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シルヴィアの過去

 私、シルヴィアの実家であるエブルー侯爵家はこれまで優れた魔術師を何人も輩出してきた。そのおかげか、元々はもっと下の貴族だったのに最近は勢力を増して侯爵家にまで昇りつめた。


 そんな家に長女として生まれたと言えば他の人たちはさぞかし私をうらやむのかもしれない。でも実際はそんなに楽しいものではなかった。

 生まれたばかりの時は先祖のように偉大な魔術師になることが期待されていた、らしい。その当時の記憶はもうほぼないけど。そこからの私の人生の転落は早かった。

 まず、私は生まれてしばらくして大した魔力を持たないことが分かってしまった。

 さらに数年して次々と妹たちが生まれると、彼女たちは私よりも大きな魔力を持つことが分かった。


 当時の私は魔法が得意じゃないなら、と思ってお稽古事や作法の練習に励んだ。魔法が出来ないなら出来ないなりに、何とかして周囲の期待に応えなくては、と当時の私は必死だった。今私がクラスの男子からの受けがいいのはこのころの努力のおかげだと思う。


 そんな私の心が歪んだのは十歳ぐらいのころである。ふと夜中に目が覚めてトイレに向かっていると、父と母が二人でこそこそと話しているのが耳に入ってしまった。


「シルヴィアはいつになっても魔法の才能に目覚めることがないわね」

「そうだな。後天的に魔法の才能に覚醒することなんてほとんどない。……なあ、本当にあいつは俺の子なのか?」

「ど、どういうことよ!?」


 普段穏やかな二人だったが、次第に険しい声になってくる。

 私は思わずその場で足を止めてしまった。


「だって他の娘たちは皆魔法の才能に目覚めている! それなのにシルヴィアだけ平凡なままというのはおかしいだろう!」

「そ、そんなこと私に言われても困るわ!」

「もしかしてお前、よその男の子じゃないだろうな!?」

「そんな訳ないでしょ!? いくらあなたでも言っていいことと悪いことがあるわ!」

「じゃあシルヴィアの無能をどう説明するんだ!」


 そこから先の会話は聞くに堪えず、私はその場を泣きながら走り去った。

 そしてその時の私の心に深く傷を残した。

 魔法の才能がなければ私は両親の子供にすらなれないんだ、と。


 それ以来私は毎日嫌いな魔法の練習に励むことにした。魔法というのは努力でどうにかなるものではないことが多い。基本的に持って生まれた魔力と先天的な適性がある人だけが努力で才能を伸ばすことが出来る。だから私の力は相変わらず平凡なままだった。


 その後私は十二でデルフィーラ学園に入学した。学園に入学した私はいきなり心が折れそうになった。クラスには私よりも魔法が上手い人は何人もいたし、その中には入学前に全く魔法の練習をしていないと語る人もいた。そして特にレミリアの力はその中でも特別なものだった。

 あの力さえあれば私はこんなことにならなかったのに。なぜあの力が私にないのか。気が付くと私はそんなことを考えるばかりになっていた。


 それでも学園に入学して一つだけ良かったことがある。それは王都に出てきたので、実家にいたころは触れられなかった色んなものと出会えたことだ。特に実家では本を読むか上手い人に習うぐらいしか魔法上達の方法はなかったが、王都にはもっと様々な選択肢がある。自然と私は学園帰りに制服を着替えて魔道具屋を周るようになっていた。


 しかし普通の魔道具では持ち主の魔力を劇的に上げるようなものはない。仮にあったとしてもかなり高価で、私の手が出る範囲ではない。私は実家が大きいから勘違いされがちだけど、親に愛されていないため自由になるお金は大してなかった。 


 だから次第に私が足を向けるのは盗品やいかがわしいものを扱う裏路地の店になっていった。二束三文の値段で売られている盗品の中に私の希望を叶えてくれるものはないだろうか、と思いながら私は治安の悪そうなところを徘徊する。

 もちろんそんなことを本気で考えていたというよりはどちらかというと現実逃避という面が大きかったと思う。私はそんなありもしない希望にすがりながら日々を送っていた。


 が、そんな風に裏路地を徘徊する私に声をかけてきたのが一人の女だった。彼女は黒ローブをまとい、フードで顔を隠していたが多分二十ぐらいの女性だと思う。


「お嬢ちゃん、貴族みたいだけどこんなところに何の用? ここはお嬢ちゃんみたいないいところの子が来るところじゃないよ」

「いいの。私は出来損ないの子だから」


 私が答えると、女はうふふ、とおかしそうに笑う。


「そうね。出来損ないの子であればここはお似合いかもね」


 もしクラスメイトに同じことを言われれば腹が立っただろうが、今は不思議と腹が立つことはなかった。もしかしたら私はこの女に、自分と同じ歪んだ人間の臭いを感じていたのかもしれない。

 それに彼女の言葉には、字面に反して嘲りの響きはなかった。


「それで、何の用?」

「私はレティシア。出来損ないのお嬢ちゃんは一発逆転のチャンスが欲しくないかしら」


 それが私と謎の女、レティシアとの出会いだった。

 怪しさ極まりない言葉ではあったが、不思議と私は彼女に惹き込まれていった。


「一発逆転のチャンス?」

「そう。私が最近開発した呪いの術式があって、それを使うと相手から魔力を奪い取ることが出来るの。でもそれがうまくいくかはよく分からなくて、試してくれる人を探しているって訳」


 それを聞いて私はすぐにレミリアのことを思い浮かべた。

 もしも彼女の魔力を全て自分のものに出来れば。本当にそんなうまい話があるかは分からない。とはいえ失敗したとしても元々だ。


「ねえ、それ私に試させてよ」

「お、やる気だね。それじゃあ使い方を教えてあげる」


 そう言ってレティシアは二つの小箱を取り出す。そこには二つの魔力の塊が入っていた。どちらも私が見たことないほどどす黒く、良くないものであることは明白だった。


「複雑なことを省いて説明すると、こっちが受信機で、こっちが発信機。だからお嬢ちゃんがこっちを取り込んで、相手にこっちを取り込ませればいっていう訳。ただ取り込ませるのは難しいからそこは頑張ってね」

「食べ物に混ぜるとかでも大丈夫?」

「そうね、出来るならそれがいいかもしれないわ。でも手作りのものを食べさせるなんてよほど仲がいいのね」

「……誰が、あんな奴なんかと」


 あいつのことを思い出して私は反吐が出そうになる。

 それを見てレティシアは苦笑する。


「まあいいわ。うまくいっても特に連絡とかはいらないから。何度も接触して怖い人に見つかってもつまらないし。私は勝手にお嬢ちゃんを監視しているから」


 そう言ってレティシアはその場から消えるように去っていった。最後の言葉が不気味ではあったが、もはや後には引けない。何より、魔力が手に入るのであれば他のことはどうなっても良かった。


 その後私は自分の分の魔力を飲み込み、レミリアには呪い入りのクッキーを作って手渡した。私が迫真の演技をすると彼女は素直に信じてくれたようで、呪いは無事発動した。

 ほっとした反面、私がレミリアに嫉妬の炎を燃やしているというのにレミリアは私にあっさり騙される程度にしか私のことを見ていないのだな、と思ってしまって少し寂しくなった。

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