VSシルヴィア
目の前でレティシアとシルヴィアの取引が行われるのを見ていたアルフは固唾を飲んで身を潜めていた。飛び出したいのは山々だが、圧倒的な魔力を持つレティシアと怪しげな呪いの品を受け取ったシルヴィア二人が相手だと一人で飛び込んでも返り討ちに遭う可能性がある。
そう考えたアルフはいったんその場から下がると通信用の魔道具である腕輪を起動する。遠距離での通信は膨大な魔力を消費するため一日に何度も使うことは出来ないが、近衛騎士で単独調査にあたる者はみなこれを持たされていた。
そして腕輪に向かって小声で叫ぶ。
「アルフだ。緊急の連絡がある」
『何だ』
近衛騎士の詰め所にいる当直の者から答えが返ってくる。
「例の闇魔術師を発見した。現在裏路地の露店街にいる。至急人数を派遣して包囲してくれ」
『分かった。では騎士団の到着までの監視を頼む』
「分かった」
話している間にシルヴィアはふらふらとした足取りでレティシアの元を去っていく。アルフは今にでもシルヴィアを追いたかったが、騎士団の到着までレティシアを監視していなければならない。歯ぎしりしてレティシアを追うのであった。
しかしすでにアルフの尾行に気づいていたレティシアは裏路地の中を自由自在に歩き回る。見通しが入り組んだ路地の中で見失わないよう追いかけるアルフは大変だったが、逆に言えばレティシアがこの区画の中にいてくれて助かっていた。騎士団さえ到着してしまえばこの辺りの区画ごと包囲してしまい、レティシアを逃がさないことが出来る。
そう思いながらアルフがレティシアが曲がったと思われる角を曲がった時だった。目の前にレティシアの姿がある。監視と言われていたが、出会ってしまった以上やるしかない。
「やっと追いついたか、覚悟!」
が、そこでアルフは違和感を覚える。凄腕の魔術師から感じるオーラのようなものをこの人影からは感じない。しかもアルフが追いついたというのに何の反応も示さない。
「はっ」
おかしいと思ったアルフは剣を抜くと斬りつける。
剣が彼女を切り裂くと、彼女の姿はそのまま消えてしまった。
「くそっ、図られたか!」
今度はアルフは魔力を感知する針を取り出す。これは方位磁針の要領で魔力を感知した方に針が向くというものだった。が、取り出した瞬間に針は高速回転を始めてしまう。レティシアほどの魔力の持ち主ともなると魔力で探知されることに対する備えもしているらしい。
仕方ない、と思ったアルフは地面を見る。この辺りは石畳で舗装されていないので、かすかにであるがレティシアの足跡が残っている。一般人には元々あった足跡とレティシアの足跡は混ざってしまって区別がつかないだろうが、アルフは訓練を積んでいるので一瞬で見破ることが出来た。対するレティシアはこの手のことについては素人なようで助かった。
アルフはそれを追って街の中を進んでいく。
少し進んでいくと、レティシアが路地の奥にある崩れかけ一軒家で優雅にお茶をすすっているのが窓から見えた。魔術師だけあって魔法による探知は妨害出来ても、普通の追跡では引っ掛かるらしい。
そこへ騎士団の一人が足音を消して近づいて来る。アルフの魔道具には位置を特定する機能もついており、騎士団はそれを目印に包囲を狭めてきたのであった。
「アルフ、ご苦労」
「ありがとう。あれがレティシアだ」
そう言ってアルフが指差すと、騎士は憎々し気に頷く。
「分かった」
「後の包囲は任せていいか? 僕はあいつから呪いの品を受け取った少女を追わなければならない」
「分かった。後は任せろ」
そこでアルフは騎士にその場を任せて急ぎ学園の女子寮へと向かう。
普段のシルヴィアであれば、力を手に入れたからといってすぐにそれを見せびらかすようなことはしないだろう。しかし今の彼女は気が立っている。こうしている間にも彼女はエマやレミリアに対して暴走しているかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなる。
「あれ、アルフ?」
女子寮に近づいたところで帰宅しようとしていたレミリアに声を掛けられる。
「ああ、レミリアか」
そこでアルフは少し迷った。もし今の自分の状況をレミリアに打ち明ければ、彼女のことだからきっとついてくると言うだろう。しかしシルヴィアが持っているのは未知の力であり、彼女の安全を保証できるかどうかは分からない。
かといって、ここでシルヴィアのことを言わなければ後でそれを知ったレミリアは怒りそうな気がする。
「……もしかして何か分かったの?」
アルフが逡巡していると敏感なレミリアにそれを見抜かれてしまった。
こうなった以上誤魔化すのは不可能だ。アルフは諦めて溜め息をつく。
「君には敵わないな。そうだ、実は今シルヴィアは呪いの品を取り込んでいる。だから今彼女の身柄を押さえて突き出せば終わりだ」
「分かった、私も行く」
予想通り、レミリアはきっぱりと言った。こうなった以上彼女についてくるなと言っても無駄なことだろう。
「分かった。その代わり、僕が逃げろと言ったら何があっても絶対逃げてくれ。分かったな?」
「分かった」
レミリアは真剣な顔で頷く。本当に分かってくれたのか少し疑問はあったが、アルフは信用するしかなかった。




