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シルヴィアの絶頂 Ⅰ

 試験の日にレミリアの魔力を奪ってからそれまで平凡だったシルヴィアの日常は一気にバラ色になった。


「シルヴィア、僕は家の命令で仕方なくレミリアと婚約させられていたけど、僕は別にあんな奴はどうでもいい。本当はずっと君のことが好きだったんだ」


 まずクラスで一番名家の出身であるオルクが、試験が終わった瞬間手の平を返したようにすり寄って来た。

 もっとも、彼は元々レミリアのことはどうでも良さそうだったし、時折シルヴィアに対して好色な視線を向けていたのは知っていたので、彼の言葉は軽薄ではあるがあながち嘘とは言えなかった。


「シルヴィアさん、今日の試験は凄かったね」

「君こそ本当の首席にふさわしい」


 他にもこれまで自分には何の関心も示してこなかった男たちが次々とシルヴィアに言い寄ってくるようになった。

 そんな状況にシルヴィアはしばしの間優越感に浸っていたが、やはり家柄的にはオルクが一番抜きんでている。人柄的には大して変わらないように見えたが。


 シルヴィアはこれから誰と親しくするかをはっきりさせるため、愛想笑いを浮かべるとオルクを見る。たくさんの男が寄ってくるのは気持ちいいが、一番家柄のいい相手を確保しておいた方が賢明だろう。


「先ほどレミリアに婚約破棄を宣言したところ、大変男らしかったです」

「そうだろう? 騙されたことが分かった以上、僕はもう家の取り決めには縛られない」


 オルクはそう言って胸を張ってみせる。

 騙されたも何も、レミリアが入学試験の時に不正をしていて今回魔力を失ったのは不正が出来なくなったから、という風にオルクが思い込むよう誘導したのはシルヴィアだったが。


「さすがオルクさん。格好いいです」


 シルヴィアの態度に他の男たちは「結局オルクか」と愚痴を言いながらも離れていった。

 二人きりになるとオルクはシルヴィアに手を差し伸べながら言う。


「いずれ家の方にこのことを言って正式な婚約を取り決めようと思う」

「お待ちしております」

「では早速だけど、この後お茶でもどうかな?」

「もちろん、喜んで」


 そう言ってシルヴィアは彼の手をとった。

 その後シルヴィアはオルクと学園の近くにある貴族令嬢御用達の高いカフェに行き、高いケーキを奢らせてから学園の女子寮に戻る。



 その途中、それまで自分を見ても無視していた女子たちが次々と「ごきげんよう」などと挨拶してくる。シルヴィアはそれに対して笑顔で手を振り返した。



「シルヴィアさん、ちょっといいかしら?」


 寮に戻るとシルヴィアは寮母さんに声をかけられる。


「何でしょう?」

「シルヴィアさんも知っていると思いますが、この寮では二年生以上になると前年の成績に応じて監督生を選出するの」

「そうですね」


 監督生というのは寮の運営を行う生徒である。最終的な権限は学園にあるものの、細かい規則を定めたり、時々学園から支給される備品を決めたりといった権利がある。特にそれぞれの部屋にあるベッドやシーツが古くなったりといった要望を学園に出すのは監督生の役目だし、やむをえない理由で門限を破る場合に監督生の許可が必要だったりと、寮生活を送る上で魅力的な権力を持っていた。


 そのためシルヴィアも密かに上級生の監督生を見て憧れていた。一年生からは監督生が選ばれることはなく寮の人がその辺は全てやっていたが、二年生になればぜひ監督生をやりたいとずっと思っていた。

 それでも一応シルヴィアは謙遜してみせる。


「私なんかで大丈夫でしょうか」

「ええ、今回のテストで女子一番の成績だったと聞いているわ。素行にも問題がないし、シルヴィアさんが一番いいと思う」


 それを聞いてシルヴィアは表立って悪いことをしなくて良かった、と思う。基本的に外面のいい彼女はレミリアへの嫌がらせも本人以外には気づかれないようにやってきた。


「でしたらさせていただきます」

「まあ、ありがとう」


 寮母はそう言ってほっとしたように笑ったのだった。





 翌日、二年生からはシルヴィアが監督生に選ばれたことは早くも耳の速い女子に知れ渡っていた。家柄の良さに加えて魔術の成績と監督生の地位が加わり、瞬く間にシルヴィアは仲良くしておいた方がいい相手ナンバーワンに登り詰めた。

 そのため、シルヴィアが部屋を出て学園に向かおうとすると何人もの女子生徒に声を掛けられる。


「シルヴィアさん、監督生就任おめでとうございます。お荷物をお持ちしましょうか?」

「何か困ったことはない? あれば相談に乗るわ」

「シルヴィアさん、これプレゼント。ところで今度ちょっと門限が遅くなりそうなんだけど何とかならないかしら」


 皆監督生の特権を持つシルヴィアと仲良くしたいという下心は見え見えだったとはいえ、周囲からちやほやされて嬉しかったシルヴィアだったが、内心のうれしさをどうにか包み隠していつも通りに猫を被る。


「皆さんありがとうございます。ところで今週末私の部屋でパーティーをしようと思います。そこで他の女子の皆さんにも声をかけておいてもらえませんか?」

「は、はい、もちろんです」


 シルヴィアの言葉に周囲の女子たちの表情が変わる。貴族がパーティーをすると言えばそこには必ず何かの意味がある。

 今回で言えば、パーティーでいかにシルヴィアに媚を売ることが出来るかで今後の寮生活のしやすさが変わるということだ。シルヴィアと仲良くなれば監督生の特権で様々な便宜を図ってくれるだろう。また、その関係を維持出来れば卒業後も何かいいことをしてもらえるかもしれない。


 シルヴィアはシルヴィアで、「パーティー」の一言でそこまで相手が読み取ってくれることを分かっての発言だった。

 実際、女子たちはシルヴィアの言葉に笑顔で頷く。


「分かりました、必ずパーティーを盛り上げてみせます」

「楽しみにしておいてください!」

「もちろん、楽しみにしていますね」


 そう言ってシルヴィアは無邪気に笑うのだった。

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