4話 『圕』の力
「ちっ! なんとも面倒くさい!!」
薄暗い洞窟の中、2メートルを超えるムカデが小さな穴から襲ってきた。
攻撃は、無数に開けた穴を行き来する度に少し牙を掠められる程度だが、
「っ! やっぱりか…」
傷口が膿んでいる。流石に何かあるとは思っていたが、攻撃を食らううち、だんだんと息が荒くなってきて、体も動かしにくくなってくる。………これは神経麻痺の毒だ。
とはいえ、虫1匹、魔法で殺せる、というわけでもない。
ここは薄暗い洞窟で、視界が悪く、瘴気を吸いすぎたのか、めまいも始まってしまっている。
(こんな状態じゃあ、魔法はあてにしないほうがいいな)
下位魔法は当たらない、それに上位魔法をここで放てば、間違えなく洞窟にも被害が及ぶだろう。ここには、奴隷もいるのだ。そこに手を出して仕舞えば、パーティだけじゃなく、ギルド追放も達成(?)してしまう。
(こうなれば、やはり使うしかないか……!)
圕には物語を紡ぐものの力とは別にもう一つ。自分が主人公になることができる特性がある。それが
「魔導書の著者」《グリモア・オーサー》
僕の声に呼応するように、時が止まる。
《オーサー、これより、個体名『スピード・センティピード』との共有を始めます》
「ステージ1でお願い!」
《オーサー、真名ナイルの要求を申請………許可、ステージ1を構築………》
という言葉が自分の脳に直接流れるのと同時に、僕とムカデ………スピードセンティピードだけが、転移を始める。
《構築進行率50....80...100%、これより、物語の著書を始めます》
真っ白な空間が1分くらい続いたのち、視界に6枚の透明な大きな壁が現れ、箱を成す。大きさで言えば、1辺80メートルくらいだろうか。
そして、箱が完成し、安定したのか、僕はもう一度転移の空間へと投げ出され、今度は箱の内へと着く。眼前には50メートル程空いて、ムカデが見える。
これがステージ1、無垢の部屋。
魔導書の著者は、自身を主人公に、敵との物語を織りなすスキル、つまり絶対的な終幕のある戦いに持ちかけることができる。
「このスキルの強みの一つ。この空間では、隠れることはできない。」
ムカデに言葉は伝わらない……はずだが、本能から気づいたように、透明なその壁へとあなを開けて逃走を試みている。
しかし、それも無駄な足掻きでしかない。
「その壁は、魔力障壁でできてるんだ、君の攻撃じゃあ、絶対に割れることはない、つまり、まぁ、言わなくてもわかるよね?」
これが、物語の著者の力である。