シルヴィアの絶頂 Ⅱ
週末。シルヴィアの寮室にたくさんの女子が詰めかけた。いくら貴族の子女が通う寮だからといってクラスの女子が全員押し寄せれば瞬く間に狭くなってしまう。しかもその中には他のクラスや上級生の女子も混ざっていた。そのため、中には遠慮して隅の方で立っている者もいた。
「シルヴィアさん、私実家から送ってもらったお菓子を持ってきました」
「これは職人に作ってもらったおいしいパンです」
「これ、ささやかながらプレゼントです」
ついこの前まで対等なクラスメイトだった彼女たちが次々と媚びてくるのを見てシルヴィアは笑みを抑えることが出来ない。
特にこれまで実家の大きさを傘に着て威張っていた人たちほど、実家の力を利用して立派な贈り物を持ってきてくれる。それがシルヴィアには愉快で仕方なかった。
「まあ、ありがとうございます」
そんな気持ちを隠しながら彼女は一人一人に丁寧にお礼を言いながら贈り物を受け取る。
そこでふとあることを思い出す。
「ところで今日は随分たくさんの方が来てくださったようですが、クラス全員でしょうか?」
クラスの中に自分をよく思っていない女子はどのくらいいるだろうか。確認しておかなければならない。
「いえ、レミリアは来ていません」
「まあさすがにあんなことがあっては顔も出せないでしょうね」
「むしろ来ても迷惑ですわ」
そう言って女子たちはおかしそうに笑う。レミリアは元々来るとは思っていなかったのでどうでもいい。
が、一人がふと気づいたように言う。
「そう言えばもう一人いませんね……もしやミラでは?」
「ミラさん?」
シルヴィアはその名を聞いて思い出そうとするが、そう言えばそんな人もいたような気がする、という程度の印象しかない。
「誰かミラさんはお誘いしました?」
「はい、私が」
一人がおそるおそる言う。ということはシルヴィアの誘いを拒否したということになる。若干空気がざわついた。
するとそこでシルヴィアの前に進み出たのはエマだった。
「シルヴィアさんの誘いを断るなんて許せないわ! 今度から私から言って聞かせます!」
そう言えばエマは試験が終わった後レミリアのことをいじめていた、とシルヴィアは思い出す。直接手を汚したくないレミリアにとってエマは便利な存在だった。自分に歯向かうといじめられる、という雰囲気になればますます皆シルヴィアに気を遣うだろう。だからせいぜいエマは大事にしてやろう、と思う。
「ありがとう。エマさんは寮生活で何か困っていることはありませんか?」
シルヴィアの言葉にエマはぱっと表情を輝かせる。
「はい、実は私のシーツが少し古くなってしまっていて」
「分かりました、今度伝えておきますね」
「あ、ありがとうございます!」
シルヴィアの言葉にエマは表情を輝かせる。
そして周りの女子生徒たちもそれを見て顔を見合わせる。シルヴィアに直接プレゼントを贈るのは財力のある家の出身じゃないと出来ないが、彼女が気に入らない女子をいじめるのは誰でも出来る。そうすればエマのようにシルヴィアの歓心を買うことが出来る。そんな考えが女子の間を静かに駆け抜けていった。
「ふう、今日は楽しかったわ」
参加した生徒たちが帰っていくと、誰もいなくなった部屋でシルヴィアは満足そうに伸びをする。これまでの人生、実家でもたくさんいる子供のうちの一人にしか思われておらず、学園でも男からは好色な視線でしか見られなかった彼女にとってここまで他人にちやほやされるのは初めての経験だった。
「普通の貴族令嬢に過ぎなかった私がここまでになれるなんて、あの人には感謝しないと……ん?」
そこでシルヴィアは自分に手紙が来ていることに気づく。実家からの賞賛だろうか、と思って手に取ってみると差出人はレミリアだった。その名を見てシルヴィアはいったんどきりとしてしまう。
「何なのあいつ。泣き寝入りのつもり?」
そうつぶやいて手紙を開いたレミリアの表情はさっと強張った。
『単刀直入にお伝えします。あなたが私にかけた呪いの解呪方法を見つけました。今すぐ真実を包み隠さずに話してください。そうでなければあなたを私以上の目に遭わせます』
手紙を読み終えたシルヴィアは慌てて手の中に魔力を集めてほっとする。まだ呪いは解けておらず奪い取った魔力は残っている。大丈夫だ。
「真実を包み隠さずに話す? そんなことが出来る訳がない! 私はようやくいい思いが出来るようになったっていうのに! 大体、呪いを解く方法を見つけたならさっさと解いているはず。それをしていないってことはこんなのはったりに決まっているわ! あーあ、せっかく楽しかったのに水を差されちゃった」
そう叫ぶとシルヴィアは手紙をびりびりと破り捨てた。