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穏やかな日々

「なあレミリア、ちょっといいか?」

「う、うん」


 その日の放課後。私が教室を出ようとすると一人の男子に声を掛けられる。彼は確かクルスという名前でこれまで特に私との関わりはなかった。取り立てて剣術や学問が出来る訳ではなかったが、爽やかな外見と人当たりの良さで男子の輪の中心にいる印象が強い。遠目に見た感じ、オルクと違って性格もまともそうだった。


 そんな彼が少しだけ恥ずかしそうに私に話しかけてきたので驚いてしまう。

 が、彼の次の言葉で何となく用件は分かってしまう。


「実はちょっと話したいことがあってさ、今から校舎裏に来てくれないか?」

「え、そ、それはもしかして……そういう……」


 これまでなら真っ先に何か嫌がらせをされる可能性を疑うが、今のクラスの雰囲気的にそれはないだろう。とするともうそういう可能性しか思いつかない、と私は勝手に緊張してしまう。


「そ、そうだ」


 そんな私に対してクルスも緊張したように頷く。やっぱりそういう用件らしい。

 私は一瞬どうしよう、と思った。まだ用件を聞いてはいないが、答えはもう決まっている。でも、せっかく声をかけてくれた以上せめて彼の言葉ぐらいはきちんと聞いてあげようと思った。


「分かった」


 私が頷くと、彼は私を先導して校舎裏に向かう。


 改めて二人きりになると、彼は勇気を出して言った。


「あ、あの、レミリア、俺と付き合ってくれないか!?」

「……」


 私がすぐに答えられないでいると、彼は顔を真っ赤にしながら理由を語りだす。


「実は俺、一年のころはあんまりレミリアのこと知らなかったんだけど、例の事件をきっかけに知ってさ。それで一年の時とかは色々辛かっただろうに、今は報復に走ることなく周りの女子とも楽しそうにしていて、それでそんな時の笑顔がきれいで、気が付いたら目で追うようになっていたんだ」


 彼の言葉に私は少し驚いた。

 てっきり魔法の腕が良かったからとか首席だからとかそういう理由ですり寄ってきたのかと思ったが、この照れ方を見ているに彼は本当に青春しているのだろう。ほとんどの生徒が将来を見据えて人間関係を構築する中、彼のように純真な気持ちで告白してくる人物がいるとは思わなかった。


 とはいえ、彼には悪いが結果は最初から決まっている。


「ごめんなさい、気持ちは嬉しいけどそれには応えられない。私が恋愛的な意味であなたを好きになることはないから」


 私の正直な言葉に彼は落胆とともに溜め息をつく。


「そうか。そんな気はしていたんだが、やはりアルフか?」

「うん」

「そう言われたら俺は何も言えない。彼には敵わないからな。気持ちを聞いてくれただけでありがとう」


 そう言って彼はこちらを振り向かずに走り去っていった。それを見て私は何とも言えない気持ちに包まれる。


 去年まではあんなだったのに、今年はちゃんと青春しているなあ、などと考えつつ歩いていると。ふと、少し困ったような顔をしながら両腕の中に紙袋を抱えて歩いて来るアルフの姿が目に入る。

 別に何も悪いことはしてないけど、彼に会うと何となく後ろめたい気持ちになってしまう。

 だから私は少しだけぎこちなくなりながら声をかける。


「あ、アルフ。今日はもう終わった?」

「ああ」

「それは何?」

「実は……」


 そう言ってアルフは紙袋の中身を私に見せる。その中にはおそらく女子からと思われる手紙が何十通も入っていた。その可愛らしい封筒や便箋から用件は容易に想像がついた。

 私はかすかに胸がざわつくのを感じる。


「ありがたいと言えばありがたいんだが、どうすればいいか困っていたところだ」

「読んだの?」

「まだ読んでない。読んでいいか?」


 予想外なことに、アルフは私に向かって許可を求めてきた。私は一瞬戸惑ってしまう。


「もし嫌なら見ないでおくが」


 それを聞いて私は自分が安堵するのを感じた。そしてそれを訊かれたことを嬉しく思ってしまう。

 だから自分も打ち明けなければいけない、と思う。


「いや、任せる。実は私もさっき、クラスの男子に告白されたの。断ったけど」

「そうか。レミリアは実はモテるのではないかと密かに心配していたが、やはりそうだったか」

「え、そうかな?」


 これまでの人生で他人からそういうふうに言われたことはなかったので少し意外に思ってしまうが、アルフは大まじめに頷く。


「ああ。派手ではないが顔立ちはきれいだし、自分のすべきことに向けてひたむきに努力しているところは格好いい。他人のことを実は結構よく見ているけど、悪口はあまり口に出さない。他にも……」

「わあ、もういいから、分かったから!」


 目の前でそんなに褒められると恥ずかしくなってしまう。

 私は顔を真っ赤にして慌ててアルフの言葉を遮るのだった。

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