矛盾
『お前の命を引き換えに、なんでも一つ願いを叶えてやろう』
突然、目の前に現れた死神が言った。
正確には死神かは分からないが、黒ずくめのローブに骸骨の頭。
そして大きな鎌を持った、現実離れした死神のお手本のような風貌のものがそこにいたのだ。
ああ。とうとう俺は頭がおかしくなってしまったんだなぁ。
「……なんでも?」
『ああ、そうだ。なんでもだ』
そうは言われても、自分の命を引き換えにしてしまうのであれば俺にはなんのメリットもないではないか。
『嫌いな奴らを全員殺してもいい。来世の成功を約束してやってもいい。ただし、お前の命を引き換えにだ』
「例えば、俺が不老不死と言ったらどうなるんだ?」
『駄目だ。それでは矛盾している。契約は成立しない』
なるほど。あくまでも俺の命だけは確実に支払わなければならないようだ。
自分の命を引き換えにしてまで何かを叶えたいなんて望みが、普通の人間にあるだろうか?
それとも、だからこそ俺のところに来たのだろうか。
「俺の幼馴染のユキ、と言って伝わるか?」
『ああ』
俺は幼馴染のユキのことがずっと大好きだった。
だからこそ、今こうしてこんなところに俺は立っているのだ。
「ユキを、ユキの人生を幸せにしてやってくれ。俺はあいつが幸せならそれでかまわない」
ああ。
あいつが彼氏と幸せに過ごすことができるならそれでいい。
……それでいいんだ。
失恋のショックに耐えられなかった俺の、最期の強がり。
どうせ、あと一歩踏み出せば無くなる命なのだ。
死神にくれてやっても同じことだ。
『その願いを叶えることはできない』
「なぜだ!話が違うぞ!」
『矛盾するからだ』
「どこに矛盾がある!俺の命と引き換えにユキが幸せになる!何も問題無いはずだ!」
大声で叫んだ自分の言葉にハッとし、一目散にユキの元へ駆け出した。