあった木の上に登りました。
見通しが悪いと危険なため、隠れて夜を越そうと考えたのです。
しばらくはそこでじっとしていたのですが、ある時を境に視界がふっと晴れました。
明るくなったのとは異なる、闇が薄れるというか、色彩が鮮やかになるというか、そんな不思議な感覚です。
無論、これは《暗視》を獲得したからで、そのことに気付いた私は夜間も進むことにしました。
そうして現在。谷間を流れる川に沿って、下流に向かって進んでいます。
水場の近くには人が集まるでしょうし、仮に海まで続いていたとしても海岸沿いに進めるからです。
登山で遭難した場合、川を下るのは自殺行為ですが、ここは異世界。
救助隊など派遣されないため、こうして自力での脱出を試みなくてはなりません。
ゴウゴウと流れる二車線道路くらいの川を横目に、ふとある疑問を抱きました。
「そういえば、喉が渇きませんね。空腹にもなりませんし」
転生したのは昼過ぎで、あれから半日は経っているはずなのですが。
はて、どうしたことかと《天眼通》で理由を探ります。
いくつか《スキル》を視て、原因と思しきものを発見しました。
「なるほど、《仙身丹》ですか」
《仙身体》の再生効果。その適用範囲には水分や栄養、睡眠時間等の欠乏も含まれているようでした。
これなら飲まず食わずでも生きていけます。
しばらくは山生活が続きそうですし、嬉しい誤算ですね。
それからもしばらく川沿いを歩き、ふと、山の方に足を向け直します。
「よっ、こいせ」
標高五メートル辺りに生えた木に登りました。
そして常に発動させている《潜伏》を、なお一層に集中して発動します。
「グルルルゥ」
川沿いに、翼の付いた四足獣の魔物が歩いてきました。
数は一体ですが、《ハートアラート》が激しく反応するほどに強い魔物です。
翼付き魔獣は立ち止まり、鼻をスンスンと鳴らすと、そのまま私が来た方向に歩いて行ってしまいました。
「やはり《気配察知》も《潜伏》も優秀ですね」
木から降りながら呟きます。
気配を探って広範囲を索敵できる《気配察知》と、自身の気配を薄れさせて気付かれにくくできる《潜伏》。
《気配察知》は《ハートアラート》と合わせ、魔物を避けるのに大きく貢献しています。
「さすが《スキルレベル》マックスなだけはあります。……最大まで上げるには年単位の時間がかかると聞いていましたが、まあ、早まる分には構いませんか」
使い倒していた《気配察知》と《潜伏》の《スキルレベル》は、いつの間にか最大になっていました。
《スキルレベル》は一律で十が最大値なのです。
管理者さんから聞いていたより簡単に最大になりましたが、《スキル》の成長速度は人それぞれとも言っていましたし、私と相性が良かったということでしょうか。
「ですが、これらに頼ってばかりでもいけませんよね」
《気配察知》も《潜伏》も強力ですが、所詮は《ランク2》の《スキル》です。
もしも高《ランク》の索敵《スキル》を持つ魔物が居れば、私は見つかってしまいます。
そうなった時のためにも戦闘力の向上は必須。
差し当たっては、弱めの魔物を倒し《経験値》を得て、《レベル》を上げるべきでしょう。
「あまり気は進みませんが……」
それから少し山の中を進み、微弱な気配を感じる藪の前まで来ました。
よくよく中を覗いてみると、一匹の鼠が眠っているのが分かります。
大きさは通常の鼠以上で、狸やイタチくらい。しかし、眠っている今なら容易に屠れるでしょう。
「《具心具召喚》」
心象剣・凪光を両手で握り、慎重に藪へと差し込んで行きます。
刃先が鼠さんの前まで来たところで、一度深呼吸。
そして意を決し、勢いよく突き出します。
「ふっ」
「ギヂュゥっ!?」
鼠さんが悲鳴を上げます。
凪光は灰色の肉体を貫通していました。
ビクリ、という末期の震えが剣越しに伝わって来て、それから間を置かず、鼠さんの気配は途絶えました。
「ふぅぅぅ……」
無事に倒せたことに安堵の息を吐き出します。
そして全身に力が漲ってきました。《レベル》が上がったのです。
確認すると、今ので《レベル3》にまで上がっていました。
他者と比較できないのでどのくらいの強さかは分かりませんが、確実に先程までより強くなっています。
《パラメータ》も上昇していますしね。
「ありがとうございました、鼠さん。貴方の死を無駄にしないよう頑張ります」
死した鼠に向かって手を合わせます。
自己満足ではありますが、私のために殺したのですからこのくらいはしておかなくては。
合掌したところで死者には何も起こらず、ただ私の罪悪感が薄れるだけ。
満たされるのは私の心だけです。
頭ではそう分かっているのですが、簡単には割り切れません。
自己満足の祈りを打ち切り、それから再び川の傍に戻りました。
再び下流を目指します。
夜通し歩き続け、その間に何度か寝込みを襲って《レベル》を上げました。
今の私は《レベル11》。
《パラメータ》は《レベル1》の頃の二倍ほどにまでなりました。
「今日も頑張りましょう」
山の上に昇る朝日を見て、宣言するように呟きました。
《仙身丹》の効果で眠らずに済むのはありがたいですが、どうにも日が変わったという感覚に乏しいですね。
そんなことを考えながら、私は今日も歩いて行きます。