さよならだけが人生だね
【さよならだけが人生ダネ 】
朝目が覚めると上に人が乗っている。
なんてよくある事だ、うちにはたまに友達が泊まりにくるし、なかなか寝相も悪い奴らだ。知らんけど。でもそうだろうきっと。上に乗っかってんだなと思い、どかそうとすると驚いたことに体が全く動かない。これは夢なのだろうか。いやしかし確かに意識はこの頭と体に戻ってきている。部屋の柔軟剤の匂いもするではないか。しかしおかしい、体が動かないのだ。口を動かそうとすると手で完全に抑えつけられてしまった。目も開けられない。息ができなくなる。
こいつ、完全に殺しにきているな。意地でも抵抗しようとするが向こうの力はかなり強い。こちらは体も動かない。
【さよならだけが人生だね】
向こうのか細い声が発したそのセリフで恐怖心は一気に倍増した。目を開けられないが目を開けられたとしても開けたのだろうか。
すると一瞬、体が少し軽くなった。その隙をついて思いっきり叫び体を起こした。
目の前には誰もいなかった。しばらくずっと耳鳴りが鳴っていた。
《 さよならだけが人生だね 》
すると一瞬、体が軽くなった。その隙をついて思いっきり叫び体を起こした。
目の前には女性が座っていた。
君は誰だねと私が聞くと彼女は思い出すわと言って目をつむった。
たしかに苦労の多い人生ではあった。ストリップ劇場に始まり、フランス座のコメディアン。
彼女は心に決めた男と出会うが、その男は病気を患って入院してしまう。自分の生活と彼のために、彼女はストリップ劇場に加えコメディアン、そして熱海へ出稼ぎに行かなければいけなくなってしまう。
やがて彼の長い長い闘病生活が終わり、彼女はあこがれの妻の座を夢見た。しかし彼女を待ち受けていたものは、ストリッパーとしての肉体と、捨てられる女の宿命であった。
彼は別の愛人を作ったのである。
私はあなたを知らない。しかしどうか泣かないでおくれ。
海は涙の貯金箱。川は涙の通り道。栓はしたとて誰がこぼす。グチと溜息泣いて泣いて泣いてたまるかよ。
お嬢さん、私はストリッパーとしてのあなたのその体と、コメディアンであるその心を愛します。あなたは1人じゃない。だから安心してお行きなさい。
彼女の体は少しずつ消えていき、部屋には私1人だけとなった。
私も、彼女も、きっとさよならだけが人生だね。