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VSシルヴィア Ⅲ

 こうしてお互いに攻撃の手が途切れ勝負は一度仕切り直しになった訳だが、シルヴィアは満足そうに自分が使った魔法の痕跡を眺めている。その様子から察するにまだまだ魔力はあるのだろう。もちろん、私もそれは同じだが。


 ふとアルフが小声でささやく。


「レミリア、少しの間シルヴィアと一対一で戦えないか?」

「分かった」


 シルヴィアの力は底知れないが、出来るならば一対一でねじ伏せたい。

 そんな気持ちがあったので私は頷く。


「その間に僕がどうにか彼女の不意を突く。シルヴィアは魔力はあるが、戦闘に関しては素人だ。不意を突けば倒すのは簡単だろう」

「うん、信じてる」

「ちょっと、私の前でいちゃつくのはやめてくれない?」


 私たちの会話にシルヴィアが不快そうに声をあげた。

 それを聞いて私は彼女に向き直り、アルフは私から離れる。


「そんなに言うならこっちも本気を出すけど、死んでも恨まないでね。ファイア・ボール」


 ファイア・ボールは魔力を威力に変換する効率が一番高い魔法として有名だ。私は目の前に大きな火球を出現させると、シルヴィアに向かって発射する。火球の直径はシルヴィアの身長以上に膨れ上がり、部屋の家具をちりちりと焦がしながら飛んでいく。

 そのまま当たればシルヴィアは死ぬだろうが、容赦はしない。


「純粋な力比べで今の私が負ける訳がないわ。ダーク・ボール」


 一方のシルヴィアは体から溢れんばかりに湧き出してくる闇の魔力を集めて発射してくる。二つの魔法が部屋の中央でぶつかり合い、ドオオオオン、という轟音とともに大爆発が起こる。


 が、闇の種子の力はすさまじく、私の魔法はシルヴィアに打ち負けてしまう。


「マジック・シールド」


 慌てて自分の前に魔法の防壁を展開してシルヴィアの攻撃を防ぐが、完全に後手に回ってしまった。轟音とともに私の防御魔法ははじけ飛び、防ぎきれなかった爆風が私に吹き付ける。

 もはやシルヴィアの部屋は崩れかけの廃墟のようになっていた。


 やはり何度やっても闇魔術の手を借りた彼女には勝てないだろうか。

 それを見てシルヴィアはおかしそうに笑う。


「どう? せっかく取り戻した力がぽっと出の違法な魔術に負ける気持ちは!」

「……まだ負けた訳じゃない!」


 負けたことを認めればシルヴィアの言葉が重く自分にのしかかって来そうだったので私は必死に否定する。

 が、シルヴィアはそんな私をせせら笑った。


「じゃあ負けが決まるまでに考えておいてね。ダーク・ゲイボルグ・トライデント」


 今度はシルヴィアの周りに三本の闇の槍が現れて一斉に私の方に飛んでくる。

 先ほど同様、防御魔法を張ってもそれごと破られてしまうだろう。ならば回避するしかない。


「ウィンド」

「ふん、その程度の風魔法で私の魔法を吹き飛ばそうだなんて片腹痛いわ」


 が、私が起こした風魔法はシルヴィアの魔法ではなく私の体を持ち上げる。シルヴィアが放った三本の魔法は私がついさっきまで立っていた床を粉々に砕いた。

 それを見てシルヴィアが面倒くさそうに舌打ちする。


 その隙に今度は私が攻撃魔法を放つ。


「ファイアー・ボール」

「マジック・シールド」


 私が発射した火球はシルヴィアの前に出現した魔力の盾によりあっさり防がれる。

 こうして攻守は逆転したが、純粋な魔力量では向こうが勝っているため、なかなか決着はつかない。


 次々と高威力の魔法が室内を飛び交い、周りは部屋というよりは瓦礫だらけになっていく。しかし闇魔術の力によって次々と魔力が供給されていくシルヴィアと違って私の魔力は少しずつ減っていく。


「はあ、はあ……」

「随分消耗したようね。お仲間もどこかに逃げてしまったようだし。私はだんだん力の使い方が分かって来たぐらいだわ」


 言われてみればシルヴィアは最初は突然大魔力を手に入れて制御がおぼつかないところがあったが、だんだん精度が上がってきている。

 このままではいずれ魔力が尽きて負けてしまうかもしれない、という考えが私の脳裏をよぎる。


「まだまだこんなものでは終わらない」

「ふん、これで終わりよ、ダーク……」


 そう言ってシルヴィアが止めとばかりに大魔法を使おうと構えた時だった。


「覚悟!」


 突然彼女の後ろの瓦礫の中からアルフが姿を現す。そして目にも留まらぬ速さでシルヴィアの首筋に剣を突き付ける。あっという間の出来ごとにシルヴィアは魔法を使う間もなかった。


「大人しくしろ。指一本でも動かせば命はない!」


 相手が目の前で大魔法を使いまくっていたシルヴィアということもあってアルフの声は少し緊張している。しかし彼はこの戦場の中を魔法をかいくぐって移動し、シルヴィアに一息で近づける場所でじっと機会をうかがっていたらしい。やはりすごい腕だ。


 が、それでもなおシルヴィアは諦めようとしなかった。

 動きを止めたまま表情を悔しそうにゆがめる。


「くそ、この程度で負ける訳には……」


 すると突然、彼女の体から周りに黒い魔力があふれ出してくる。その様子はまるで鍛冶場の煙突から黒煙がもうもうと噴き出してくるようであった。


「おい、今すぐ魔力を止めろ!」


 アルフが叫ぶ。もしシルヴィアが死ぬまで抵抗するというなら殺さなければならない。そのためアルフの声も緊張で上ずっていた。


「うっ」


 が、すぐにシルヴィアは苦痛に表情を歪める。

 どうもこの魔力の噴出は彼女の意志で行われていることではないようだった。


 見ると彼女の肌には急速にぶつぶつと黒い斑点のようなものが浮かび上がっており、そこから魔力が噴き出し、どこかに飛んでいった。まるで私がシルヴィアから魔力を奪い返した時のように。


「何だこれは! おい、何が起こっている!?」

「わ、分からないわ……うっ」


 再びシルヴィアは苦悶の声を上げると糸が切れた人間のようにその場に倒れた。するとそれを合図に、彼女からは風船から空気が抜けるように魔力が噴き出していったのだった。

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