心機一転
さて、こうしてシルヴィア事件は解決した訳だが、当然ながらしばらくの間学園は騒然となった。何せ私たちとシルヴィアの戦いで緊急避難が行われた上、寮が半壊したのである。その衝撃で生徒たちは騒然とし、学園や騎士側は他にもレティシアと接触した者がいないか捜査が行われた。当然学園自体もしばらくの間休校となり、寮もしばらくの間再建のため立ち入り禁止となった。
そのため私たちはしばらく暇になった。特に私はアルフも忙しくなってしまったため、学園から指定された宿に滞在しながら珍しく王都の観光を行うなど慣れない過ごし方をした。
一週間ほどして、寮が一応補修されて戻ることが出来るようになった。破壊されたのはシルヴィアの部屋周辺なので、その周りに住んでいた生徒を空き部屋に移すなどでどうにかなったらしい。
ちなみに後でアルフから聞いて話によるとこの時騎士団により寮の部屋が調査され、怪しげな物品がないか調べられたらしい。もっともこの時は怪しいものはなかったらしいが。
そしてそれから三日ほどして学園自体も再開した。
休み中に会っていた生徒たちもいたが、ほとんどの生徒たちは十日ぶりの再会となり、クラスの話題はシルヴィアの件で持ち切りになった。
そして、その渦中にあった私は登校してくるなり、周りに事件について知りたがるクラスメイトたちで輪が出来た。
「レミリアさんはあの時シルヴィアと戦ったって言うけど本当!?」
「アルフ君って実は騎士だったの!?」
「寮が壊れたのはレミリアさんの魔法が強かったからって本当か!?」
これまでずっとクラスでは孤立していた私が急に大人数のクラスメイトたちに囲まれる事態になり、少し戸惑ってしまう。
「ちょっと待って。皆で同時に話しかけられても答えられないから」
「じゃあまずはシルヴィアと戦った時のこと教えて?」
そう言ったのはクラスで一番賑やかという印象があったリンダだった。明るい性格で、いつも彼女の周辺は盛り上がっているなという印象はあったが、実際に話すのは初めてかもしれない。
今回のことについては大々的に起こってしまったということもあって特に口止めはされていなかったが、一点だけ、レティシアの存在だけは言わないように言われていた。シルヴィアのように彼女から力をもらおうとする生徒が続くことを危惧してのことらしい。
確かに、もし間違った伝わり方をして「どんな人でも一瞬で大量の魔力を得られる手段をくれる人」みたいなイメージになってしまえば闇街に繰り出す生徒は続出するだろう。
とはいえこれだけの生徒が集まっている以上噂が立つのを抑えるのは難しいと思うが。
「分かった。あの時はまずアルフがシルヴィアが闇の種子を使っている証拠を見つけて、その時騎士団が別件で出払っていたからアルフが一人で行くことになったから私もついていくことにしたの」
「嘘、すごい!」
「いや、それは行きがかりというか、ほら」
私が曖昧に言うと、他の生徒たちも進級試験で起こったことを思い出して納得してくれたようだ。
「それでシルヴィアが闇の力を使って……」
私はその時あった戦いのことをかいつまんで話す。女子も興味津々であったが、魔法での戦闘の話があったからか、意外にも男子に対する受けの方が良かった。
「……ということがあってどうにか私たちは勝ったって訳」
「すごい!」
「やっぱりシルヴィアは邪まな力を使ってたんだ!」
「俺もいつか近衛騎士になりてぇ」
クラスメイトたちは口々に感想を漏らす。
これまでエマや一部の女子のせいでクラス全員から冷たくされているような気がしていたが、案外向こうは私のことなど大して気にしていなかったのだろう。
「いいなあ。ねえ、どうやったら私たちもそんな風に魔法を使えるようになれると思う?」
リンダも他の生徒と同じように目を輝かせていたが、ふと何気なく尋ねる。
恐らくそんなに深い意味はなかったのだろうが、私はその問いを聞いて少し困った。もちろん練習あるのみ、と言えばそれまでだが、実際のところ誰もが練習すればすごい魔法が使えるようになるかと言われるとそんなことはない。やはり持って生まれた魔力量の差というものは大きい。
「えーっと……」
私が返事に詰まっていると、ちょうどいいところに担任の教師が入ってくる。
「皆の者静粛に。これから今回の事態の説明などを行う。講堂に向かうように」
こうして全校生徒は講堂に集められた。そして改めて学園の偉い人から今回の件の説明が行われる。レティシアの件は伏せられていたが、他はおおむね起こったことがそのまま説明されていた。また、アルフが生徒として潜入していた騎士だったことも明かされた。まだ噂を聞いていなかった一部の生徒からはどよめきが起こる。
「……ということがあったが、今回のことがあったため学園の警備兼武術の教師としてアルフには改めて我が校に来ていただくことになった」
先生の言葉に私のクラスからはもっと大きなどよめきが上がる。私もそういう形になるのか、と声にはしなかったが驚いた。
そして講堂の壇上にアルフが歩いて来る。その姿はついこの前までクラスメイトだったとは思えないほど堂々としていた。
「ついこの前までは生徒としてこの学園に在籍していて、皆を騙す形になっていたのは申し訳ない。これからは改めて職員として在籍させていただこうと思うのでよろしく」
アルフが頭を下げると、その堂々とした振る舞いや精悍なたたずまいに割れんばかりの拍手が起こる。
こうして私たちの新しい学園生活が始まったのである。