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アルフ

 こうして私は落ち込んでいた訳だが、周囲はそれでは済まなかった。元々見た目と家柄だけはいいオルクを狙っていた女子が多く、彼が私が婚約していたことをやっかんでいた者たちは多い。それでも今までは私の圧倒的な魔法の成績のせいか裏での陰口やこっそりの嫌がらせが中心だったが、私の魔力がなくなったと分かると態度は急変した。


 試験が終わり、教室に戻ろうとした私の前に数人のクラスメイトが立ちふさがる。伯爵令嬢のエマを中心とする仲良しグループで、前々から私への嫌がらせが特にひどかったグループでもある。


「ちょっと、何普通に帰ろうとしているの?」

「……」


 特に言うこともなかったので黙っていると、エマは近づいて来て腕を伸ばし私の制服の襟を掴む。


「何黙ってるの? 入学試験で不正をしたことが明らかになったんだから、皆の前できちんと謝罪すべきじゃない?」

「……不正があったならもう先生にそう言われているでしょ」


 実際、試験官の教師も私の魔力喪失を見て首をかしげたものの、特に触れることなく粛々と試験を続行した。むしろ私としてはシルヴィアがかけた呪いの方を発見して欲しいぐらいと思っているが。普通に考えて入学以来昨日までずっと同じぐらいの魔力があって今日急に魔力がなくなったのであれば、入試による不正よりも何かアクシデントがあったと考えるべきではないか。


 むしゃくしゃしていたこともあって私は彼女に対しても冷たい態度で答えた。

 が、そんな私の態度にエマは激昂し、眉を吊り上げる。


「は? じゃあここまで魔力が下がったのをどう説明する訳!? 不正以外の何物でもないでしょ! 証拠がないからっていつまで首席気取りでいるつもり!?」


 そう言ってエマは私を突き飛ばす。私はされるがままに、固い感触とともに地面に尻餅をついた。


 とはいえ実際、この件をどう説明するかと言われると今の私にはこの現象を説明できない。シルヴィアが怪しい、と言おうかと思ったがそんなことを言っても「他人のせいにするな」と言われて嫌がらせが加速しそうなので黙らざるを得ない。

 私は悔しさをこらえて唇を噛むしかなかった。


 ちなみに当のシルヴィアは私のことをちらちらと見ながらオルクと楽しそうに雑談している。私の不幸のおかげで、魔力を手に入れた喜びも二倍になったというところだろうか。


 が、私が黙っているとエマの怒りはますます大きくなっていく。


「いつまで黙ってる訳? 何とか言ってみなさいよ!」


 そう言ってエマは腕を振り上げる。周囲の取り巻きたちは私が逃げないように体を押さえつける。これはもしや何発か殴られないと済まないパターンだろうか、と私が憂鬱になった時だった。



「おい、いくら気に食わないからって暴力を振るうのはやめろ」



 そんな声とともに、一人の男子が私の前に立ちふさがった。


「え、な、何!?」


 突然の侵入者に驚きつつも、エマは慌てて手を止める。

 彼の名は確かアルフ。クラスでもほとんど目立っているのを見たことがない彼の登場に少し驚く。多分私はしゃべったこともないし、どんな人かもよく分からない。ぎりぎり名前を憶えている程度の人物だった。


「な、何よあんた! ていうか関係ないでしょ!?」


 困惑するエマに対してアルフは落ち着いた様子で話しかける。


「関係ないと言うならレミリアの試験結果とお前も関係ないはずだ。不正があると思うなら学園に訴えればいい。そうすればこんなことをしなくても彼女は退学になる。違うか?」

「で、でも、それはこいつが証拠を隠しているからで……」


 突然現れた乱入者の存在にエマや取り巻きたちは動揺を隠せないようだった。先ほどまでの私への当たりの強さからは一転、しどろもどろになっている。

 そんなエマにアルフは強気に言う。


「じゃあお前が証拠を隠して不正をしていないっていう証拠はあるのか?」

「そ、それは!」


 アルフの言葉にエマは言葉を詰まらせた。彼の言葉は正論だったが、私が同じことを言っても恐らく問答無用だっただろう。

 が、私の前に立ちふさがるアルフにはそれを許さない迫力があった。特別体格がいい訳でもない彼だが、なぜか相手に有無を言わせぬ貫禄がある。これまでアルフとすれ違ってもここまでの迫力を感じることはなかったというのに。

 そんなアルフを目の前にしてさすがのエマもたじろいだ。


「ま、まあ今日はこれぐらいで勘弁しておいてあげるけど、これで済むと思わないことね!」


 エマは典型的な捨て台詞を吐くと、取り巻きを連れて去っていく。

 彼女らが離れていくのを見たアルフは一つため息をつくと、こちらを向いて口を開く。


「大丈夫だったか?」


 そう言ってアルフは倒れている私に手を差し出す。こうして改めて正面から見てみると、髪で顔が隠れているものの、なかなか精悍な顔つきで目つきも鋭い。


「ありがと」


 手を掴むと、彼の手は案外ごつごつしていた。日頃から剣の鍛錬を積んでいるのだろうか。その割には剣術の成績上位者で彼の名を聞くことはなかったが。

 むしろ何でこんな人が今まで目立たなかったのか、と思うぐらいだ。


「確か、アルフ君だったよね? まずは助けてくれてありがとう」

「いや、日ごろ目立たないことを信条としている僕でもあそこまで酷いことを目の前でされるとなかなか見過ごせなくてね」

「おかげで助かった」

「とはいえ入学以来ずっとトップだった君の魔力が突然なくなるというのもおかしな話だ。良ければ話を聞かせてくれないか?」


 私は少し悩む。彼にシルヴィアのことを打ち明けてもまともに取り合ってくれるのだろうか。

 だから一つ質問を挟んでみることにする。


「……あなたは私が不正をしたとは思わない?」

「思わない。普通に考えて、これまでずっと好成績を維持してきたのに急に成績が下がったら今回がおかしいと思うだろう? ただ、君も分かると思うが魔力というのは多少体調が悪くなったからといってここまで急激になくなるものじゃない。だからどうしたのかと思って少し気になってね」


 本当にその通りだ。

 アルフが考えていることはとても理性的で、彼なら私の話をきちんと聞いてくれそうだった。原因を探るにも、一人よりは二人の方がいいかもしれない。そう思って私は彼に打ち明けることを決意した。


「分かった。じゃあちょっとクラスの人がいなさそうなところに行きたい」

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